はじめに
「ずっと姿勢が悪いと言われてきた」、「猫背や反り腰を直したい」「ピラティスは本当に効果があるのか?」こうした悩みを抱える方は少なくありません。
SNSでは華やかな姿勢改善のビフォーアフターが多く、ピラティスへの注目は高まっています。しかし実際には、「どれくらい効果があるのか」、「どんな仕組みで良くなるのか」 といった点が分からず、不安や疑問を持つ人も多いでしょう。
本記事では、科学的根拠に基づいてピラティスが姿勢改善にどのように役立つのかを分かりやすく解説します。さらに、猫背や反り腰を改善するために押さえておきたいポイントや、運動を行う際の考え方についても紹介します。
単なるエクササイズ紹介ではなく、なぜピラティスが効果的なのか、そのメカニズムを理解できる内容にまとめました。
ピラティスで姿勢は良くなるのか? 〜科学的研究が示す効果〜
2024年に発表された最新のシステマティックレビュー(複数の研究を統合的に分析した最高レベルの根拠)では1)、2019~2023年に発表された13本の研究をまとめた結果、次のような結論が示されました。
「ピラティスが不良姿勢(首・胸・腰のカーブ)に対して有効である可能性が高い」
分析対象となった研究では、以下のような姿勢に改善がみられたと報告されています。
- 頸椎の前方位(デスクワークで多い「ストレートネック」に近い姿勢)
- 胸椎の過度な後弯(いわゆる「猫背」)
- 腰椎の過度な前弯(「反り腰」)
特に重要なのは、多くの研究でピラティスを行ったグループが、行わなかったグループより明確に姿勢が改善したという点です。
ただし、研究の数やデザインの質にはばらつきがあるため、「誰にでも必ず効く」、「短期間で劇的に変わる」とまでは断言できません。
つまり、現時点では、「ピラティスは姿勢改善の有力な選択肢のひとつである」と位置づけるのが科学的に妥当と言えるでしょう。
姿勢改善の第一歩は「自分を知ること」
猫背や反り腰を改善するうえでまず重要なのは、「自分の姿勢を正しく把握すること」です。しかし実際には、自分が思っている姿勢と本当の姿勢には大きなズレがあることが分かっています。
D’Amicoら(2018)は健常な若年成人を対象に「いつもの立ち方」と「自分でまっすぐに立ったつもりの姿勢」を三次元的に比較したところ、参加者の8割以上が自分の感覚だけでは背骨全体を良い方向へ修正できず、一部分だけが過剰に動いてしまうなど、全体のバランスを整えることが難しいと報告しました2)。
さらに、姿勢の自己修正には専門的な指導やフィードバックを伴う特異的なトレーニングが必要だと結論づけており、これは“感覚だけに頼らずに学ぶ姿勢教育”というピラティスの考え方を科学的に裏付けるものです。
さらに興味深いのは、私たちの体そのものに対する「感覚の地図(ボディイメージ)」にも歪みがある可能性が示されている点です。
Niculaらの研究では3)、背中や手の甲に与えた触刺激の距離を人がどのように感じるか調べたところ、実際よりも短く見積もる傾向があり、縦方向と横方向でも感じ方が異なることが明らかになりました。
また、Prattら(2024)は4)、背中の9か所の位置を「自分ではどこにあると思うか」を図の中で指し示してもらい、実際の解剖学的位置と比較しました。その結果、多くの人が自分の胴体を“実際より横に広く・縦に低く”イメージしており、背中の各ポイントも全体的に右下へずれて認識していることが分かりました。
つまり、私たちは自分の体の形や位置を無意識のうちに歪んだ状態で把握している可能性があり、「正しくできているつもり」でも実際には異なる動きをしてしまうことがあります。このため、客観的なアドバイスを受けることは、姿勢改善の重要なステップと言えるでしょう。
このように「感覚のズレ」があるため、猫背や反り腰を言葉だけで理解するのは難しくなります。猫背の典型的なイメージは“背中全体が丸い姿勢”ですが、実際には首の付け根だけが丸くなっている人、胸椎は丸いのに腰は反っている人など多様なパターンがあります。
一方、反り腰も“腰が強く反って骨盤が前傾しているイメージが一般的ですが、骨盤が後傾していても腰椎下部だけが過伸展していれば本人は反り腰と感じることがあります。つまり、感覚やイメージだけで自己判断することは非常に難しく、改善にはまず自分の姿勢の特徴を正しく知る必要があります。
ピラティスが重視するニュートラルポジションとは
そこで重要となるのが、ピラティスで重視される「ニュートラルポジション」という考え方です。ニュートラルポジションとは、身体を玉乗りに例えると前後左右のバランスが取れ、関節にゆとりがあり、人間の身体にとってもっとも自然で効率的に動ける位置のことです。
ピラティスは“全員が同じ正しい姿勢を目指す”のではなく、“その人にとって最適な中間位(ニュートラル)”を見つけるアプローチであり、このニュートラルを理解することで、自分が猫背なのか反り腰なのか、どこがどの方向にズレているのかを具体的に捉えられるようになります。
生まれつきの骨格の形は変えられませんが、姿勢は「その人に合った方法」を見つけることで確実に変わります。そのためには、感覚のズレを理解し、客観的な指導を受け、ニュートラルポジションを基準として姿勢を見直すというプロセスが欠かせません。
ピラティスはまさに、このプロセスを丁寧に積み重ねていくことで姿勢改善を支援するエクササイズと言えるでしょう。
ピラティスが姿勢を改善するメカニズム 〜直立姿勢を支える身体のしくみ〜
ここからは、ピラティスがなぜ姿勢改善に効果的なのか、その“身体の仕組み”をわかりやすく説明します。人間は直立二足歩行で生活する珍しい生き物で、この姿勢を支えるためには、身体が重力に負けずに“すっと上に伸びる力”が必要です。
