はじめに
パーキンソン病というと、手の震えや体の動きにくさといった運動症状を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際、診断のきっかけになるのも、歩きにくさや動作の遅さといった変化であることが少なくありません。
しかし、臨床の現場で患者さんやご家族と向き合っていると、動きにくさ以上に日々の生活を難しくしている症状があることに気づきます。それが、自律神経の不調によるさまざまな困りごとです。
自律神経は、私たちが意識しなくても働き続け、血圧を調整し、食べ物を消化し、排尿のタイミングを整え、体温を一定に保つといった役割を担っています。この大切な調整機能が乱れることで、立ちくらみや便秘、夜間頻尿、飲み込みにくさといった症状が現れ、日常生活のしやすさに大きく影響します1)。
こうした症状は一見すると、年齢のせいや体力の低下のせいと受け止められてしまうこともあります。しかし実際には、パーキンソン病の特徴として生じることが多く、適切な理解と対策によって生活の負担を軽くできる可能性があります。
本記事では、自律神経症状が起こる背景と、リハビリ専門職の視点から日常生活の中で実践できる工夫についてお伝えします。
なぜパーキンソン病で自律神経症状が起こるのか
パーキンソン病では、神経細胞の中に異常なタンパク質(αシヌクレイン)が蓄積し、神経の働きが徐々に低下していきます2)。この変化は脳の運動機能に関わる部分だけでなく、腸や心臓、膀胱など、自律神経が関係する臓器にも広がることが知られています3)。
その結果、血圧の調節がうまくいかなくなったり、腸の動きが遅くなったり、膀胱の働きが不安定になったりします。これらの変化はゆっくり進むため、気づかないうちに生活の負担となっていることも少なくありません。
大切なことは、「仕方がない」と我慢するのではなく、病気の特徴として理解し、生活の工夫につなげていくことです。
心血管系の症状:立ちくらみ・食後の血圧低下
パーキンソン病では血圧を保つ神経機能が低下し、立ち上がったときにふらつく起立性低血圧がみられることがあります4)。朝の洗面やトイレの場面で突然ふらつくことは、転倒の危険にもつながります。
こうした症状への対策として、急に立ち上がらず段階的に体を起こすことが基本になります。また、立ち上がる前に足踏みや足首の運動を行うことで血流が促され、ふらつきの予防につながります。弾性ストッキングの活用や、つま先立ち運動などでふくらはぎの筋力を保つことも有効です。
さらに、食後に強い眠気やだるさを感じる場合は、食事量や内容を見直すことも大切です。一度にたくさん食べるのではなく分食を心がけたり、水分を適度にとったりすることで、体への負担を軽減できる場合があります。
消化器症状:便秘と嚥下障害
便秘はパーキンソン病で非常に多くみられる症状の一つです5)。腸の動きが低下することに加え、運動量の減少や食事量の変化なども影響します。
生活の中では、十分な水分摂取や、決まった時間にトイレに座る習慣づくり、ウォーキングなどの軽い運動が基本になります。腹部を優しくマッサージすることも腸の動きを助ける方法の一つです6)。
また、飲み込みにくさがある場合には注意が必要です。姿勢を整えて食事をする、一口量を減らす、水分にとろみをつけるなどの工夫によって、安全に食事ができる可能性が高まります。
泌尿器症状:夜間頻尿と尿意切迫
膀胱の働きを調整する神経機能が低下すると、尿が十分にたまっていなくても尿意を感じることがあります。夜間頻尿は睡眠の質を低下させるだけでなく、暗い中での移動による転倒リスクも高めます。
夕方以降の水分やカフェインの摂取を控えること、トイレまでの動線を短くすること、足元を照らすライトを設置することなどは、生活の安心につながる工夫です。状況によってはポータブルトイレや吸水パッドを活用することも選択肢になります。
リハビリの役割
パーキンソン病のリハビリは、単に筋力を高めたり動きを改善したりすることだけを目的としたものではありません。近年の研究では、運動療法や生活環境の調整が、身体機能だけでなく生活の質(QOL)や非運動症状にも影響を与えることが報告されています8)。
特に自律神経症状によって生じる生活のしづらさに対しては、その人の日常生活の状況を丁寧に見つめ、無理なく続けられる生活の形を一緒に整えていくことが重要になります。
例えば、適度な運動は心肺機能の維持や歩行能力の向上だけでなく、自律神経バランスの改善にも関係するとされています9)。また、適度な運動を継続することは便秘や睡眠障害などの非運動症状の改善にもつながる可能性があります。
さらに、住環境の調整や福祉用具の活用は、転倒予防や日常生活の安全性向上に大きく寄与します。手すりの設置、動線の見直し、照明の工夫などは、一見小さな変化のように思われますが、安心して生活できる時間を確実に増やします。
作業療法や理学療法では、「できることを維持する」、「続けられる生活をつくる」といった視点を大切にしています。日常生活動作の練習や活動の再構築を通して、その人らしい生活の継続を支えます。
おわりに
パーキンソン病は、動きにくさだけでなく、自律神経症状によって日常生活のしづらさが生じる病気です。立ちくらみや便秘、頻尿、睡眠の問題などは、生活の安心感を少しずつ揺るがします。
しかし、こうした症状は適切に理解し、生活の中で工夫を重ねることで、負担を軽減できる可能性があります。大切なのは、我慢したり諦めたりするのではなく、「どうすれば生活しやすくなるか」という視点を持つことです。
