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カテゴリー: セラピスト向け
タグ: 有識者記事, 言語, その他(6件)

文化と言語の壁を超えるリハビリテーション実践

言語と文化の壁を超えるリハビリテーション実践(仮)
こんな人に読んでほしい!
  • 外国の方へのリハビリ対応に不安を感じているセラピストの方
  • 文化や言語の壁がある場面で「どう支援すればいいのか」を知りたい医療・介護職の方
  • これから多様な背景をもつ人々を受け入れる準備をしたい方

はじめに

訪日客・在留外国人が増えるいま、医療やヘルスケアの現場では、言語や文化の違いは避けて通れないという現状があります。「言葉が通じるかな」、「文化の違いで失礼にならないかな」、外国の方を前にすると、そんな不安を感じやすいと思います。

本稿では、筆者の経験を交えながら、現場で通じるリハビリテーション支援のポイントをお伝えしたいと思います。


なぜいま外国人へのリハビリテーション対応が必要なのか

2024年の訪日客は、円安や国際イベント(万博など)を背景に、過去最高の3,687万人となり1)、2025年もその勢いは継続しています。また、在留外国人は2024年に約358万9千人と過去最高を更新し2)、医療やヘルスケアの各場面で、外国の方に出会う機会は確実に増えています

日本には、外国人患者受入れ体制を第三者評価するJMIP認証制度(Japan Medical Service Accreditation for International Patients)がありますが3)、認証施設も年々増えています4)。今、医療機関はかつてないほどに外国人対応を迫られているといえ、医療アクセスへの公平性という観点からも、セラピストの異文化に応答する力が求められていると言えます5)


私の体験談

筆者は20代の頃、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊に参加し、2年間マレーシアのNGOで作業療法士として活動していました。英語とは無縁の生活からのスタートだったため、着任当初は現地の人が何を話しているのかも分からず、そして文化の違いに戸惑い、時には苦い思いもしました。

いま、日本の病院や施設にも外国の方が来院・入院する機会が増えています。自分が外国の方にリハビリテーションサービスを提供する日が来るかもしれない、そう考えると不安を覚えるセラピストも多いでしょう。以下ではまず、私の体験を交えながら、現場で役立つ視点を示します。

図 1 発展途上国のスラム地域でのボランティア活動

その人の日々の暮らしに寄りそうことから

私は、言葉の違い以上に文化や信仰の違いを理解することが、リハビリ提供の成否を左右すると感じています。たとえば食事の仕方や異性への接し方などには、十分な配慮が必要です。

マレーシアで勤務していた頃、子どもの食事訓練を担当することがよくありました。脳性麻痺で指の動きが難しい子どもや、自閉スペクトラム症の子どもが対象でしたが、彼らはテーブルと箸では食事をしません。床に器を置き、地べたに座って手で食べるのが日常です。これは当時の私にとって衝撃でした。日本で当然と思ってきた日常生活動作(ADL)の前提が、国や地域によってまったく異なるのです。麺類でも肉料理でもカレーでも、彼らは器用に指を使って食べます。

もちろん、セラピストとして「うまく食べられない人にどう教えるか」を考える必要があります。しかし、日本で育った私にはその方法が最初は分かりません。そこで私は、自分自身も現地では手で食べることにしました。相手の文化背景を知らずにリハビリを進めることは難しい、この学びは今も変わりません。

図 2 右手でカレーを食べる現地の人々

宗教的背景も非常に重要です。マレーシアはイスラム教徒が多く、一日5回の礼拝があります。目標設定の場面では「礼拝の動作ができるようになりたい」という希望を多く聞きました。礼拝は、経典(コーラン)の一節を唱え、立つ→お辞儀→ひざまずく→額を床につけるといった一連の動作を繰り返すもので、1回およそ15分かかります。脳血管障害やパーキンソン病の方がこれを毎日続けるには、体位変換の工夫や環境調整が欠かせません。私は実際にモスクに同行し、空間や動線を一緒に確認することもありました。

図 3 モスクで礼拝をするイスラム教徒

これらは一例にすぎませんが、手で食べる文化や礼拝動作の重要性などは、日本で暮らしているだけでは想像しづらい視点です。これから外国の方にリハビリを提供するときは、相手の出身国がどこであっても、自分の固定観念をいったん横に置き、その人の文化背景を理解することから始めることをおすすめします


言葉の壁をどのように超えるのか

日本の医療機関には、さまざまな国の方が来院されます。英語で通じることもありますが、そうでない場面も少なくありません。リハビリでは「腕を上げてください」、「痛みはどうですか」など、言葉でのやり取りを避けては通れません。ここでは、リハビリテーション臨床で無理なく取り入れることができる現実的な方法をまとめます。

① 通訳を同席させる(対面/電話/ビデオ)