ピラティスでは、この働きを「エロンゲーション(軸の伸長)」と呼びます。イメージとしては、頭のてっぺんが軽く引っ張られて、背骨が自然に伸びていく感覚です。これが姿勢の土台になります。
エロンゲーションがうまく働くと、背骨は安定して動きやすくなり、猫背や反り腰のようなクセが現れにくくなります。逆に、この“身体の軸が伸びる力”が弱いと、背中が丸まりやすくなったり、腰だけが反ってしまったりします。前の節で説明したニュートラルポジションが見つかると、身体の軸がより自然に伸びやすくなり、姿勢改善が進みます。
このエロンゲーションの中心となるのが、腸腰筋(ちょうようきん)と多裂筋(たれつきん)という2つの深層筋です(いわゆるインナーマッスル)。どちらも身体の奥で姿勢を支える筋肉であり、体幹の中でも特に姿勢に直結する重要な役割をもっています。
腸腰筋は、背骨の下の方から股関節の内側につながる筋肉で、骨盤や腰の安定に深く関わっています。人間の腸腰筋は、長時間の姿勢保持に向いた筋線維(持久力のある赤筋)が多いことが研究から分かっており、まさに「直立姿勢を支えるために進化した筋肉」といえます5)。
一方、多裂筋は背骨に沿って走る深層の筋肉で、背骨をまっすぐに保つ縁の下の力持ちのような存在です。長時間働き続けられる性質があり、猫背の改善にはこの多裂筋がしっかり働くことが欠かせません。背中の深層筋が弱ると、胸椎(背中の真ん中)が丸くなりやすく、猫背が進んでしまうことが研究からも分かっています。
つまり、腸腰筋と多裂筋という2つの深層筋が、身体の軸を内側から支える姿勢の土台であり、ピラティスはまさにこれらの筋肉を目覚めさせ、効率よく鍛えるエクササイズです。身体が上方向へ心地よく伸び、背骨が安定して動けるようになることで、猫背や反り腰といった姿勢の問題は根本から改善しやすくなるのです。
おわりに
ピラティスは、猫背や反り腰といった姿勢の悩みを改善するための有効な方法です。ニュートラルポジションやエロンゲーションの考え方を取り入れることで、体は少しずつ自然な状態へ戻っていきます。効果が現れるまでには時間がかかりますが、継続することで変化は必ず積み重なります。
姿勢を良くしたいと思ったら、まずは一度レッスンを体験してみてください。自分では気づけないクセがわかり、体の軽さや安定感を実感できるはずです。この記事が、あなたが姿勢改善に踏み出すきっかけになれば幸いです。
【参考文献】
- Li, F., Omar Dev, R.D., Soh, K.G. et al. Effects of Pilates exercises on spine deformities and posture: a systematic review. BMC Sports Sci Med Rehabil 16, 55 (2024). https://doi.org/10.1186/s13102-024-00843-3
- D'amico M, Kinel E, Roncoletta P. 3D quantitative evaluation of spine proprioceptive perception/motor control through instinctive self-correction maneuver in healthy young subjects' posture: an observational study. Eur J Phys Rehabil Med. 2018 Jun;54(3):428-439. doi: 10.23736/S1973-9087.17.04738-4. Epub 2017 Jul 18. PMID: 28718273. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28718273/
- Nicula A, Longo MR. Perception of Tactile Distance on the Back. Perception. 2021 Aug;50(8):677-689. doi: 10.1177/03010066211025384. Epub 2021 Jun 18. PMID: 34139923.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34139923/
- Pratt S, Wand BM, Hince DA, Travers MJ, Schneider L, Kelly S, Gibson W. The characteristics of the implicit body model of the trunk. Perception. 2024 Jul;53(7):415-436. doi: 10.1177/03010066241248120. Epub 2024 May 5. PMID: 38706200; PMCID: PMC11295427.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38706200/
- 木村 忠直, 数種霊長類における大腰筋の筋線維構築と組織化学的特徴(<特集>二足歩行と大腰筋), バイオメカニズム学会誌, 2000, 24 巻, 3 号, p. 141-147, https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/24/3/24_KJ00003422226/_article/-char/ja/
