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自分に合ったリハビリテーションの見つけ方

自分にあったリハビリテーションの見つけ方.
こんな人に読んでほしい!
  • ケガや病気のあと、「どんなリハビリを受ければいいのか分からない」と感じている方へ
  • 自分の生活や目標に合ったリハビリの形を見つけたい方に届けたい

はじめに

ケガや病気をしたとき、「自分にはどんなリハビリが必要なんだろうか?」と悩む人は少なくありません。リハビリという言葉は広く知られていますが、その内容は人によってさまざまです。大切なのは、「自分がどのような生活を送りたいか」、「何に困っているのか」を整理し、それに合ったリハビリの方法を見つけることです。

実際にどこでどのようなリハビリを行うかは、医師や専門職との相談を経て決定されるべきですが、ここで紹介する内容がその前段階として、自分に合った方向性を考えるヒントや、最初の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。以下に、一般的なケースをもとにした例を紹介します。


ケガや病気を予防し、健康に今の暮らしを続けたい

リハビリというと、「ケガや病気をした後に行うもの」と考えがちですが、実は健康な体や心を維持する上でも大切な役割を果たします。

例えば、年齢を重ねると、筋力や反応速度が低下し、「歩ける距離が減った」、「つまずくことが増えた」と感じることがあります。こうした変化は、転倒や骨折など重大なケガや介護が必要な状態になる前触れである場合があります。

その場合は、大きな支障が出る前から、予防的にリハビリを取り入れることが重要です1)このような将来を見据えた行動は、日々の暮らしを振り返り、自分の健康を大切にするきっかけとなります。

Aさんは階段の上り下りの際に、足腰の衰えを感じて不安になり、病院に相談をしました。運動は苦手でしたが、予防が大切との助言を受け、理学療法士にAさんの体力やバランス能力に合わせた安全な運動方法を教わることになりました。

テーブルを持ちながら片方の足を5㎝上げて片足でバランスをとる運動や、椅子の背を持って背伸びをしながらふくらはぎを鍛える運動1)など、無理なく続けられる内容を実践しています。

体に負担をかけない動作のコツを学んだことで、疲れにくくなり、安心して外出ができるようになりました。こうした運動を重ねるうちに「自分でもできる」という自信がつき、日々の生活の中でも自然と体を動かす機会が増えています。さらに、自治体が開催する介護予防教室を紹介されて定期的に参加するようになり、専門家や仲間と交流しながら楽しく体を動かすことが習慣になりました


体や心を整えたい

ケガや病気の後、体が思うように動かなくなったり、気持ちが落ち込んだりすることがあります。リハビリは、低下した体や心の機能を整え、少しずつ向上させていくための方法です2)体や心を整えることは、「自分らしい生活」を取り戻すための大切な土台になります。

Bさんは脳卒中の後遺症で右手が思うように動かなくなりました。気分が沈みがちで活動する意欲が乏しくなり、好きだった外出をする気力も失っていました。

作業療法士は、入院するBさんの思いに寄り添い、希望を丁寧に聞き取りながら手の神経や筋肉に刺激を与え、自分の意思で動きを引き出す訓練3)を行い、運動麻痺の改善を目指しました。また、Bさんが以前好きだった園芸をリハビリに取り入れ、土を触る感覚や花の香りを感じながら、楽しみつつ手を動かせるよう工夫をしました。

次第に手の動きが改善し、両手でつくりあげた作品が他の患者さんや職員からも評価されることで、Bさんの表情には自信と喜びが戻っていきました。現在は、「専門店まで園芸用品を買いに行くこと」を新たな目標にリハビリを続けています


日常生活の困りごとを解決したい

ケガや病気をすると、これまで当たり前にできていたことが難しくなり、日常生活の中で思いがけない困りごとに気づくことがあります。こうした場面では、体の機能を回復させるだけでなく、「今ある力をどう生かすか」を考えることも大切です。

リハビリでは、生活の中で必要な動作を練習したり、環境を整えたりすることで、できるだけ自立した生活が送れるよう支援します4)つまり、リハビリは生活の中で「できた」を積み重ねていく支援でもあります。

Cさんは認知症の診断を受けており、最近トイレの便座にうまく座れず、排泄の失敗が増えていました。家族とCさんは担当ケアマネジャーに相談し、訪問看護ステーションのリハビリスタッフによる支援を受けることにしました。

訪問看護ステーションのリハビリスタッフは、Cさんの動作を観察したうえで、物の形や距離感が正しく認識しづらくなっていることが原因ではないかと考えました。そこで、便座の形や位置を分かりやすくするために、目立つ色の便座カバーを取り付けたり、床に立ち位置を示すシールを貼るなどの工夫を行いました。

