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うつ病の症状を正しく理解する 〜医学と生活の両面から考える〜

こんな人に読んでほしい!
  • 最近、「気分が落ち込む」「何をしても楽しくない」状態が続いている方
  • ご本人やご家族の元気のなさ、変化が気になっている方
  • 「甘えなのか、病気なのか」で悩んでいるご本人・ご家族
  • 受診した方がいいのか迷っている方
  • うつ病について、できるだけ分かりやすく知りたい方
  • うつ病のある方を支える立場にある支援者(医療・介護・福祉・教育職)

うつ病とは

うつ病とは、単に一時的に気分が落ち込む状態を指すのではありません。さまざまな要因が重なり、心と体のエネルギーが枯渇して、日常生活や社会生活を営むことが難しくなる状態をいいます。

厚生労働省によると、日本人の約15人に1人が生涯のうちに一度はうつ病を経験するとされており1)、2020年代の現代社会において決して珍しい病気ではありません。むしろ、誰もが人生のどこかで直面しうる「心身のオーバーヒート」のような状態だと言えます。

私たちは日々、仕事や家事、育児、介護、人間関係、将来への不安など、多くのストレスにさらされています。通常であれば、一晩ゆっくり眠ったり、週末に趣味を楽しんだりすることで心身は回復します。

しかし、ストレスが長期間にわたって過剰にかかり続けたり、休息を取れない環境が続いたりすると、心身の回復機能が追いつかなくなります。その結果、バランスが崩れ、うつ病として症状が表面化してくることがあります。

かつて、うつ病は「心の弱さ」や「性格の問題」として片付けられることがありました。しかし、現在の医学的な知見では、うつ病は「本人の努力や気合で解決できる問題」ではなく、適切な治療と休息が必要な健康上の問題として位置づけられています2)


うつ病はどんな病気?症状とは

うつ病は、目に見えるけがとは異なり、外見から苦しさが分かりにくい病気です。一方で、脳という臓器の中で、感情・意欲・睡眠などを調整する働きに変化が起きていることが分かってきました。

脳と神経伝達物質のバランス

私たちの脳内では、無数の神経細胞が情報をやり取りすることで、感情、思考、意欲、睡眠などをコントロールしています。この情報の橋渡し役を担うのが「神経伝達物質」です。

うつ病に関係が深いとされる主な物質には、以下の3つがあります3,4)

うつ病に関係が深い主な3つの物質

  • セロトニン
    感情の波を穏やかに保ち、安心感に関わる物質です。低下すると、不安が強まり、些細なことで落ち込みやすくなることがあります。
  • ノルアドレナリン
    やる気や活動性に関わります。低下すると、取り組む意欲が出にくくなり、集中力が落ちることがあります。
  • ドーパミン
    楽しさや達成感に関わります。低下すると、好きだったことに興味が持てなくなり、喜びを感じにくくなることがあります。

強いストレスが長期間続くと、これらの物質がうまく働かなくなったり、受け皿となる神経細胞の感度が鈍くなったりします。

つまり、うつ病の状態とは、脳内の「心のエネルギーを循環させるシステム」が目詰まりを起こし、回復が追いつかなくなっている状態とも言い換えられます。

現代社会特有の要因

うつ病が身近になった背景には、現代特有のライフスタイルも関係していると考えられます。その理由の一つは情報の過多です。SNSやスマートフォンの普及により、私たちは他人の生活やニュースに触れる機会が増え、脳が休みにくい状況が生まれています。

さらに、オン・オフの境界が曖昧になりやすいということも、うつ病が身近になった原因の一つと言えるでしょう。リモートワークなどは便利な一方で、家にいても仕事の通知が届く環境は、心身を常に緊張させ、休息の質を下げる要因になることがあります。

こうした「休みにくさ」が積み重なると、回復力が落ち、うつ病の発症や長期化につながる場合があります。


うつ病の始まりは、とてもささい

うつ病は、ある日突然、激しい症状が現れるとは限りません。多くの場合、本人が「なんとなくおかしい」と感じる程度の、小さな変化から始まります。

うつ病の初期症状(例)

  • 朝、目が覚めたときに体が鉛のように重い
  • 以前なら楽しみだった予定が、ひどく億劫に感じる
  • 新聞や本を読んでも内容が頭に入ってこない
  • 献立を考える、服を選ぶなど「選ぶ・決める」ことに時間がかかる
  • 周囲の会話のスピードについていけず、取り残されたように感じる