最も確実で安全なのは、専門の通訳者を介する方法です。準備のない英語や身ぶりで乗り切ろうとすると、言い間違いが不安につながり、信頼関係を損なうことがあります。通訳が関与した方が、治療効果が高いことはすでに研究でも明らかになっています6)

医療機関によっては、すでに通訳を常駐させているところもあります。現場での対面での同席が難しければ、電話やビデオ通訳でも十分機能します。事前に聞きたい要点(症状・既往・注意点・目標など)を準備しておくと、短時間でも要領よく進められます。一方で、最も確実な手段とはいえ、手配や費用などの負担があるのも事実です。

② テクノロジーを上手に使う

次の選択肢は、テクノロジーにうまく頼ることです。いまは多言語コミュニケーションを支援する機器や、アプリケーションが充実しています。例えば、モバイル型の翻訳機や、スマートフォンの翻訳アプリなどは極めて有用です。短い指示や確認であれば、準備のない英語でやり取りするよりもよほど有用です。最近では、国際学会のポスター発表の会場などでは、出身の異なる参加者同士がお互いのスマートフォンを見せ合いながら、意思疎通を図る光景をよく目にします。

③ コミュニケーションの「見える化」

言葉が通じにくいときほど、目で見て分かる材料が力を発揮します。次のような準備をしておくと安心です。

・指さしボード
「痛い/ しびれる/ だるい/ 休みたい」など、よく使う言葉を絵やアイコンで示した用紙1枚を用意しておきます。患者さんに指さしで意思表示してもらえば、最初のやり取りがスムーズになります。

・痛みの“見える化”
0〜10の数直線(visual analogue scale; VAS)、顔の表情のイラスト(フェイススケール)、ボディマップ(体のイラスト)などを用いると、痛む場所や程度について言葉を介さずに共有することができます

・見本から模倣させる
言葉で細かく説明するより、セラピストが一度ゆっくり実演し、患者さんに同じ動きを真似してもらいます。必要に応じて、スマホやタブレットで動画として保存してもらうと、より効果的です

・写真/イラスト/動画の利用
ホームエクササイズの内容などは、言葉で説明して覚えてもらおうとせず、写真1〜2枚に短い説明(回数・秒数など)を加え、カードにして手渡しますQRコードで短い動画にアクセスできるようにしておくと、家庭でも迷いにくく、さらによいですね。


おわりに

異なる言語や文化背景をもつ人にリハビリテーションを行うことは、最初は難しく感じられるかもしれません。しかし本質は、特別なスキルではなく「相手を理解しようとする姿勢」にあります。文化や宗教、生活習慣を知ろうとすること、伝えたいことを分かりやすく“見える形”にすること、そして小さな配慮を積み重ねること、それらが信頼関係を育み、良いリハビリの第一歩になります

今回紹介させていただいた内容は、どれも外国の方に対するリハビリテーション現場で重要となる支援のポイントです。ぜひ、できることからひとつずつ取り入れてみてくださいね。

参考資料

  1. 日本政府環境局(JNTO): 訪日外客数(2024年12月および年間推計値), https://www.jnto.go.jp/news/press/20250115_monthly.html
  2. 出入国在留管理庁:令和6年6月末現在における在留外国人数について, https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00047.html
  3. 外国人患者受入れ医療期間認証制度, https://jmip.jme.or.jp/index.php
  4. 一般財団法人 日本医療教育財団:JMIP <外国人患者受入れ医療機関認証制度> 認証の意義と活用事例, https://internationalpatients.jp/wp-content/uploads/33c2243c797bea01edcf2012a0f8d856.pdf?utm_source=chatgpt.com
  5. 田中博子, 荒木田美香子: 医療者のCultural Sensitivityの概念分析, 日本看護科学会誌, vol. 39, p. 221-226, 2019.
  6. L. S. Karliner, E. A. Jacobs, A. H. Chen, and S. Mutha, "Do Professional Interpreters Improve Clinical Care for Patients with Limited English Proficiency? A Systematic Review of the Literature," Health Services Research, vol. 42, no. 2, p. 727-754, 2007.

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この記事の著者

川﨑 一平

川﨑 一平

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1987年熊本県生まれ。大学卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。2014年から2年間、青年海外協力隊としてマレーシアの障害者支援NGOで活動し、異文化の中でリハビリや生活支援に携わる。帰国後、東京大学大学院に進学(国際協力学)。2019年より京都橘大学でアカデミックキャリアをスタートさせ、2025年に静岡大学大学院で博士号を取得(情報学)。現在は福岡の令和健康科学大学に勤務し、在宅環境を3Dで表現して生活支援の評価に役立てる研究や、リハビリテーション領域におけるAI技術の応用研究に取り組んでいる。プライベートでは1児の父として子育てに奮闘中。座右の銘は「行動は最良の選択」。大学教育のほか、フリーのOTとして臨床・執筆・講演・事業コンサルティング等にも取り組んでおり、ご依頼はippei.kawasaki.615@gmail.comまで。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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