そのうえで、Cさんと一緒に便座の位置を確認しながら体の向きを調整する練習や、手すりを使って安全に立ち座りする練習を行いました。また、家族にはトイレへの誘導や声かけのタイミングについても助言しました。

こうした取り組みによって、排泄の失敗が減り、家族の安心感が増しただけでなく、Cさんの表情にも穏やかさが見られるようになりました


社会とつながりたい

社会の中で働いたり、人の役に立つことは、生きるうえでの励みになります。社会とのつながりを取り戻すことは、リハビリの重要な目標のひとつといえるでしょう。

働くことを目指す中で、身体障害・精神障害などを持つ方が課題を感じることもありますが、そのようなときにもリハビリは力になります5)リハビリは、体を回復させるだけではなく、社会の中で自分の役割や挑戦を再発見するための歩みを支えるものです。

Dさんは、過去に交通事故で頭部をぶつけたことから集中力が低下し、作業中もさまざまなことに気が散りやすくなっていました。不安を抱えながらも「もう一度働いてみたい」という思いを持つようになり、市役所の福祉課に相談しました。

その結果、紹介された就労継続支援B型事業所で、復職に向けた訓練を受けることになりました。

支援員は、Dさんが集中しやすい作業や環境を検討し、一度に扱う作業量を調整した食材の仕分けや、弁当の盛りつけなどの業務を担当してもらうようにしました。また、周囲の音や人の動きによる刺激を抑えるために作業場所を工夫し、Dさんの集中力に応じた休憩の取り方も助言しました。

Dさんは、自分にできることが少しずつ増えていくのを実感し、仕事仲間と交流する中で安心感を得ながら、より意欲的に取り組むようになりました。現在では、「雇用契約を結んで働くこと」を新たな目標として掲げています。


おわりに

ここで紹介したように、リハビリの形は人それぞれで、決して一様ではありません。自分に合ったリハビリを見つけることは、生活をより豊かなものに変える第一歩です。もしリハビリについて考えてみたくなったら、どんな小さなことからでも構いません。まずはお近くの病院や地域包括支援センター、ケアマネジャーなど、身近な専門家に相談することから始めてみましょう。

【参考文献】

1)大渕修一,他.予防理学療法学要論.東京:医歯薬出版;2017.p.77-85.

2)日本作業療法士協会.事例で学ぶ生活行為向上マネジメント.東京:医歯薬出版;2015.p.24-28.

3)川平和美.片麻痺回復のための運動療法―促通反復療法「川平法」の理論と実践[DVD付].東京:医学書院;2013.p.28-30.

4)日本作業療法士協会.作業療法マニュアル66 生活行為向上マネジメント 改訂版第3版.東京:日本作業療法士協会;2020.p.38-41.

5)日本職業リハビリテーション学会.職業リハビリテーションの基礎と実践 障害のある人の就労支援のために.東京:中央法規出版;2012.P.24-25.

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この記事の著者

永井 邦明

永井 邦明

令和健康科学大学 リハビリテーション学部 作業療法学科 助教認定作業療法士 / 博士(社会福祉学)

プロフィール詳細

医療機関において、急性期、回復期、地域包括ケア病棟、外来を利用される対象者への作業療法を経験させていただきました。近年では他の研究者と協力して、介護の必要な方が就労的活動を行う方法についての研究や、認知症当事者の利用を想定した公共図書館の物理的環境整備に関する研究、情報通信技術を活用して高齢者が自宅にいながら社会参加活動を行うオンラインものづくり教室に関する研究などに取り組んでいます。

この記事の監修者

川﨑 一平

川﨑 一平

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1987年熊本県生まれ。大学卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。2014年から2年間、青年海外協力隊としてマレーシアの障害者支援NGOで活動し、異文化の中でリハビリや生活支援に携わる。帰国後、東京大学大学院に進学(国際協力学)。2019年より京都橘大学でアカデミックキャリアをスタートさせ、2025年に静岡大学大学院で博士号を取得(情報学)。現在は福岡の令和健康科学大学に勤務し、在宅環境を3Dで表現して生活支援の評価に役立てる研究や、リハビリテーション領域におけるAI技術の応用研究に取り組んでいる。プライベートでは1児の父として子育てに奮闘中。座右の銘は「行動は最良の選択」。大学教育のほか、フリーのOTとして臨床・執筆・講演・事業コンサルティング等にも取り組んでおり、ご依頼はippei.kawasaki.615@gmail.comまで。

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