はじめに
リハビリテーション病院に入院している方にとって、長いリハビリを経てようやく退院の見通しが立ったときには、喜びと同時に「このままの状態で本当に一人暮らしの生活が成り立つのだろうか」という不安も抱くものです。
「トイレはどうするのか」、「買い物はどうするのか」、「一人でお風呂に入れるのか」、「家族にどこまで頼れるのか」など、さまざまな思いが頭の中をめぐる中で、病院では「介護保険」、「ケアマネージャー」、「訪問リハ」、「デイサービス」、「障害福祉サービス」といった、初めて聞く言葉がいくつも飛び交います。
今回のお話では、回復期リハビリテーション病院を退院したあとに利用できる主な公的支援制度について、「今の状態」と照らし合わせながらイメージしやすいよう、できるだけわかりやすい言葉で整理していきます。
この記事は前編として、まず制度の全体像をつかむことを目的としていますので、すべてを一度に覚える必要はありません。ご自身やご家族の状況に近いところを拾いながら、必要に応じて読み進めていただければと思います。
【今回の記事で伝えたい内容】
- 回復期リハビリテーション病院を退院したあと,一人で全部抱え込まなくてよいように支えてくれる公的な制度があることを知ってもらうこと
- 制度の細かい名前や仕組みを覚えるのではなく,「自分の家族の年齢やからだの状態には,どのような制度が利用できそうか」をイメージできるようになること
- 制度の細かい内容は「自分で一から調べて申し込まなければならないもの」ではなく,病院の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センター,ケアマネージャーなどと一緒に選んでいくものだと知ってもらうこと
退院後の暮らしを支える公的な仕組み
退院後の生活を支える公的な制度にはさまざまな種類がありますが、ここでは主な5つを取り上げて紹介します。
- 介護保険サービス(介護保険法)
- 自宅に医師や看護師が来てくれる仕組み(訪問診療・訪問看護)
- 障害福祉サービス(障害者総合支援法)
- 医療費・介護費の負担を軽くする制度
- 長く障害が残るときの制度
ここではそれぞれがどんな場面で支えになってくれるかという視点で順にご紹介します。
1.介護保険サービス(介護保険法)
介護保険は、主に 65歳以上の方、または 40〜64歳で特定の病気がある方が、「要支援」または「要介護」の認定を受けることで利用できる制度です。利用できるサービスには次のようなものがあります。
- 訪問介護:自宅に来て、家事や入浴などの生活支援を行う
- 訪問リハビリ:自宅で生活動作に合わせたリハビリを行う
- 通所介護(デイサービス)/通所リハビリテーション(デイケア):入浴・運動・リハビリ等を目的に通う
- 福祉用具レンタル:介護用ベッド、手すり、歩行器などを借りることができる
- 住宅改修:玄関の段差を解消したり、手すりの設置などを行う
これらを組み合わせることで、自宅で生活を続けるための土台をつくることができます。
2.自宅に医師や看護師が来てくれる仕組み(訪問診療・訪問看護)
退院後も自宅で医療的な管理や観察が必要な方には、訪問診療や訪問看護という選択肢があります。訪問診療は医療保険で利用し、訪問看護は病状や要介護認定の有無によって、医療保険または介護保険のどちらかで利用する仕組みです。(ここでは保険の種類よりも、「自宅に看護師が来てくれるサービス」として説明します。)利用できる内容は以下のとおりです。
- 医師が定期的に自宅を訪問し、診察や治療方針の管理を行う
- 看護師が体調のチェック、医療処置、服薬の確認などを自宅でサポートする
この仕組みは、退院後の生活で、「通院だけで本人・家族が疲れてしまう」、「少し具合が悪いとき、受診すべきかどうか判断に迷う」といった不安がある場合に、自宅にいながら医療とつながり続けられるための仕組みです。
訪問看護を医療保険で使うか介護保険で使うかは、主治医・医療ソーシャルワーカー・ケアマネージャーと相談しながら決めていくことになります。
3.障害福祉サービス(障害者総合支援法)
障害福祉サービスは、身体・知的・精神の障害や難病などにより、日常生活や社会参加に継続した支援が必要な方を対象とした制度です。
年齢のみで利用の可否が決まるわけではありませんが、65歳以上で介護保険の対象となる方については、ホームヘルプや通所支援など内容が重なるサービスは介護保険を優先して利用するという原則があります。そのため実際には、主に次のような方が対象となることが多い制度です。
- 働き盛りの年代で脳血管疾患・脊髄損傷・高次脳機能障害などの後遺症が残った方
- 若い頃から障害があり、そのまま高齢期を迎えた方
こうした方々にとって、障害福祉サービスは日中活動の場や就労に向けた支援の場を確保するための重要な仕組みとして用いられています。
働き盛りの方の場合、まずは主治医やリハビリスタッフと相談しつつ、会社の産業医や人事部門と連携しながら、復職時期、業務内容の調整、配置転換などを検討する流れが一般的です。
