専門家によるお悩み解決情報

Articles

リハビリテーション士の未来を考える

リハビリテーション士の未来を考える
こんな人に読んでほしい!
  • リハビリ業界に携わる人
  • 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士
  • これからリハビリ業界を目指す人

PT/OTの過剰供給の時代の到来

もしセラピストが余る時代が来るとしたら、あなたはどう備えますか?本稿では「リハビリテーション士の未来」について、一緒に考えてみたいと思います。

現在、日本における理学療法士(Physical Therapist, 以下PT)の有資格者数は、2025年3月末時点で236,390人に達しており1)、近年は毎年およそ12,000人ずつ増加しています。同じく2025年3月末時点で、作業療法士(Occupational Therapist, 以下OT)の有資格者数は118,715人で2)、年間約5,000人ずつ着実に増加しています。

日本のPT数は世界全体のPT人口のおよそ11%を占め3)、OTにおいては世界のOT人口の約18%に達しており4)、日本が国際的なリハビリテーション領域において大きな存在感を示していることがわかります。単純計算すれば、日本では毎年およそ17,000人の新たなセラピストが誕生していることになり、リハビリ専門職の人材は年々増え続けているのです。

しかし、このまま増え続けて本当に大丈夫なのでしょうか。いつの日か、セラピストが余る、あるいはリストラされるといった時代が訪れるのでしょうか。

残念ながら、その可能性は現実味を帯びています。厚生労働省が公表した「理学療法士・作業療法士の需給推計について」によれば5)、2020年代後半にはPT/OTの供給数が需要を上回り、2030年代には需要が横ばいとなる一方で供給数は増え続けるとされています。その結果、2040年にはPT/OTの供給が需要の1.5〜2.5倍に達するとの推計が示されています。

図 1. 厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」より抜粋

また、Moriiらの研究(2019年)でも、2040年の理学療法士の充足率(必要量に対する供給割合)は3.3に達すると報告されており6)、むしろ厚労省の予測は控えめである可能性すらあります。いずれにしても、PT/OTの過剰供給時代が到来することは避けられない現実といえるでしょう。


3つの立場から考えるセラピストの未来戦略

では、この現実に私たちはどのように向き合えばよいのでしょうか。
ここでは、3つの立場からこの課題をどう受け止め、どのように未来を切り拓くべきかを考えていきたいと思います。

① セラピストとして働いている人

 筆者はこれまで作業療法士養成校で長年教壇に立ってきましたが、OTとして歩み出す生徒に必ず贈る言葉があります。それは「強烈な武器を持つセラピストであれ」というものです。

従来の作業療法士教育の風潮としては、「なんでもできるOTになろう」という姿勢が重視されてきました。リハビリテーションという専門職が社会に普及していく過程において、絶対数が不足していた時代には、この方針はむしろ必然だったのだと思います。幅広く対応できるジェネラルな人材こそが求められていたのです。

しかし今後、PT/OTの供給が需要を大きく上回る時代においては、その戦略は通用しなくなる可能性があります。むしろ、誰でもできることを追いかけるほど、他のセラピストとの差別化は難しくなります。だからこそ、これからは突出した「強烈な武器」を持つことが必要だと考えられます。

 自分がどのような武器を持っているのか、または今後持ちたいと考えているのか、まずは以下の言葉にあてはめて考えてみてください。

「〜ができる理学療法士」、「〜が得意な作業療法士」など

ここで注意したいのは、曖昧な言葉を避けることです。例えば「信頼される理学療法士」といった表現は魅力的に聞こえるかもしれませんが、具体性に欠けます。重要なのは、自分の価値を相手にわかりやすく説明できる言葉を選ぶことです。

例えば、筆者の場合、海外の臨床現場で働いていた経験があるため、英語が堪能です。そのため「英語が得意な作業療法士」と名乗ることができます。近年、在日外国人の増加に伴い、英語を使える人材の需要は確実に高まっていますので、これは私の大きな強みです。

また、自由診療で訪問サービスを行い、夜間にも対応可能な方であれば「夜に訪問サービスを提供できる理学療法士」と名乗ることなどもできるでしょう。このように、出来る限り具体的で詳細な表現を選ぶことがポイントです。多少尖っていても構いません。むしろ、オンリーワンの武器をきちんともって明示することで、自分を必要とする層からの需要を確実に獲得できるのです。

② セラピストを目指している人

将来的にPT/OTが過剰供給になるという現実が差し迫る中で、では私たち大人は、セラピストを志す高校生や中学生といった若い世代に「需要がなくなっていくからやめたほうがいい」と伝えるべきなのでしょうか。私はそれはあまりにも残念なことだと思います。

結論から言えば、セラピストになりたいという想いをもっている人は、ぜひその道を目指してほしいと考えています。ただし、大切なことは 「どんなPT/OTになりたいか」 をある程度イメージしながら志すことです。これから必要とされるのは、資格を持っているだけのセラピストではありません。真に輝くのは、自分ならではの強みを武器に、新しい価値を生み出せる人材です。

例えば、こんなイメージをもつことから始めてみてください。

  • 認知症の人の安全な生活を支える知識と技術を身に着けたい
  • 発達障害の子どもたちが学びやすい環境を作りたい
  • テクノロジーを使って脳梗塞のリハビリ技術を進歩させたい

若い世代であれば、本当にざっくりした将来像で十分です。重要なのは、少しでも具体的に自分の未来を思い描きながら学び始めることです。逆に「とりあえず資格を取っておけば安心だから」といった安易な動機だけでは、これからの時代にPT/OTを目指すことは難しくなるでしょう。需要が低下すれば、養成校への入学や国家試験のハードルも上がる可能性があるからです。

