はじめに(後編)
前編では、回復期リハビリテーション病院を退院したあとに生活を支えてくれる公的制度として、介護保険、訪問診療・訪問看護、障害福祉サービス、費用負担を軽くする制度、長く障害が残るときの制度―という全体像を整理しました。
制度の名前や仕組みは複雑に見えますが、大切なのは「自宅で安心して生活を続けるために、どの部分をどの制度が支えてくれるのか」を押さえることでした。
一方で、ここまで読んでも「結局、うちの場合はどれが当てはまるの?」と感じる方は少なくありません。退院後の生活は、身体の状態、家族構成、働き方、住まいによって大きく変わるため、同じ制度でも必要になる場面や使い方は人それぞれです。
そこで後編では、よくある状況をいくつか取り上げながら、「今の自分(家族)の状態なら、どの制度が候補になりやすいのか」を具体的にイメージできるように整理してみます。
あわせて、制度を“自分で一から調べて申し込む”のではなく、いっしょに選び、手続きを進めるために頼れる相談先(医療ソーシャルワーカー/地域包括支援センター/ケアマネージャー等)も紹介します。
【今回の記事でお伝えしたいこと】
- 制度は「知る」だけでなく、自分の生活状況に当てはめて整理すると使いやすくなる
- 退院後に多い状況別に、候補になりやすい支援(介護保険/訪問系/障害福祉など)をイメージできるようにする
- 「自分で全部調べる」必要はない。相談先を起点に進められることを知る
退院後の制度を「自分の状況」に当てはめる
ここでは、よくある3つのパターンを例に、「この状態なら、このサービスが候補になりやすい」という大まかな例を示してみます。
パターン1:杖で歩けるようになったが、一人暮らしが少し不安な高齢者の場合
『転倒やトイレ動作・買い物が心配』
➡介護保険サービスが中心の候補になります。訪問介護(ヘルパー)、通所介護(デイサービス)・通所リハ、福祉用具レンタルや住宅改修などを組み合わせて、「生活の難しいところだけに手を借りる」形を作っていきます。
パターン2:医療的な管理が続き、通院そのものが大きな負担になっている場合
『在宅酸素・経管栄養・褥瘡などの処置が必要』
➡訪問診療・訪問看護がまず候補になります。加えて、日常生活の支えとして介護保険サービス(訪問看護や通所サービス)を組み合わせることになることが多いです。
パターン3:まだ働き盛りだが、後遺症が残ってこれまでと同じ働き方が難しそうな場合
『50~60代など現役世代で、片麻痺や高次脳機能障害などの後遺症が残る』
➡こうした場合、まずは主治医やリハビリスタッフと相談しながら、会社の産業医や人事部と復職の道筋(業務内容の調整や配置換え、復職時期、短時間から職場に通ってみるなど)を検討することが多くなります。
そのうえで、どうしても元の職場には戻ることが難しい、あるいは別の形で働く道を考えたいときに、日中活動や就労準備の場として障害福祉サービス(生活介護や就労支援系の事業所)や将来を見据えた長く障害が残るときの制度(障害者手帳、障害年金など)を視野に入れていくという流れになることが少なくありません。
ここに挙げた3つはあくまで一例です。実際は、家族も高齢で介護をどこまで担えるのか、復職も想定した方など、さまざまな組み合わせとアプローチがあります。
大切なことは、どの制度を使うかということを一人で決めようとせずに、今の心配事を専門家に話してみることです。
そのうえで、「それならこの制度とこの制度が候補になりそうです」と一緒に考えてくれるのが、次に紹介する医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センター、ケアマネージャーたちです。
使える制度は「一緒に選んでいくもの」-まずは頼ってみよう-
ここまでおさえてきた退院後に使える制度やサービスを一度に聞くと、「何が何だかわからない。」と不安になる方が多いかもしれません。しかし、制度やサービスは「ご自身おひとりで探して、選んで、申し込むもの」ではありません。
当事者やご家族に適した制度・サービスを選び、手続きの道筋をつけてくれる専門職がいます。ここでは、代表的な3つの相談先をご紹介します。
医療ソーシャルワーカー
退院後の生活やお金の心配を、一緒に整理してくれる専門職
