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脳卒中後の歩行障害とリハビリテーション 〜歩きにくさの原因と回復に向けた取り組み〜

こんな人に読んでほしい!
  • 脳卒中後に「歩きにくさ」や転倒への不安を感じているご本人
  • 退院後の生活やリハビリについて悩んでいるご家族
  • 自主的なリハビリを始めたいが、何から取り組めばよいか迷っている方
  • 回復期リハビリテーション病院で行われている歩行練習の内容を知りたい方

はじめに

脳卒中の後遺症によって歩きにくさを感じてはいませんか?「つま先が引っかかる」、「膝が伸びきったままになる」、「ふらふらして怖い」など、悩みは様々かと思います。

この記事では、脳卒中後の歩行障害の特徴と、それぞれの原因に対するリハビリテーションの考え方についてご紹介します。


脳卒中後の歩行障害の原因とは?

脳卒中とは、脳の血管が詰まる(脳梗塞)または破れる(脳出血)ことで、脳の一部に障害が生じる病気です。その影響により、運動や感覚をコントロールする働きが低下します。

そのため、脳卒中後の歩行障害は「筋力が弱い」だけの問題ではありません。歩行に影響を与えやすい主な3つの要因についてご説明します。

脳卒中の歩行に影響を与える3つの要因

  1. 麻痺によって力が入りにくい(運動麻痺)
    麻痺側の足で支えることが怖くて、常に麻痺していない側に傾いた姿勢で歩きます。また、つま先が上がらないので足を振り出すときに引っかかる様子が見られます。
  2. 足首が内側に入りやすい(痙縮)
    脳卒中後は筋肉の緊張が過剰に高まることがあり、これを痙縮といいます。特に足首が内側に傾くと足裏が地面に着きにくくなり、歩行速度が低下します。歩行を続けると緊張が強まりやすく、長距離歩行が難しくなることがあります。
  3. 足の位置がわかりにくい(感覚障害)
    歩いていると足を家具や壁にぶつけることがあります。足を着く位置が安定せずに転びそうになることがあります。

これらの課題に対して、回復期リハビリテーション病院ではどのような訓練が行なわれているのかをご紹介します。


歩行練習はどのようなことをしているのか

麻痺に対しては運動の「質×量」を意識した練習

脳卒中後の運動障害に対しては、課題に特化した練習を繰り返し行うこと(反復練習)や、歩行機能を改善させるために実際に歩く機会を十分に確保することが重要とされています1)

代表的な練習には以下のようなものがあります。

  • 立ち座り練習
    歩くために必要な足の筋力を鍛えるために実施します。
  • 片足立ち練習
    片足で立つ筋力やバランスを高めるために実施します。
  • ステップ練習
    その場で足を前後・左右に出す練習を通して、歩行に必要な重心移動を学習します。
  • 歩行練習
    転ぶ危険性のある方は平行棒内から開始し、状態に応じて杖の使用や何も持たずに歩く練習まで段階的に実施します。
  • 屋外歩行練習
    退院後の生活を想定し、段差・坂道・買い物・交通機関の利用など、実生活に即した練習を行います。

このように、個々の状態を評価した上で難易度を調整し、歩行という課題に直結するようなプログラムが行われています。

痙縮に対する電気刺激や装具療法を検討

足首が内側に傾きやすい痙縮に対しては、筋肉の働きを整えながら歩行をサポートする方法を検討します。電気刺激療法は、適切な筋収縮を促し、過剰な緊張を抑える可能性が報告されています2)

また、この電気刺激に加えて下肢装具療法も、歩行持久力や筋活動の改善につながるとされています3)

  • 電気刺激:歩行や立ち座り練習と組み合わせて使用し、正しい筋活動パターンの再学習を促します。
  • 装具療法:足首の位置を安定させることで、転倒リスクを減らし、効率的な歩行を可能にします。

装具は装着するだけでは効果が十分に発揮されません。正しい装着方法や歩き方の練習まで含めてリハビリテーションと考えます。

 残されている感覚を活かしながら再学習を促す

感覚と運動は切り離せない関係にあるため、動きを良くするためには「感じる力」を高めることも重要です。感覚練習を行うことで、歩行速度が向上する可能性が報告されており、「質×量」のリハビリと併用することで、より高い効果が期待されています4)

感覚にも様々な種類がありますので残されている感覚をもとに、歩きやすい運動のイメージを意識した歩行練習も行います。

  • 感覚再教育
    足裏で様々な素材に触れたり、圧刺激を与えて感覚への注意を促します。また、立った状態で足裏の「どの部分に体重がかかっているか?」や、「親指の付け根のほうに体重を移動しましょう」など感覚当てや体重移動の練習を行います。
  • 視覚入力の活用
    鏡を用いて自分の姿勢や歩き方を確認することで、視覚情報と身体感覚を統合します。「右に傾いている」、「足が外を向いている」といった情報をもとに自己修正を促し、正しい動きの再学習につなげます。

