はじめに
2025年の総務省の人口推計によると、わが国の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は29.4%(前年29.3%)と過去最高となり、高齢化が着実に進んでいます1)。今後も上昇していく見通しで、医療・介護にかかる社会保障給付費の増大は社会的に大きな課題となっています2)。
こうした背景もあり、社会的入院の是正、入院の平均在院日数の減少、病院の機能分化などが進んできたことに加えて、近年、地域包括ケアシステムも各自治体によって推進され、病院完結型医療から看取りも含めた地域完結型医療へと方針が転換されてきています。
在宅医療介護サービスの一つである訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)も、様々な疾患や全身状態の方々に対し、家屋内における日常生活の自立や社会参加に向けた働きかけを通じて、対象者の在宅療養の継続を支援しています。
今回は、訪問リハビリの特徴や支援の目標設定、専門職による具体的な関わりについて事例を交えながら紹介します。
訪問リハビリの特徴と目標設定
訪問リハビリでは、理学療法士(Physical Therapist ; PT)、言語聴覚士Speech-Language-Hearing Therapist;;ST)、そして作業療法士(Occupational Therapist;OT)などのリハビリ専門職が医師の指示のもと、居宅を定期的に訪問し、その方の状態に合わせた個別の訓練や指導、助言などを行います。しかしながら、時折「リハビリは身体機能を回復するもの」、「してもらうもの」といった認識から、トレーニングやマッサージを期待される場合があります。訪問リハビリの目的は、身体機能の改善そのものではありません。改善された機能を日常生活でどう活かすか、つまり「何ができるようになりたいか」、「どのような生活を送りたいか」といった生活課題に焦点を当てることが重要です。その際には、自立支援や心の豊かさ(ウェルビーング)を踏まえ、具体的に目標を設定していきます。
令和4年の訪問リハビリの対象者をみると、介護保険利用者では高齢者を中心に要支援~要介護5まで幅広く支援が提供されており、特に要介護2~5の中重度者が63.6%を占めています3)。医療保険利用者であれば、障がい児・者や若年の神経難病患者など、年齢や疾患を問わず多様な対象者が含まれています(図1)。
この背景には、医療技術の進歩に加え、訪問診療や訪問看護などの在宅医療サービスの体制整備があり4),5)、人工呼吸器や胃ろう・経管栄養など医療依存度の高い人々も、介護保険・医療保険を問わず住み慣れた地域で療養できるようになってきています。
こうした状況を踏まえると、訪問リハビリの目標は対象者によって大きく異なります。望む生活の実現に向けて生活課題に焦点を当てながら、家族の状況や利用できる地域資源など多様な背景を含めて丁寧に話し合い、目標を一緒に決めていきます。個別性の高い目標を設定する点は、訪問リハビリならではの特徴と言えます。
もし病状の進行や、認知機能の低下などの理由から目標を立てることが難しい場合、そのような時には、「できるようになりたいこと」、「できる必要があること」、「できることが期待されていること」などの観点から目標を立ててみることをお勧めします。

医療的リスクに挑戦し、楽しみを獲得できた事例
ここで一つ、事例を紹介します。
【Dさん 80代女性】
Dさんは娘さんと同居しており、「要介護3」の認定を受けています。約5年前に脳梗塞を発症して以降、車いすの生活を送っていますが、娘さんが熱心に介護を続けこられたため、在宅での生活を続けることができていました。
利用していたサービスは、デイサービス、訪問看護、訪問診療など。訪問リハビリではPTやOTが中心となり、車いすやポータブルトイレの移乗動作の練習や、娘さんの介護負担を減らすためのサポートなどを行っていました。
ある日、娘さんから「母は本当は食べることが好きなのに、実はずっと我慢していて・・・。少しでも口から食べられないでしょうか?」と相談がありました。Dさんは長年、胃ろうから栄養を摂っていて、口から食べることを(経口摂取)はしていませんでした。しかし、食べることへの強い希望があることが分かったのです。
これに対し、医師から経口摂取に伴う誤嚥(食べ物が気管に入る)リスクや、現在の摂食・嚥下の状態について、本人・家族に丁寧な説明がありました。
