PTとOTの違いを説明することは難しい
今、臨床で理学療法士(Physical Therapist: 以下PT)や作業療法士(Occupational Therapist: 以下OT)として働いているあなたなら、患者さんや友人、知人などから「PTとOTってどう違うの?」と数え切れないほど質問をされた経験があるのではないでしょうか。
特にOTの方は、この質問を受ける機会が多いかもしれません。そしてリハビリテーション職を志す学生の皆さんも、必ずしもその本質的な特徴を理解しないまま、この道を目指しているのではないでしょうか。
私自身、これまで作業療法士として臨床と教育の両現場で働いてきました。その中で数多くの高校を訪問し、「リハビリテーションとは何か」、「PTとOTの違いは何か」といった話をしてきました。また、所属大学のオープンキャンパスに来てくれた高校生にも同様の説明を繰り返してきました。振り返れば、これまでに何百人という高校生を相手にしてきたと思います。
今回は、そうした経験を踏まえながら、PTとOTの違いをリハビリに馴染みのない方にも理解しやすく、そして心に残る形で伝えるにはどうすればよいのかについてお話したいと思います。
この内容は、現役のセラピストが患者さんやご家族に説明するとき、若い世代がリハビリテーションの専門性を理解するとき、さらには他職種がPTやOTの専門性を理解するときにも役立つものになると考えています。
「人間らしさ」と「その人らしさ」を支える仕事
まずは少し小難しく感じられるかもしれませんが、日本理学療法士協会と日本作業療法士協会が公式に示している定義からそれぞれの特徴を考えてみましょう。
日本理学療法士協会のホームページでは、理学療法について次のように説明されています。
「理学療法とは、病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に、運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法です1)」(日本理学療法士協会ホームページより)」。
一方で、日本作業療法士協会のホームページでは、作業療法についてこのように定義されています。
「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」2)
(日本作業療法士協会ホームページより)」。
「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す2)(日本作業療法士協会ホームページより)」。
いかがでしょうか。専門用語が多くやや堅苦しく感じられるかもしれませんが、私はこの定義はむしろ本質をよく表していると感じています。はっきりしているのは、PTは“運動機能の維持・改善”を目的としているのに対し、OTは“人々の健康と幸福を促進すること”を目的としているという点です。これは非常に大きな違いです。
言い換えれば、PTは関節の動きや筋肉の働きなど、身体の機能改善を中心に支援する身体機能を高めるスペシャリストです。一方でOTは、対象者の“健康と幸福”という、より広い概念をゴールに据えており、そのため対象となる人の範囲も広く、支援方法も多様です。
たとえば、学校に通えなくなった引きこもりの子どもに対して、その子が健康で幸せな生活を取り戻すためにありとあらゆる必要な方策を考えます。運動療法を行うかもしれませんし、カウンセリングを通した心理的な支援や、場合によっては本人ではなくその主要な環境要因である親御さんを支える手立てを考える必要もあります。つまり、その人の状態に寄り添いながら暮らしを再構築するスペシャリストがOTなのです。
ところで、この記事を書いているとき、私の恩師の言葉をふと思い出しました。それは次のようなものです。
理学療法はその人の“人間らしさ”を取り戻す仕事であり、作業療法はその人の“その人らしさ”を取り戻す仕事である。
理学療法はその人の“人間らしさ”を取り戻す仕事であり、作業療法はその人の“その人らしさ”を取り戻す仕事である。この言葉は、私の中にすっと落ちました。
なぜなら、人は痛みや動作困難によって立ち上がれなくなると、自分の主体的な行動が制限され、人間らしい生活が奪われてしまいます。
これを改善し、“人間らしさ”を取り戻すのがPTです。そして、人間らしさを取り戻した人が今度は“自分らしい生活”を営んでいく、その価値観に沿った日常を支えるのがOTだと考えることができます。
PTとOTの違いをどのように説明するとよいか
それでは、いよいよ「リハビリに馴染みのない方に、どのようにPTとOTの違いを伝えればよいのか」というお話に入りましょう。私が意識しているのは大きく2つのポイントです。
1つ目は、具体的な事例を用いてイメージをもってもらうこと、2つ目は、活躍できるフィールド(働く場)の違いを伝えることです。
1.事例を用いて伝える
私はよく、高校生に説明するときに、臨床で実際に担当した「Aさん(当時19歳、男性)」のケースを例に挙げます。少し長くなりますが、その語りかけを再現してみましょう。
「これから皆さんに、PTとOTの違いを考えてもらうために、私が担当した患者さんのひとりであるAさんのお話をします。
Aさんはプログラマーを目指して専門学校に通っていた19歳の男性でした。Aさんはアルバイト先の工場で、空き缶を大量に潰すプレス機の作業ラインで働いていました。ところがある日、機械トラブルが起きてしまい、プレス機に巻き込まれて膝の少し上から両脚を潰されてしまう大事故に遭ってしまったのです。
医学的に説明すると、身体の組織は圧迫され壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)が進むと命に関わります。
そのためAさんはやむなく両脚を切断する手術を受け、2週間後から私(OT)とPTでリハビリを始めることになりました。しかし、若くして両脚を失った現実はすぐには受け入れられません。Aさんは毎晩のように泣きながら「もう生きていたくない」と口にし、とてもリハビリに前向きになれる状態ではありませんでした。
