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家族の困りごとを見逃さない。家族を支えるセラピストに必要な視点とは

家族の困りごとを見逃さない。家族を支えるセラピストに必要な視点とは?
こんな人に読んでほしい!
  • 介護する家族の疲れや不安にどう寄り添えばよいか悩んでいるセラピストの方
  • 家族支援の実際や関わりのヒントを知りたい方
  • 在宅ケアや地域支援に携わる医療・福祉専門職の方々へ

「介護を頑張りすぎて、気づけば自分が疲れきっていた」、「気持ちはわかるのに、なんて声をかけたらいいのかわからない」、「そばにいたいけど、どう関わればいいのか迷ってしまう」、そんな家族の悩みを見聞きしたことはありませんか。厚生労働省の調査では、介護を担う家族の約7割が「心身の疲労」を感じ、4人に1人が「孤立感を抱えている」と報告されています1)

今回は、家族を支えるセラピスト(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など)の役割と、そのために必要な「視点」について考えます。


家族を支えるということ

病気や障がいを持つ人を支えるうえで、家族の存在は欠かせません。しかし、介護の長期化や介護を担う家族の高齢化により、家族自身が疲弊し、支援を必要とする「介護者のケア」が新たな課題となっています。

厚生労働省は、「本人の生活を支える支援」と「家族の生活を支える支援」はどちらも欠かせないとし、介護者の心身の健康や孤立の防止を大切なテーマに掲げています1)

また、日本作業療法士協会は、作業療法を「人々の『する』『できる』『したい』を支える専門職」と定義しています2)。この支援の対象には、本人だけでなくその「家族」も含まれます。つまり、セラピストは、本人の機能訓練だけでなく、家族の生活や思いにも寄り添い、暮らし全体を見渡しながら関わることが求められます


家族の困りごとはどこにある?

家族の困りごとは、単なる身体的な介護の負担にとどまりません。「将来への漠然とした不安」、「日常生活に追われ自分の時間が持てない」、「大切なはずの家族と、うまく関われない」といった心理的・社会的ストレスも、深刻な問題として表面化しています3)

また、厚生労働省の報告では、介護をきっかけに家族が仕事や地域とのつながりを失うことが、社会全体の課題になっていると指摘されています1)。その背景には、「身体的・精神的負担の限界」や「支援が得られない環境」といった現実があります。

このような「見えにくい困りごと」に早期に気づくためには、セラピストの観察力・共感力、そして信頼関係の構築が欠かせません。


セラピストに求められる3つの視点

家族支援に特別な技術が必要なわけではありません。むしろ、日々のさりげない対話や、ささやかな気づきを通じて築かれる信頼関係こそが、家族にとっての安心や生活の再生につながる重要な基盤です。

そのような支援を実践するうえで、セラピストに求められるのが、「傾聴」「協働」「前向きな視点の再発見」の3つの視点です4)これらは、家族の声なき声に耳を傾け、共に支え合う関係を育み、生活の中に前向きな光を取り戻すための基本姿勢であるといえます。

① 傾聴:言葉にならない思いを受けとめる

家族の「愚痴」や「ため息」は、単なる疲労の表れではなく、背景に不安・孤独・罪悪感といった複雑な感情が潜んでいることがあります。セラピストは、そうした声にならない思いに敏感になり、「正しさ」や「アドバイス」ではなく「共感」をもって向き合うことが大切です。

評価や目標設定を急ぐ前に、まず「話を聴く」ことを大切にすることで、家族自身が感情を整理し、少しずつ前向きな気持ちを取り戻すきっかけになるかもしれません。

② 協働:家族を「支援のパートナー」に

支援の場では、家族が「手伝う人」や「指示を受ける人」として位置づけられがちですが、セラピストは家族を「支援を共に考え、進めていくパートナー」として捉える視点が大切です。

目標設定や日常生活の支援策を家族と一緒に考えることで、家族が自分の役割を納得して受け止められるようになり、支援も続けやすく、実行しやすくなります。また、セラピストから「できていますね」「こんな工夫、素晴らしいです」といった肯定的フィードバックを受けることで、家族の自己効力感も高まるかもしれません。

③ 前向きな視点の再発見:「できること」に目を向ける

介護の過程では、「できなくなったこと」や「失われていくこと」に意識が集中しやすく、本人も家族も否定的な感情にとらわれがちです。しかし、セラピストは、そうした状況の中にあっても「今できていること」、「これからも続けられること」を共に見つめ直す存在です。

たとえば、「庭の花に水をやる」「郵便物を一緒に取りに行く」「洗濯物をたたむ」といった小さな日常の行動の中にも、「できること」は確かにあります。そうして「できること」を一緒に見つけ出し、その意味や価値を再確認することが、本人の自己効力感や家族の絆を取り戻す第一歩となります。このように、できることに目を向ける支援は、家族にとって再び歩み出す力を育む大切な関わりです。


事例から学ぶ家族支援の実際

たとえば、脳卒中後の利用者を在宅で介護していた家族のケースです。

家族は、夜間の見守りにより慢性的な睡眠不足となり、精神的にも肉体的にも限界を感じていました。セラピストはまず、家族の生活全体を丁寧に聴き取り、「本人が必要とする支援のタイミング」、「家族が自分の時間を持てる隙間」、「誰がどの役割を担っているのか」といった点を一緒に「見える化」しました。