医療ソーシャルワーカーは、入院している病院にいる専門職です。その役割は、①退院後の暮らし方、②介護の担い手が必要かどうか、③医療費や生活費の不安など、生活全体の心配事を一緒に整理し、調整を支援してくれる専門家です。
「こんなことまで聞いていいのかな?」と遠慮される方も多いのですが、むしろ、そういう日常の相談をしてもらうために病院にいる専門職だと思ってもらって大丈夫です。
病院内にある「地域医療連携室」や病棟や外来に所属していることが多いです。相談がある場合は、「退院後の生活やサポートについて、お聞きしたいことがあるので、医療ソーシャルワーカーさんに繋いでいただけますか。」とお聞きしてください。
地域包括支援センター
お住まいのある地域での高齢者の暮らしの相談窓口
地域包括支援センターは、市区町村が設置しており、高齢者とその家族のための公的な“よろず相談窓口”です。保健師や社会福祉士、主任ケアマネージャーなどがチームになって、地域でその人らしく暮らし続けるにはどうしたらよいかを一緒に考えてくれます。例えば、次のようなことを相談できます。
- 介護保険を申請した方がよいかどうか、どんなサービスがありそうか知りたい
- 一人暮らしや老々介護で、見守りや生活が心配
- 認知症やもの忘れが進んできているようで、どう支えればよいか分からない
- 退院して自宅に戻ると言われたが、家の中の段差やお風呂が不安
相談は電話でもできますし、必要に応じて自宅を訪問して状況を見てくれることもあります。費用はかかりません。「まず、どこに相談すればよいか分からない」というときに、入口として頼れる窓口です。
ケアマネージャー
介護保険サービスのまとめ役
介護保険のサービスを利用するときに中心的な役割を担う専門職が、ケアマネージャー(ケアマネ)です。本人や家族の希望を聞き、どのような介護保険サービスを、どの頻度で使うことを一緒に考え、様々な介護保険サービス事業所との連絡・調整を行う、「暮らし支援の調整役(コーディネーター)」のような存在です。
ケアマネージャーは、「居宅介護支援事業所」や、在宅サービスを提供する事業所(訪問介護事業所など)に所属していることが多く、利用者が介護保険を使うときには、原則として「担当ケアマネージャー」がつきます。退院後も定期的に様子をうかがいながら、必要に応じてサービスの内容や回数を見直してくれるため、長い付き合いになることが多い存在です。
どこに相談すればよいか分からない場合は、病院の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターに「ケアマネさんを紹介してほしい」と伝えるのが一番スムーズです。
おわりに
退院後に利用できる制度は種類が多く、全部を理解しなければと思えば思うほど、かえって混乱してしまいがちです。大切なことは、制度を網羅的に知ることではなく、いま困っていること(できないこと・不安なこと)を整理し、それを支えてくれる仕組みにつなげていくことです。
そして、制度選びや手続きは、家族や本人が一人で抱え込んで調べきるものではありません。まずは病院の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターなど、身近な相談先に今の状況を伝えることから始めてみてください。
話していく中で、使える制度が整理され、「何を優先すればよいのか」、「どこから手をつければよいのか」ということが少しずつ見えてきます。
退院は、治療の終わりではなく、これからの生活を整え直していくための新たなスタートです。無理をせず、頼れる人や専門職と一緒に、今の暮らしに合った形を探しながら、少しずつ生活を組み立てていきましょう。
参考資料
公益財団法人日本医療ソーシャルワーカー協会https://www.jaswhs.or.jp/#gsc.tab=0. Retrieved December 8, 2025.
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日本年金機構.障害年金.https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html.Retrieved December 1, 2025.