また、本人、家族だけでなく、訪問看護、ケアマネジャー、リハビリ職など関わっているスタッフ全員で情報を共有し、本人の希望と安全性の両方を大切にしながら、慎重に検討が進められました。
その後、必要な検査を経て、「まずは楽しみとして少量の経口摂取を目指す」という方針が決まり、STによるリハビリが追加されることになりました。Dさんの日常に「おやつの時間」という新たな習慣が加わり、Dさんの表情が明るくなるなど、ウェルビーイング(心身の豊かさ)の向上につながりました。
【解説】
公的保険を利用した訪問リハビリでは、医師の「指示」だけではなく医師の積極的な関与が求められています。Dさんのように、リハビリ専門職一人では対応が難しい生活課題に対しても、医師やケアマネジャー、訪問看護師など、本人に関わる医療・介護スタッフが情報を密に共有し、チームとして有機的に連携することで、本人や家族の希望を実現する大きな力となります。
また、本人だけではなく家族支援という観点も訪問リハビリでは重要です。特に、家族が同居している場合、支援の場は本人の生活空間であると同時に家族の生活空間でもあります。
支援の中では、つい家族に協力を求めてしまいがちですが、家族自身の生活や思いにも丁寧に配慮していくことが、結果として本人・家族双方の歩み寄りやより良い在宅療養の環境につながることがあります。
一方で、全ての訪問リハビリ事業所において、Dさんのような成功事例が報告できるわけではありません。事業所の方針に加えて、PT/OT/STのリハビリ専門職の配置状況や専門性に少なからずばらつきがあるのが現状です。
また、介護保険制度にはサービス提供の限界もあります。たとえば、介護度に応じた「区分支給限度基準額」が決まっていたり、訪問リハビリに至っては、週あたりのサービス提供時間に制限があったりします。実際、週1回の訪問リハビリを受けていたDさんもST導入にあたり限度額の課題に直面しました。最終的には、本人・家族、ケアマネ―ジャーと検討を重ねた結果、OTとSTが隔週で交互に訪問することになりました。
近年は、全額自費で受けられる訪問型リハビリテーションサービスも増えていて、将来的には選択肢がさらに広がる可能性があります。
おわりに
今回、訪問リハビリの特徴や支援の実際について、事例を交えながら紹介しました。近年は国の方針として、漫然としたリハビリの実施を見直し、必要性を踏まえて適正にサービスを提供することが求められています。その一方で、サービス提供側の都合だけで終了が決まってしまわないよう、本人・家族の意向や優先順位、リハビリ専門職の評価や見通しをもとに、納得して進められる目標づくりが大切になります。
実際の生活場面で困っていることを解決したり、目標とする生活行為を獲得していく方法は、必ずしも機能回復だけではありません。Dさんの事例のように、医療・介護の多職種が連携したり、家族と協力しながら進めたり、環境を工夫したりと、生活に根ざした多様なアプローチが必要になります。
私は、訪問リハビリは現状の生活を変える「きっかけ作り」だと考えています。小さな希望や変化に寄り添いながら、本人・家族が自分らしい生活を築いていくための支援を丁寧に積み上げていくことが大切です。
参考文献
1)総務省:統計トピックスNo.146 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-. 2025年11月10日取得, https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics146.pdf,
2)財務省:社会保障(参考資料). 2025年11月10日取得, https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20241113/02.pdf
3)厚労省:訪問リハビリテーション(改定の方向性).2025年11月10日取得, 001164129.pdf
4)厚労省:在宅医療の現状について. 2025年11月10日取得, https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000909712.pdf5)厚労省:令和5年(2023)患者調査の概況. 2025年11月10日取得, https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/dl/kanjya.pdfストを入力してください。