これらは周囲から「少し疲れているのかな」、「やる気がないのかな」と見られ、本人も「もっと頑張らなくては」と無理をしがちです。

しかし、日本精神神経学会のガイドラインでも示されている通り2)、こうした不調が2週間以上ほぼ毎日続き、生活に支障が出ている場合は、脳が限界を知らせるサインである可能性があります。真面目で責任感が強く、周囲への配慮を欠かさない人ほど、自分の不調を隠して頑張り続けてしまいます。

その結果、ある日突然、糸が切れたように動けなくなるケースも少なくありません。

さらに、本人が「つらい」と言葉にする前に、行動や外見に変化が現れることもあります。

例えば、服のシワを気にしなくなったり、毎日同じ服を着るようになったり、入浴や身だしなみが億劫になるなど、身なりの変化がみられることがあります。会話では返事が短くなり、以前は楽しそうに話していた趣味の話題にも反応が薄くなることがあります。

また、飲酒量や喫煙本数が増えるなど、無意識のうちに不安や緊張を和らげようとする行動が目立つこともあります。仕事や家事でのケアレスミスが増え、「すみません」、「申し訳ありません」と必要以上に自分を責めるようになることも、変化の一例です。

こうした変化は、本人のやる気の問題ではなく、心身のエネルギーが落ちてきているサインです。

だからこそ、家族や同僚、身近な人が「いつもと少し違うな」と気づいたときには、責めるのではなく、「最近少し疲れていない?」、「無理していない?」とやさしく声をかけることが、早めの支えにつながります。周囲の気づきが、本人が一人で抱え込まずに済むきっかけになることも少なくありません。


うつ病の症状は「気分の落ち込み」だけではない

うつ病の症状は非常に多岐にわたり、人によって現れ方が異なります。大きく「精神症状(心の変化)」と「身体症状(身体の変化)」に分けられます。

うつ病の精神症状(心の変化)

うつ病の「精神の不調」を紹介します。

うつ病の精神症状

  • 興味や喜びの喪失:何に対しても興味が湧かず、楽しいと感じにくくなる。
  • 自責感と無価値感:すべてを自分のせいにし、「自分は価値がない」と強く思い込む。
  • 思考力の低下  :決断が難しくなり、簡単な作業にも時間がかかる。
  • 希死念慮    :苦しさから「消えてしまいたい」と考えることがある。

うつ病の身体症状(体にあらわれるサイン)

うつ病は「体の不調」として自覚されることも多いのが特徴です。

うつ病の身体症状

  • 睡眠障害   :寝つけない、中途覚醒、早朝覚醒、または過眠。
  • 食欲の変化  :食欲低下や過食。
  • 慢性的な疲労感:休んでも疲れが取れない、全身の倦怠感が続く。
  • 自律神経の乱れ:動悸、めまい、頭痛、肩こり、便秘・下痢、微熱など。

「体調が悪くて内科を受診したが、検査では異常がないと言われた」というケースの一部では、背景にうつ病が隠れていることがあります。これを一般に「仮面うつ病」と呼ぶこともあります。


診断と検査について

うつ病の診断で最も重要視されるのは、対話を通じた評価です。血液検査や画像検査だけでは判断できない部分が多いからです。医療機関では、概ね次の流れで診断が行われます。

① 問診

気分の落ち込みや意欲の低下、不眠や食欲の変化などの症状について、発症時期や持続期間、日常生活への影響を確認します。あわせて、最近のストレス状況や生活背景についても把握します。

② 質問票(心理検査)

症状の程度を客観的に把握するために、専門的な質問票を用いた心理検査を行うことがあります。これらは診断を単独で決めるためのものではなく、症状の状態を整理する補助的な手段です。

③ 身体的検査

甲状腺機能異常や貧血など、身体疾患によってうつ症状が生じていないかを確認するため、血液検査などを行うことがあります。

④ 総合的な判断

問診内容、質問票の結果、身体的検査の所見などを総合的に踏まえ、診断基準に照らし合わせながら慎重に判断が行われます。ひとつの検査だけで診断が確定するわけではありません。

受診を迷う方は「この程度で病院に行ってよいのか」と考えがちですが、早期に相談することで回復が早まる場合があります。つらさを言葉にして専門家へ伝えること自体が、回復の第一歩になります。


治療の考え方 〜薬だけに頼らない支援〜

うつ病の治療は、一つの方法だけで完結するものではありません。一般的には次の3つを組み合わせます5)

うつ病の治療

① 休養

脳を休めるために、仕事や家事などの負荷を一時的に下げます。

② 薬物療法

抗うつ薬などで神経伝達物質のバランスを整え、回復の土台を作ります。薬は「無理に元気を出すため」ではなく、「沈み込みすぎた状態から回復へ向かう足場を作るもの」です。