また、自分の未来を思い描くときに、病院や施設で働く姿だけをイメージする必要はありません。これからの社会では、企業や学校、地域、そして海外にまでPT/OTの活躍の場は広がっています(後述)。だからこそ自由に、そして少しだけ具体的に、自分がどんなPT/OTになりたいのかを思い描いてください。

こうして自由でありながらも方向性を持って歩み出すことで、たとえ過剰供給の時代にあっても「この人にしかできないリハビリ」を提供できるセラピストとして、必ず必要とされる存在になれるはずです。

③ リハビリテーション業界として

それでは、リハビリテーション業界としてこの状況にどのように向き合うべきでしょうか。やはり長年にわたり業界の至上命題とされてきた「職域の拡大」が、その鍵になると考えられます。職域を広げることは、セラピストの活躍の場を増やすことであり、その分だけ必要とされる人材のパイを大きくすることに繋がります。

 これまでを振り返ると、セラピストの職域拡大は確実に成果を上げてきたと私は考えています。一例として、かつては珍しいとされていたセラピストの行政職への進出も、今では一つのキャリアパスとして確立されています。近年では、日本作業療法士協会が5歳児健診へのOT参画を掲げ7)発達支援の入り口である健診領域に新たな専門的価値を打ち立てようとしています。

 そのほかにも、私が特に面白いと感じる新しい展開をいくつか紹介します。

セラピストの新しい専門的価値

  • 産業リハビリテーション:
  • 会社における従業員の健康管理や復職支援、職場環境改善にセラピストが関わる取り組みで、企業の健康経営の実現を後押ししています。
  • 農福連携:
    農業の現場と福祉をつなぐ取り組みです。障害のある人や高齢者が農作業に参加することで、社会参加や健康維持を支援します。
  • eスポーツ × リハビリテーション:
    プロゲーマーや配信者などに対して、姿勢の改善や上肢障害の予防、生活リズムの調整などを行い、パフォーマンスと健康の両立を支援する分野です。
  • 動物理学療法:
    犬や猫を中心としたペットに対し、術後リハや高齢動物の歩行訓練を提供する取り組みで、動物医療やペットケア業界との連携が広がりつつあります。

 このように、斬新な職域拡大が進んでいることは非常に喜ばしいことです。そして今後も、新しい発想に基づいて活動の幅を広げることこそ、セラピストの供給が需要を上回るという現実に向き合ううえで最も重要な戦略の一つとなるでしょう。

結局のところ、私たちに求められているのは、あらゆるヘルスケア関連領域で(場合によってはヘルスケアの枠を超えて)セラピストとしての存在感を示すことです。その姿勢を業界全体の使命として共有し、ひとりひとりが自覚を持つことが、未来を切り拓く原動力になるのではないでしょうか。


おわりに

本稿では、セラピストの過剰供給という未来に向けて、それぞれの立場でどのように備えるべきかを整理しました。需給バランスの逆転は私たちにとって大きな脅威ではありますが、見方を変えれば、この状況は私たち一人ひとりが自らの専門性を磨き、社会に新しい価値を示す絶好の機会でもあります。

セラピスト個人は自分ならではの強みや武器を磨くこと、これからセラピストを志す人は将来像を少しでも具体的に思い描きながら目指すこと、そして業界全体は、職域を広げセラピストの新しい社会的役割を切り拓くこと、これらが有機的につながることで、リハビリテーションの未来は決して暗いものではなく、むしろ多様で力強い発展の可能性を秘めていると私は考えます。

【参考文献】

1)日本理学療法士協会, 統計情報, https://www.japanpt.or.jp/activity/data/

2)日本作業療法士協会, 統計情報, https://www.jaot.or.jp/statistics/

3)World Physiotherapy, Annual membership census2024, https://world.physio/sites/default/files/2021-02/AMC2020-Global_0.pdf?utm_source=chatgpt.com

4)World Federation of Occupational Therapists, List of Member Organisations, https://wfot.org/membership/organisational-membership/list-of-wfot-member-organisations.

5)厚生労働省, 理学療法士・作業療法士の 需給推計について, https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000499144.pdf.

6)Morii, Y., Ishikawa, T., Suzuki, T., Tsuji, S., Yamanaka, M., Ogasawara, K., & Yamashina, H. (2019). Projecting future supply and demand for physical therapists in Japan using system dynamics. Health Policy and Technology, 8(2), 118-127. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.hlpt.2019.05.003

7)日本作業療法士協会, 2025年度重点活動項目解説, https://www.jaot.or.jp/member/kyoukaisi/detail/1073/

  • X
  • facebook
  • LINE

この記事の著者

川﨑 一平

川﨑 一平

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1987年熊本県生まれ。大学卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。2014年から2年間、青年海外協力隊としてマレーシアの障害者支援NGOで活動し、異文化の中でリハビリや生活支援に携わる。帰国後、東京大学大学院に進学(国際協力学)。2019年より京都橘大学でアカデミックキャリアをスタートさせ、2025年に静岡大学大学院で博士号を取得(情報学)。現在は福岡の令和健康科学大学に勤務し、在宅環境を3Dで表現して生活支援の評価に役立てる研究や、リハビリテーション領域におけるAI技術の応用研究に取り組んでいる。プライベートでは1児の父として子育てに奮闘中。座右の銘は「行動は最良の選択」。大学教育のほか、フリーのOTとして臨床・執筆・講演・事業コンサルティング等にも取り組んでおり、ご依頼はippei.kawasaki.615@gmail.comまで。

お申し込み・お問い合わせ

お気軽にあなたの症状、
お悩みをお聞かせください!
  • マッチングまでは
    全部無料
  • お悩み最適
    セラピスト厳選