そこで最初に関わったのがOTである私です。OTは心身両面から人を支える専門職であり、医学や心理学の知識を活かして、Aさんがまず今の自分の状態を受け入れられるように心理的なサポートを行いました。気持ちが整理され、少しずつ前を向けるようになって初めて、PTが本格的に関わり始めます。
PTは身体機能に特化した専門家です。Aさんの新しい身体の状態を評価し、筋力をつけ、関節を動かし、義足を使って再び歩くための訓練をしていきます。義肢装具士と協力して義足を作成し、何ヶ月にも及ぶ地道な歩行練習を支える、これは身体機能のスペシャリストであるPTだからこそできる支援です。
やがて病院生活に慣れ、歩行練習が進んできた頃、リハビリの主な役割は再びOTへと移っていきます。なぜなら、たとえPTのサポートで平行棒の中を歩けるようになっても、それだけでは生活に戻ることはできないからです。
皆さんも想像してみてください。リハビリ室の中で周囲に支えられながら動けても、それを生活の中でどう活かすのかがわからなければ、自宅で暮らしていくことは難しいのです。
ここからがOTの本番です。OTは暮らしを支える専門家として、歩行や筋力といった身体機能をどう生活に結びつけるかを一緒に考えていきます。Aさんの場合、退院後にまず必要なのは自宅での生活です。トイレや入浴、調理、洗濯、買物、通学など、これらすべての生活行為は、PTと培ってきた身体機能とOTとの実際の生活訓練を通して可能になります。
さらにAさんは、将来プログラマーとして働きたいという大きな目標を持っていました。両脚を失ったことで復学に強い不安を抱えていましたが、OTである私は彼がもう一度復学できるようにサポートしました。
具体的には、長時間のパソコン作業を無理なく続けられるように座位姿勢や机・椅子の高さを調整したり、義足や車いすでキャンパス内を安全に移動できるように実際に一緒に練習をしました。こうした生活や社会参加に結びつくサポートは、OTの専門性がもっとも発揮される場面です。
繰り返しになりますが、たとえ病院内で義足を使って歩けるようになっても、それをトイレに行く、料理をする、そして学校に通い学ぶ、といった日常生活や社会活動に結びつけなければ、本人の本当の回復にはつながりません。
このように、PTとOTは独立した業務体制ではなく、それぞれの専門性を生かしながらリレーのように役割をつないでいきます。Aさんの場合、PTが身体機能を維持・改善させ、歩く力を取り戻すサポートをし、OTがその力を暮らしや学びに活かすサポートをする。その両輪が揃って初めて、Aさんは再び社会に戻っていくことができるようになります。
といった感じでしょうか。だいたい高校生に話すときは、このエピソードを15分ほどでお話しします。具体的な事例を通してリハビリテーション領域の臨床と、PTとOTの役割分担がイメージできるため、学生からの反応はとても好感触です。「なるほど、PTは体を動かす力を支える専門家で、OTはその力を暮らしや学びに活かす専門家なんですね」といった感想を聞けることも多いです。
もちろん、説明時間が限られている場合にはもっと短縮して話すこともできます。大切なのは、抽象的な定義をそのまま伝えるのではなく、聞き手が自分の生活に重ね合わせてイメージできるように話すことです。つまり、「相手がどんな場面を想像できるか」を意識することを心がければ、患者さんにも高校生にも、そしてリハビリに馴染みのない一般の方にも、PTとOTの違いをわかりやすく届けられるのだと思います。

2.働くフィールドの違いを伝えること
次に、PTとOTが主に活躍するフィールドの違いについて触れるとよいでしょう。患者さんやご家族にとっては、自分がどんな場面でリハビリと関わるのかを理解する助けになりますし、リハビリテーションの仕事に興味がある学生にとっては、将来自分が働くならどんな場面かを具体的にイメージするきっかけになります。
PTがメインで働くフィールドは、医療機関の中でも特に病院やクリニックです。急性期病院や回復期リハビリテーション病棟などで、手術やけがの直後から身体機能の回復をサポートします。整形外科や脳卒中後のリハビリテーションを担当することが多く、「理学療法士=病院でのリハビリ」というイメージを持たれる方も少なくありません。
しかし最近では、スポーツ分野でアスリートの身体機能を維持・強化する役割や、予防医療としてフィットネスクラブや地域で健康づくりに関わる場面も増えています。
OTがメインで働くフィールドは、医療にとどまりません。一般病院やクリニックに加えて、精神科病院、介護保険施設(デイサービスや老人保健施設)、特別支援学校や就労支援センター、フリースクールなど幅広い領域で活動しています。
前述のとおり、OTは暮らしや社会参加を支える専門家ですから、病院での機能回復だけでなく、退院後の生活環境の調整や福祉制度の活用支援などにも関わります。例えば、地域の就労支援センターで、精神障害や発達障害のある方が「自分らしく生活する」ことや、自閉症の子どもが学校に行けるようになる就学支援などもOTの重要な役割です。
ざっくりまとめると、PTは身体機能を向上させることに特化した専門家として医療やスポーツの場で活躍し、OTは生活と社会参加を支える専門家として医療・介護・福祉・教育など幅広い場で活動する、という整理ができます。こうした働くフィールドの違いを伝えると、聞き手は「どちらも大切だけれど、活躍する場所や役割は少し違うのだな」と理解しやすくなるでしょう。
おわりに
PTとOTの違いは、一見すると定義だけではわかりにくいものです。だからこそ、具体的な事例や働くフィールドを通して説明することで、相手にイメージをもってもらいやすくなります。大切なのは、聞き手が「自分の生活」や「将来」に重ね合わせて理解できるように伝えることです。この記事が、PTとOTの違いを説明する際のヒントになれば幸いです。
【参考文献】
1)日本作業療法士協会, 作業療法の定義, https://www.jaot.or.jp/about/definition/?utm_source=chatgpt.com
2)日本理学療法士協会, 理学療法とは, https://www.japanpt.or.jp/about_pt/therapy/?utm_source=chatgpt.com
