はじめに
私が理学療法士として働く中で、常に強く実感してきたことがあります。それは、多くの方が「どこでリハビリを受けるか」よりも、「誰からリハビリを受けたいか」 を重視しているという事実です。
技術や設備が整っていることはもちろん大切ですが、最終的に利用者様が選ぶ基準は、その人の人生に向き合ってくれる担当者そのものにあります。
また、現場で働く理学療法士・作業療法士の仲間を見ていても、同じ傾向が見られます。「どの職場に行きたいか」以上に、「誰と一緒に働きたいか」、「誰の下で成長したいか」 を基準に進路を選ぶ人が多いのです。リハビリという対人専門職において、「人に選ばれる」ということは、利用者にも働く側にも共通して重要なテーマであるといえます。
本記事では、「セラピストとして選ばれるために必要なこと」というテーマのもと、人として信頼されるために必要な要素が、どのように臨床・組織・キャリアに影響するのかを整理しながら深掘りしていきます。
それは、より良い職場環境づくりやチームビルディングにつながるだけでなく、最終的には、利用者様にとって価値あるリハビリサービスを提供することにも確実に寄与すると考えています。
選ばれるセラピストの本質 〜人柄と関わり方がつくる好循環〜
利用者様や組織に選ばれるセラピストに共通しているのは、やはり 「人としての魅力」 です。専門的な技術や知識が不可欠なのは言うまでもありません。
しかし実際には、それ以上に、「この人だからリハビリを受けたい」や、「この人と一緒に働きたい」と思ってもらえる人柄や関わり方こそが、クライアントとスタッフを自然と引き寄せる力になります。
魅力的なセラピストの周囲には、信頼してくれる利用者様や、気持ちよく協力してくれるスタッフが集まります。すると、コミュニケーションが円滑になり、職場の雰囲気やリハビリ介入の質が向上していくという好循環が生まれます。
だからこそ、私たちは、「どこの施設で働くか」、「どんな設備があるか」だけで職場を選ぶのではなく、「誰と働きたいか」、「誰の元で学びたいか」といった人の要素をより重視すべきです。利用者様も働くスタッフも、最終的には「人」で選んでいるのです。
人間関係の質こそ働き続けられるかの分岐点
「人としての魅力」や「誰と働くか/誰の下で働くか」という観点は、単なる主観的な好みではありません。実際の離職・転職データからも、その重要性が明確に裏付けられています。
リハビリテーション職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)を対象とした縦断研究では「職務満足度が低いこと」が、その後の離職リスクと有意に関連することが報告されています。
また、職場での「人間関係が良くない」、「上司や先輩との関係にストレスを感じる」といった要因が離職理由として頻繁に挙げられています。これは、日常の関係性の質が働き続けられるかどうかを大きく左右することを示しています。
私たちが日常の中で 「この人と働きたい」 と感じる直感は、決して思い込みではなく、研究データとも一致する合理的な判断です。
だからこそ、「誰と働くか」、「誰の元で成長するか」、「誰と関わるか」を重視することは、利用者様から選ばれ、スタッフからも「共に働きたい」と選ばれるセラピストになるための、本質的で実践的な視点だと言えます。
人としての魅力の正体は「信頼」
「人としての魅力とは何か」、これは私自身が臨床や組織で働く中でずっと考えてきた問いです。私の結論はとてもシンプルで、「魅力の正体は、相手からの信頼である」 ということです。
利用者様がリハビリを受けるということは、言い換えれば、自分のこれからの生活や将来を担当セラピストに託す行為です。であれば、「この人なら、自分の未来を任せたい」と思える相手を選ぶのは自然なことです。
逆に、言動に一貫性がなかったり、誠実さが感じられなかったりする相手に、自分の身体や生活を委ねたいとは思えません。
大切なことは、どれだけ相手に真摯に向き合い、丁寧に耳を傾け、親身に寄り添おうとしているかという、人間的な関わりの質です。こうした姿勢の積み重ねが、利用者様にとっての信頼を形づくり、その人の魅力として映ります。
この考えは、働く側にも同じように当てはまります。会社やチーム内で、「この人についていきたい」、「この人から学びたい」思われる人は、他者への誠実さと信頼を裏切らない行動を日々積み重ねているものです。
逆に、上司から見た部下も同様です。「この人なら仕事を任せられる」、「一緒に働きたい」と思える人は、信頼に値する態度や行動を日々示しています。こうした信頼の循環が、組織力を高める核心部分です。
セラピストの「向き合う力」
リハビリの現場では、患者様・利用者様に対して真摯に向き合うセラピストが数多くいます。しかし一方で、利用者様には丁寧に向き合えるにもかかわらず、職場内ではその姿勢を十分に発揮できない人も少なくありません。これは決して能力の問題ではなく、「向き合う力を職場に応用する意識」の問題だと感じています。
私たちは日頃、利用者様が抱える課題に向き合い、その改善の道筋を探し、寄り添いながら生活をより良い方向に導くための提案を行っています。この専門性は、本来であれば 職場の人間関係にもそのまま応用できる力です。利用者様の疾患や障害に向き合うことと、仲間の個性に向き合うこと、この2つを完全に分けて考えるのではなく、うまくいかないときには、ぜひ臨床での自分の姿勢を振り返ってみてほしいと思います。
裏を返せば、職場の人間関係でつまづきが多い場合、利用者様との関係構築にも同じ思考パターンが現れている可能性があるということに気づく必要があります。「自分ではできているつもり」という盲点は誰にでも生じます。問題が表面化してから対処するのではなく、問題が起こる前に自覚的に考える姿勢が大切です。
私たちは本来、人の個性や背景に向き合い、より良い解決方法を提案する専門家です。この専門性は臨床だけでなく、組織づくりにも確実に活かせる力です。そのことを念頭に置きながら働くことが、「選ばれるセラピスト」への近道になります。
おわりに
私たちに本当に必要なのは、肩書きや技術だけではなく、人と向き合う力、そしてその土台となるコミュニケーションの質です。
自分の力を発揮しやすい環境づくりも、管理職として部下のパフォーマンスを最大化することも、決して特別なことではなく、一人ひとりの小さな姿勢の積み重ねから始まります。
その積み重ねの先には、必ずより良い信頼関係が生まれます。信頼が育つと、人としての魅力(人間力)が自然と高まり、それは自分自身のキャリアアップにもつながります。
目の前の人に、職場の仲間に、そして自分自身に誠実に向き合う姿勢を忘れないでください。その積み重ねが、あなたを「選ばれるセラピスト」へと導いてくれるはずです。
参考文献
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