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高次脳機能障害とは?注意・記憶・遂行機能の見えない困りごと 〜社会復帰へつなぐリハビリ〜

こんな人に読んでほしい!
  • 脳梗塞や頭部外傷のあと、身体は動くのに生活がうまくいかないと感じている方
  • ご家族として、本人の変化に戸惑いながら支えている方
  • 復職・復学に向けて、何から整えればいいか知りたい方
  • リハビリで注意・記憶・遂行機能をどう支援するのか知りたい方

はじめに

脳梗塞や脳出血、交通事故などによる頭部外傷のあと、身体の後遺症がほとんど目立たないにもかかわらず、日々の生活や仕事でつまずくことがあります。その原因の多くは高次脳機能障害によるものです。

たとえば、約束を忘れる、話を聞いているのに内容が頭に入らない、同時に頼まれると混乱してしまう、やるべきことがあるのに手が止まってしまう、などです。

こうした変化は、本人にとっても周囲にとっても理由が見えにくく、誤解を生みやすいものです。これが、いわゆる高次脳機能障害の「見えない困りごと」です。

大切なのは、高次脳機能障害のこの症状は本人の努力不足でも性格の問題でもない、という点です。脳の働きに変化が起きた結果として、注意・記憶・遂行機能などが弱くなり、これまで当たり前にできていた生活が、少しずつ回りにくくなってしまうことがあります。

この記事では、高次脳機能障害の中でも代表的な、注意障害・記憶障害・遂行機能障害に焦点を当て1)、リハビリテーション現場で行う「環境調整」と「代償手段の獲得」を、できるだけ具体的にまとめます2)


生活の中で現れやすい3つの困りごと

注意障害

注意障害には、集中力が続かない、気が散りやすい、同時に複数のことを処理するのが苦手とになるといった症状があります。

注意障害があると、静かな場所ではできていたことが、生活場面で急に難しくなります。テレビの音、家族に話しかけられること、スマートフォンの通知など、様々な刺激が重なるだけで頭が混乱してしまいます。

その結果、ミスが増えたり、強い披露を感じやすくなったりします。

記憶障害

記憶障害では、新しいことを覚えておくことが難しく、忘れてしまうことが主な症状として現れます。周囲の人は「さっき確認したのに」、「昨日も言ったのに」と思ってしまう場面が増えてしまいます。

特に、新しい予定や約束、作業手順などが覚えにくく、本人も落ち込みやすくなってしまうため、外出や会話を避けるようになることも少なくありません。

遂行機能障害

遂行機能障害は作業の段取りを組むことや、物事の優先順位をつけること、作業を切り替えることが難しくなる障害です。

この症状は、やる気がない、怠けていると誤解されやすい点が特徴です。しかし実際には、目標に向かって何から始めればよいのかわからなかったり、どの順番で進めればよいのか戸惑っていたりする状態です。家事や仕事など、工程が多い活動ほど、その影響は強く現れます。


脳を訓練するだけではなく、「生活が回る仕組み」をつくる

作業療法士である筆者が、高次脳機能障害の支援において必ず意識している大切な考え方があります。それは、できない部分を根性で埋めようとするのではなく、「生活が回る仕組み」を先に作ることです。

もちろん、脳の器質的なトレーニングそのものは、医学的にも一定の効果が検証されており3) 4)、重要なリハビリテーションの一つです。しかし、こうしたトレーニングは効果が現れるまでに時間を要することも多く、必ずしも病前と同じレベルまで回復できるとは限りません。

回復を待つあいだ、生活や社会参加が止まってしまうことも少なくないのが現実です。

そこで、作業療法では、生活を先に立て直すという視点を重視します。具体的には、次の2つを軸に、生活の土台を整えていきます。

①環境調整(ミスが起きにくい場の設計)
②代償手段の獲得(道具の工夫)

脳の回復を待つだけでなく、今ある力で無理なく続けられるやり方をつくること、その積み重ねが結果として自信の回復や社会復帰への一歩につながります。


 日常生活を支える具体的な工夫

注意障害:環境調整(刺激を減らし、疲労を管理する)

注意障害を有する人に対して、「もっと集中しなさい」と伝えても改善はしません。まず整えるべきは、本人の努力ではなく環境です。

  • 机の上は今使うものだけにする
  • 作業場所はできるだけ静かにし、視界に入る情報を減らす
    (壁を向いた机やパーテーションの活用など)
  • 指示は短く、1回に1つずつ出す

こうした環境調整だけでも、ミスは大きく減ります。見落とされがちなのが易疲労性です。高次脳機能障害のある方は非常に疲れやすく、疲労が蓄積すると集中力の低下や感情の不安定さにつながります。

休憩を気分ではなく、予定としてあらかじめ組み込み、集中できる時間に合わせて作業量を設計していくことが大切です。

記憶障害:代償手段の獲得(メモリーノートで見る習慣を訓練する)

記憶が保ちにくいとき、鍵になるのは情報の外部化です。リハビリテーションでよく行われる方法の一つが、メモリーノートを作成し、それを習慣化する支援です5) 6)