そして、訪問看護やデイサービスの導入、夜間センサーの活用などの仕組みを組み合わせながら、「家族の休息の確保」「安心して任せられる環境づくり」を進めました。 さらに、本人と家族の関係性の再構築にも焦点を当て、2人がともに楽しめる園芸活動を生活の中に取り入れました。

花に水をやる、季節の植物を育てるといった共同作業を通して、自然と会話が生まれ、家族の中に笑顔とゆとりが戻ってきました。「介護する・される」という一方向的な関係から、「生活を共に楽しむ関係」へと変化していったのです。 

このように、家族支援とは単なる「疲れを癒す支援」や「介護スキルの指導」ではなく、日常生活そのものを再構築し、関係性を見つめ直していく支援です。家族の中には、困難な状況の中でも日々を続けていく力があります。セラピストは、その力を見つけ出し、共に日常を立て直していく存在です。

家族を支えるためにできること

厚生労働省は、「介護者支援体制の地域展開」を重点施策として掲げています1)。家族会や相談窓口の充実、介護者の休息(レスパイト)機会の確保、そして仕事と介護の両立支援。これらは、今後の地域包括ケアを支える重要な柱です。

セラピストもまた、本人だけでなく家族の「暮らしの再設計」を支える実践者として、その一翼を担います。家族を支援する際には、身体的な負担だけでなく、心理的なストレスや社会的孤立といった多面的な課題に目を向けることが求められます。

たとえば、家族が「自分のことをわかってもらえた」と感じられるような面談孤立を防ぐための家族会や地域の支援機関との連携、そして「無理せず頼っていい」というメッセージを伝えることも、立派な支援の一つです。さらに、介護方法の指導にとどまらず、「相談できる」「休める」「笑顔が戻る」ための仕組みづくりが欠かせません。

セラピストには、目の前の生活だけでなく、その人の人生や家族の背景を理解し、共に悩み、共に歩む姿勢が求められます。

おわりに ―「支える」を、共に育てる

家族支援は、特別な技術を必要とする特別なケアではありません。セラピストは、本人のリハビリだけでなく、家族の思いや暮らしにも寄り添いながら、共に「生活を立て直す」存在です。作業療法士をはじめとするリハビリ専門職にとって、それは「その人らしい生活」を支える実践の一部でもあります。

「最近どうですか?」、「ちゃんと休めていますか?」そんな何気ない声かけが、家族にとって大きな安心と希望になります。疲れているのは、本人だけではなく、支える家族も同じです。介護者の笑顔が、本人の元気を育て、その輪が地域全体のあたたかさにつながっていきます。

セラピストとして、今できる一歩からはじめましょう。家族と共に「希望のある生活」を少しずつ、丁寧に築いていくことが、私たちにできる最大の支援です。

【参考文献】

1)厚生労働省.『家族介護者支援マニュアル』 2023.https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001236476.pdf?utm_source=chatgpt.com

2)日本作業療法士協会.『作業療法士の定義と役割』2023.https://www.jaot.or.jp/about/definition/

3)Noguchi, T., “et al. (2020). The association between family caregiver burden and subjective well-being and the moderating effect of social participation among Japanese adults: A cross-sectional study. Healthcare, 8(2), 87. https://doi.org/10.3390/healthcare8020087

4)Nagai, T., Ishii, Y., Kohiyama, K., Takenaka, T., & Yamada, T. (2021). Development of the final version of the occupational adaptation questionnaire for family caregivers. Hong Kong Journal of Occupational Therapy, 33(2), 82–89.

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この記事の著者

瀬川 大

瀬川 大

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1986年兵庫県生まれ。養成校卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。臨床での経験を経て、教育と研究の道へ進む。現在は京都光華女子大学 看護福祉リハビリテーション学科 福祉リハビリテーション学科 作業療法専攻に勤務し、地域在住高齢者のフレイル予防や「価値のある活動」を軸とした介護予防プログラムの開発、スマートフォン活用による高齢者のQOL向上支援などに取り組んでいる。

この記事の監修者

川﨑 一平

川﨑 一平

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1987年熊本県生まれ。大学卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。2014年から2年間、青年海外協力隊としてマレーシアの障害者支援NGOで活動し、異文化の中でリハビリや生活支援に携わる。帰国後、東京大学大学院に進学(国際協力学)。2019年より京都橘大学でアカデミックキャリアをスタートさせ、2025年に静岡大学大学院で博士号を取得(情報学)。現在は福岡の令和健康科学大学に勤務し、在宅環境を3Dで表現して生活支援の評価に役立てる研究や、リハビリテーション領域におけるAI技術の応用研究に取り組んでいる。プライベートでは1児の父として子育てに奮闘中。座右の銘は「行動は最良の選択」。大学教育のほか、フリーのOTとして臨床・執筆・講演・事業コンサルティング等にも取り組んでおり、ご依頼はippei.kawasaki.615@gmail.comまで。

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