③ 心理療法

回復が進んだ段階で、再発予防としてストレス対処や考え方の整理(認知行動療法など)を行います。

近年では、生活習慣の改善やリハビリテーションの重要性も再認識されています。脳の回復力を支えるためには、十分な休養と、回復段階に応じた適切な活動再開の両輪が必要です。

最新の治療選択肢と「認知の歪み」

うつ病治療の選択肢は、近年少しずつ広がりつつあります。

たとえばTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)は、脳の特定の部位に磁気刺激を与えることで神経活動のバランスを整える方法で、薬物療法とは異なる仕組みで作用します。薬の副作用が心配な方や、薬だけでは十分な効果が得られにくい場合に検討されることがある治療法のひとつです。

また、症状が少し落ち着いてきた回復期に有効とされるのが認知行動療法です。

うつ病の状態では、物事の受け取り方や考え方に特有の偏りが生じやすくなります。たとえば、「完璧にできなければ意味がない」と考えてしまう全か無か思考や、「こうあるべきだ」と自分を厳しく縛るべき思考などがその一例です。

これらは性格の問題というよりも、脳の疲弊によって強まりやすい「思考の癖」ともいえます。認知行動療法では、こうした考え方のパターンに気づき、少しずつ柔軟な捉え方へと整えていくことで、気持ちの回復を助けるとともに再発の予防にもつなげていきます。


支援の基本的な考え方 〜「休む・整える・つながる」〜

回復の過程で大切にしたいキーワードは「休む・整える・つながる」です。

  • 休む
    本人は休んでいる間も「自分だけサボっているのでは」と責めがちです。支援者は「今は休むことが治療であり仕事(役割)である」と言語化し、安心して休める環境を整えることが重要です。
  • 整える
    回復期には、起床時間・食事・日光・軽い運動など生活リズムを少しずつ整えます。作業療法などでは、散歩や軽作業、簡単な家事などを通じて「できた」を積み重ね、回復の足場を作ります。
  • つながる
    孤立は再発のリスクになります。家族、友人、主治医、カウンセラーなど、誰かとつながっている感覚は強い支えになります。

また、本人を支える家族への支援も非常に重要です。うつ病のある人に対して、善意から「頑張って」、「しっかりして」と励ましたくなることがあります。

しかし、多くの場合、本人はすでに限界まで頑張った末に動けなくなっています。そのため、必要なのはさらに背中を押す言葉ではなく、「今は頑張らなくていい」、「休んでいい」という安心のメッセージです。

さらに、うつ状態のときは物事の見え方が悲観的になりやすく、判断力も低下しやすいことが知られています。退職や離婚、引っ越しなどの大きな決断は、できるだけ回復してから改めて考える方が安全です。周囲が「今は決めなくて大丈夫」と伝えることが、将来の後悔を防ぐことにつながります。


おわりに 〜うつ病は一人で抱えない〜

うつ病の最中には、「出口が見えない」、「この状態が続くのではないか」と感じられることがあります。気力や自信が低下している状況では、将来を前向きに考えることが難しくなるのも自然なことです。

しかし、うつ病は適切な治療と休養、そして周囲の理解や支援によって、回復へ向かうことが期待できる病気です。

大切なのは、頑張ることで解決しようとするのをやめることです。うつ病の発症は、心身への負担が積み重なった結果として生じている場合も少なくありません。まずは立ち止まり、心と体を休ませることが回復の土台になります。

また、ご本人やご家族がすべてを抱え込む必要はありません。医療や福祉の専門職、地域の相談機関など、社会には支援の仕組みがあります。つらさを言葉にして他者に伝えることは弱さではなく、回復に向かうための大切な行動です。一人で抱え続けず、必要に応じて支援を求めること。その選択が回復への一歩となります。

参考文献

1.厚生労働省(2023).心の健康づくり. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisaku_itiran/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/index.html

2.日本精神神経学会(2019).うつ病診療ガイドライン. https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/20190724.pdf

3.厚生労働省(2025).休養・こころの健康(e-ヘルスネット).https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary-summaries/k-mechanism

4.Nestler, E. J., et al.(2002).Neurobiology of depression.Neuron, 34(1), 13–25.

5.日本作業療法士協会(2022).精神障害領域における作業療法.https://www.jaot.or.jp/

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この記事の著者

瀬川 大

瀬川 大

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1986年兵庫県生まれ。養成校卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。臨床での経験を経て、教育と研究の道へ進む。現在は京都光華女子大学 看護福祉リハビリテーション学科 福祉リハビリテーション学科 作業療法専攻に勤務し、地域在住高齢者のフレイル予防や「価値のある活動」を軸とした介護予防プログラムの開発、スマートフォン活用による高齢者のQOL向上支援などに取り組んでいる。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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