そのうえで、元の働き方への復帰が難しい、あるいは別の働き方を模索したいという場合に、障害福祉サービスによる就労支援(就労移行支援・就労継続支援など)が選択肢として浮かんできます。障害福祉サービスには、次のような支援が用意されています。
- 居宅介護(ホームヘルプ):自宅を訪問し、入浴・排泄・家事など日常生活を支援する
- 重度訪問介護:長時間の見守りや外出時の付き添いなど、より手厚い支援を提供する
- 生活介護:日中に通所し、生活訓練・創作活動・リハビリなどに取り組む
- 就労移行支援・就労継続支援:働く力を整える訓練や、働く場そのものを提供する
これらを組み合わせることで、特に働き盛りの世代や長く障害とともに生活してきた方にとっての「通う場」、「働く場」、「自宅で暮らすための支え」を整えることができます。
また、高齢の方であっても、介護保険のサービスだけでは支援が不足する場合には障害福祉サービスを併用できることがあります。どの制度が利用できるかは市区町村の窓口や医療ソーシャルワーカーに相談しながら確認していくことが大切です。
4.医療費・介護費の負担を軽くする制度
長期間の入院や通院、介護サービスの利用が続くと、医療費や介護費が家計に大きな負担となることがあります。こうした負担を一定の範囲におさえるために、いくつかの公的制度が設けられています。代表的なものは次のとおりです。
- 高額療養費制度:医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超えた分があとから払い戻される仕組み
- 高額介護サービス費:介護保険サービスの自己負担額が一定を超えた際に、超えた分が払い戻される制度
- 自治体等による医療費助成制度:自治体や各種団体が独自に実施する医療費の助成制度
医療や介護にかかる費用を適切に抑えることは、安心して療養を続けるうえでも大切なポイントです。利用できる制度は個々の状況によって異なるため、具体的にどの制度が適用されるかは、病院の医療ソーシャルワーカーに確認・相談してみることをおすすめします。
5.長く障害が残るときの制度
病気やけがの後遺症によって、生活や仕事に長い期間わたって制限が残る場合には、将来にわたる暮らしを支える制度を検討していくことが大切です。代表的な制度には、次のようなものがあります。
- 障害者手帳(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳など)
障害の状態に応じて取得でき、医療費助成、税制上の控除、公共料金や交通機関の割引など、さまざまな支援につながる。 - 障害年金
一定の条件を満たした場合に、働きづらさや収入減少を補う目的で支給される制度。 - 就労支援機関(ハローワーク、障害者職業センターなど)
復職や新しい働き方を検討するときに相談できる機関で、働くうえでの調整や支援を受けられる。
これらの制度は、退院直後にすべてを決める必要はありません。しかし、「今後もある程度の障害が続きそうだ」と感じる場合には、早めに医療ソーシャルワーカーへ相談してみると良いでしょう。
多くの場合、発症からしばらく治療やリハビリを続け、主治医が「これ以上大きく症状が変化する可能性は少ない」と判断する時期に、長期的な暮らし方や働き方について検討を開始します。
制度の利用には、受傷からの期間や主治医の意見書が必要となることも多く、年金事務所や市町村窓口との連携が欠かせません。将来の生活を安定させるうえで重要な制度ですので、状況に応じて相談しながら整えていくことが大切です。
退院後の制度を理解するうえで大切なこと
ここまで、退院後の生活を支えるために利用される主な公的制度について、その役割や特徴を概説してきました。制度の名前や仕組みは複雑に感じられますが、実際には「自宅で安心して生活を続けるために、どの部分をどの制度が支えてくれるのか」を押さえておくことが大切です。
すべてを一度に覚える必要はなく、制度の組み合わせや利用のタイミングは、医療ソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの専門職と相談しながら整えていくことができます。
退院後の生活は、身体機能、家族構成、働き方、住環境など、人によって大きく異なります。そのため、同じ制度であっても、必要となる場面や使い方は人それぞれです。
この記事の後編では、よくみられる状況をいくつか取り上げながら、「今の自分の状態なら、どの制度が候補になりやすいのか」、さらに頼ることができる専門職についても具体的に紹介していきます。制度を「知る段階」から、「自分の生活に当てはめて考える」段階へ、一緒に進んでいきましょう。
参考資料
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厚生労働省.高額療養費制度を利用される皆様へ.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html.Retrieved December 8, 2025
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