環境調整や運動習慣の見直し、食事や排泄の工夫など、小さな取り組みの積み重ねが生活の質の向上につながります。また、症状の現れ方は人それぞれであるため、作業療法士や理学療法士などの専門職と相談しながら、自分に合った生活の整え方を見つけていくことが重要です。
病気とともに生きることは簡単ではありませんが、生活を整えることで、安心して過ごせる時間を少しずつ増やしていくことは可能です。日々の小さな工夫が、自分らしい生活を守る力になります。無理をせず、専門職の支援を受けながら、一歩ずつ生活を整えていくことが大切です。
本記事に関連してパーキンソン病についてさらに詳しく知りたい方は「パーキンソン病と向き合う暮らし方 〜症状の特徴とリハビリテーションの役割〜」も是非ご覧ください。興味のある方は下のボタンから移動できます。↓
引用文献
1)Zhang, W., S. Bi, and L. Luo. "The Impact of Long-Term Exercise Intervention on Heart Rate Variability Indices: A Systematic Meta-Analysis.". Front Cardiovasc Med 12 (2025): 1364905. https://doi.org/10.3389/fcvm.2025.1364905.
2)Pfeiffer, Ronald F. "Autonomic Dysfunction in Parkinson's Disease." Neurotherapeutics 17, no. 4 (2020/10/01/ 2020): 1464-79. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1878747923012539.
3)Choong, C. J., and H. Mochizuki. "Neuropathology of α-Synuclein in Parkinson's Disease." [In eng]. Neuropathology 42, no. 2 (Apr 2022): 93-103. https://doi.org/10.1111/neup.12812.
4)Sharabi, Y., G. D. Vatine, and A. Ashkenazi. "Parkinson's Disease Outside the Brain: Targeting the Autonomic Nervous System." Lancet Neurol 20, no. 10 (Oct 2021): 868-76. https://doi.org/10.1016/s1474-4422(21)00219-2.
5)Fanciulli, A., F. Leys, C. Falup-Pecurariu, R. Thijs, and G. K. Wenning. "Management of Orthostatic Hypotension in Parkinson's Disease.". J Parkinsons Dis 10, no. s1 (2020): S57-s64. https://doi.org/10.3233/jpd-202036.
6)Yu, Qiu-Jin, Shu-Yang Yu, Li-Jun Zuo, Teng-Hong Lian, Yang Hu, Rui-Dan Wang, Ying-Shan Piao, et al. "Parkinson Disease with Constipation: Clinical Features and Relevant Factors." Scientific Reports 8, no. 1 (2018/01/12 2018): 567. https://doi.org/10.1038/s41598-017-16790-8.
7)McClurg, D., K. Walker, P. Aitchison, K. Jamieson, L. Dickinson, L. Paul, S. Hagen, and A. L. Cunnington. "Abdominal Massage for the Relief of Constipation in People with Parkinson's: A Qualitative Study.". Parkinsons Dis 2016 (2016): 4842090. https://doi.org/10.1155/2016/4842090.
8)Lorenzo-García, P., S. Núñez de Arenas-Arroyo, I. Cavero-Redondo, M. J. Guzmán-Pavón, S. Priego-Jiménez, and C. Álvarez-Bueno. "Physical Exercise Interventions on Quality of Life in Parkinson Disease: A Network Meta-Analysis.". J Neurol Phys Ther 47, no. 2 (Apr 1 2023): 64-74. https://doi.org/10.1097/npt.0000000000000414.