このように、残存している感覚を最大限に活かす視点と、わかりにくくなった感覚を再び学習する視点の両面からアプローチを実施します。


リハビリによって歩行に変化を認めた事例

脳卒中後の歩行障害は、必ずしも発症前と同じ状態に戻るとは限りません。しかし、適切なリハビリテーションを行うことで、自立した生活や趣味活動の再開につながるケースは少なくありません。

ここでは、回復期リハビリを通して歩行に変化がみられた事例をご紹介します。

事例:自信が持てずに一人で歩けなかった方が、愛犬の散歩へ

Aさん(50代・脳梗塞)は、歩行時に足首が内側に傾きやすく、不安定な状態でした。転倒への恐怖心から、一人で立つことにも強い不安を感じていました。

リハビリでは、下肢装具を装着しバランス練習や荷重練習、電気刺激を併用した歩行練習などを中心に実施しました。

徐々に自分の力でつま先が上がるようになってきたことから、下肢装具をより軽量なタイプへ変更し、屋外での歩行練習も行なえるようになりました。

その後は屋外歩行練習へと進み、「犬の散歩も行けるかもね」と前向きな言葉が聞かれるようになりました。歩くことへの自信が少しずつ回復し、ご家族とともに歩行練習やストレッチ、筋トレなどの自主練習にも取り組まれました。


退院時には、杖や装具を使用せずに早歩きが可能となり、目標であった愛犬との散歩を再開することができました。

家族ができる関わり方

リハビリは専門的な知識や技術を持った人にしかできないと考える家族は少なくないと思います。しかし、実際の生活では、専門家と過ごす時間よりも家族と過ごす時間のほうが圧倒的に長くなります。

そのため、日常生活の中での家族の関わり方が、歩行の回復に大きく影響することも少なくありません。無理のない範囲で自主的なリハビリを支えることが大切です。

【家族ができる関わり方とサポート】

  • 必要以上に手伝わない
    危険がなければできるだけ本人に動いてもらいましょう。立ったり歩いたりする機会を減らさないことは、運動量を保つうえで重要なポイントです。
  • 自宅環境を整える
    家具の配置を工夫したり、手すりを設置したり、福祉用具を活用することで「できること」が増えます。できることが増えると、立ち座りや方向転換、歩行の機会が自然と増え、日常生活そのものがリハビリになります。
  • 屋外活動のサポート
    散歩や買い物など、家族の付き添いがあれば行なえる場合も多いです。屋外の細かな段差や傾斜のある路面での歩行、買い物での方向転換や物を持っての移動は回復期リハビリでも行われる大切な練習です。退院後も継続することで、歩行に良い影響を与える可能性が高いです。

おわりに

脳卒中後の歩行障害に対するリハビリテーションでは、「なぜ歩きにくいのか」という原因を丁寧に整理し、一人ひとりの状態に合わせた取り組みを行うことが大切です。

歩行の悩みは、筋力や麻痺だけでなく、感覚やバランス、生活環境など複数の要因が重なって生じます。そのため、自己流で無理を重ねるのではなく、医師や理学療法士・作業療法士などの専門職に相談しながら進めることで、より安全で効率的な回復につながる場合があります。

歩きにくさに悩んだときや、自主的なリハビリをより効果的に行うためにも、定期的に専門職へ相談することをおすすめします。

 参考文献

  1. 日本脳卒中学会,脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025), https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf
  2. Yingxiu Diao,Superior efficacy of 100-Hz transcutaneous electrical nerve stimulation in reducing post-stroke spasticity:a systematic review and meta-analysis,Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation,Volume22,210,(2025)
    https://link.springer.com/article/10.1186/s12984-025-01744-3
  3. You Jin Choo,Min Cheol Chang,Effectiveness of an ankle-foot orthosis on walking in patients with stroke:a systematic review and meta-analysis,Scientific Reports11,15879(2021)
    https://www.nature.com/articles/s41598-021-95449-x
  4. Federico Temporiti,Effects of somatosensory discrimination training on motor and functional recovery in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis,Topics in Stroke Rehabilitation,2025,10,32(7):757-768
    https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10749357.2025.2463285

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この記事の著者

廣田 雄也

廣田 雄也

理学療法士/保健医療学 修士

プロフィール詳細

2008年に理学療法士免許を取得。10年間の医療機関での勤務を経て、2018年に自費整体院を開業。同年に国際医療福祉大学大学院で修士を取得。翌年より整体院経営と並行してフランスベッド株式会社に所属し、医療機器のフォローアップや福祉用具の開発に携わる。2021年に東京さくら病院(現 タムスさくら病院江戸川)のリハビリテーション科長に着任。現在はおくさわ脳卒中リハビリテーション病院に勤務し、リハビリテーション部長として部内のマネージメントに取り組んでいる。座右の銘は「当たり前のことを当たり前に」。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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