予定、ToDo、出来事、連絡事項などをあちこちに分散させると、それだけで探す負担が増えてしまいますので、基本は1冊に集約することがポイントです。

そして、書くこと以上に大切なことは、「決まったタイミングで見ること」です。例えば、以下のように必ずノートを確認する時間をあらかしめ設定します。

  • 朝食後にノートを開く
  • 昼の休憩時にチェックする
  • 夜の就寝前に振り返る

この儀式のような確認のタイミングを固定化し、スマートフォンのアラームやリマインダーと連動させます。記憶障害のある方にとって、ノートは単なるメモではありません。

記憶の代わりとなり、生活のリズムを整える脳の一部として機能させることが理想です。

遂行機能障害:代償手段の獲得(段取りを「見える化」する工程分析)

段取りが苦手な方に対して、作業療法でよく用いるのが工程分析です7)たとえば、洗濯という一つの家事でも、実は多くの手順があります。

「洗濯物を集める → 洗濯機に入れる → 洗剤を入れる → スタートボタンを押す → 洗濯機が止まったかどうか確認する → 干す → 取り込む → 畳む → タンスにしまう」

こうして書き出してみると、私たちが無意識に行っている動作の多さに気づきます。遂行機能障害があると、この一つひとつを頭の中で整理することが難しくなり、途中で留まってしまったり、順番が入れ替わってしまったりします。そこで、工程を紙に書き起こし、終わるごとにチェックを入れます。必要に応じて、写真つきの手順書にすると、さらに効果的です。

頭の中で情報が混線してしまう情報を、いったん外に出して整理すること、それが段取りを「見える化」するということです。


社会復帰のための合理的な配慮

社会復帰に向けた支援の本質は、本人の努力を増やすことではありません。むしろ重要なのは、職場や学校といった受け入れる側がミスマッチを減らすことです。

高次脳機能障害のある方に、「もっと頑張って」、「もっと気をつけて」と求め続けるだけでは、状況は改善しません。必要なのは、能力を引き出すために環境を整えることです。

たとえば、職場では合理的配慮として次のような工夫が有効です。

社会復帰に向けた支援の工夫

  • 指示は口頭より文書(メール・メモ)で伝える
  • 同時に複数の依頼をしない
  • 静かな作業環境を確保する
  • 休憩をあらかじめスケジュールに組み込む
  • タスクを小分けにし、期限を明確にする

こうした配慮は特別扱いではありません。本人の力を正しく発揮できる条件を整えるという、ごく合理的な支援です。高次脳機能障害の支援とは、本人を変えることではなく、環境との関係を調整することです。

その積み重ねが、安心して社会の中に戻るための土台になります。


まとめ

最後に、高次脳機能障害を支えるテクノロジーについて触れておきます。近年では、スマートフォンのリマインダー機能やスケジュール管理アプリ、音声入力、ウェアラブル機器、文章生成AIなど、生活を支える選択肢が広がっています。

道具が変われば、できることの形も変わります。テクノロジーは、機能の回復や再獲得を支える可能性を持ちながら、今ある力を活かして生活を整えていくための一つの選択肢でもあります。

本稿で紹介した環境調整や代償手段の工夫、そしてテクノロジーの活用を通して、生活が少しずつ整い、本人が「これならやっていけるかもしれない」と感じられる瞬間が、静かに積み重なっていくことを願っています。

参考資料

浅田 佑太,北村 新,坂田 祥子,近藤 国嗣,大高 洋平:課題の工程分析に基づいた段階的な難易度調整によるトイレ移乗動作練習を実施した一例.作業療法 42(3):383-390,2023.

日本高次脳機能学会:令和5年版 高次脳機能障害 診断基準ガイドライン, https://www.higherbrain.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/05/3d0ea16d324fc6313b475a145fb6de0c.pdf

日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(改訂2025)編:脳卒中ガイドライン委員会(改訂2025), https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf

Kumar J.,Patel T.,Sugandh F.,Dev J.,Kumar U.,他:Innovative Approaches and Therapies to Enhance Neuroplasticity and Promote Recovery in Patients With Neurological Disorders: A Narrative Review.Cureus 15(7):e41914,2023.

Zotey V.,Andhale A.,Shegekar T.,Juganavar A.:Adaptive Neuroplasticity in Brain Injury Recovery: Strategies and Insights.Cureus 15(9):e45873,2023.

大石 斐子,齋藤 玲子,小田柿 誠二,補永 薫,立石 雅子:メモリーノートの活用の成否に関わる要因 ─回復期病棟における検討─.認知リハビリテーション 18(1):29-37,2013.

西村 武:重度高次脳機能障害者のメモ訓練の一例 メモ形式・訓練方法の改良と訓練効果について.職業リハビリテーション 16:52-59,2003.

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この記事の著者

川﨑 一平

川﨑 一平

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1987年熊本県生まれ。大学卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。2014年から2年間、青年海外協力隊としてマレーシアの障害者支援NGOで活動し、異文化の中でリハビリや生活支援に携わる。帰国後、東京大学大学院に進学(国際協力学)。2019年より京都橘大学でアカデミックキャリアをスタートさせ、2025年に静岡大学大学院で博士号を取得(情報学)。現在は福岡の令和健康科学大学に勤務し、在宅環境を3Dで表現して生活支援の評価に役立てる研究や、リハビリテーション領域におけるAI技術の応用研究に取り組んでいる。プライベートでは1児の父として子育てに奮闘中。座右の銘は「行動は最良の選択」。大学教育のほか、フリーのOTとして臨床・執筆・講演・事業コンサルティング等にも取り組んでおり、ご依頼はippei.kawasaki.615@gmail.comまで。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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