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受診を勧めるのが難しいと感じるあなたへ ―保護者の「困り感」に寄り添い、共に歩むための支援者ガイド―

こんな人に読んでほしい!
  • 保育園・幼稚園・学校で、子どもの発達や行動面の課題に向き合っている保育士・教員
  • 保護者に受診を勧めたいが、伝え方やタイミングに悩んでいる支援者
  • 教育現場へのコンサルテーションに難しさを感じている作業療法士などのコメディカルスタッフ
  • 我が子の発達に不安を感じながらも、受診すべきか迷っている保護者

要約

発達障害が疑われる子どもの保護者に受診を提案することは、大人の「困りごと」を伝える場ではなく、子どもが発している「助けて」というサインを、保護者とともに理解していくプロセスです。目的は診断名をつけることではなく、写真やイラストの活用、指示の簡略化、環境調整など、その子の特性を活かした関わり方を見つけることにあります。こうした視点に立ち、子どもを主語として捉え直しながら、医療・教育・福祉の多職種で支援チームを構築していくことが重要です。


はじめに

保育現場や学校の先生方から、「発達上の課題が疑われるお子さんへの専門外来受診を、どうやって保護者に勧めればよいか」という切実な相談をよく受けます。

私たち専門職は、早期の適切な介入がいかに重要であるかを知っています。早い段階で専門家と繋がることは、単に生活スキルを向上させるだけでなく、将来の学習を支える機能を底上げし、何より本人の自信を失わせる二次障害を予防するための有効な手段の一つでもあります。

しかし、その正しさをそのまま保護者に伝えるだけでは、心に届かないことがあります。受診の提案は、時に保護者にとって「今までの子育てを否定された」と感じさせてしまうほどの重みを持っているからです。

大切なのは、受診という行為を勧める前に、私たち支援者が「保護者と共に、本人のしんどさをどう翻訳するか」という視点を持つことです。本稿では、支援の現場において「受診」をより前向きな選択肢として共有するためのタイミングや、伝え方について解説します。


保護者の「困り感」が高まっているときが、受診をすすめるチャンス

皆さんは病院にどのようなイメージをお持ちでしょうか。少なくとも元気なときには行かない場所ではないでしょうか。どこか悪い、日常生活に困っているからこそ通う場所です。

そのため、保護者が「困っていない」と感じている段階で受診を勧めることは、必ずしも有効とは言えません。想像してみてください。自分は調子がよく、いつもと変わらず元気だと思っていたときに、誰かから「なんか変だよ。病院に行ってみたら」と言われたらどう感じるでしょうか。

保護者から出てくる「困り感」を含んだ言葉としては、「この間もご迷惑をおかけしました…」、「毎日、小言を言ってばかりで…」などがあります。こうした言葉の裏側には、保護者自身の「どうにかしたいけれど、どうにもならない」という切実な思いが隠れています。

周囲が困っているから受診させるのではなく、保護者自身が困り感を自覚したとこそ、適切な専門機関への扉が開くタイミングと言えるでしょう。


それでも、保護者が受診をしてくれない! ときには

それでも、保護者が受診に踏み切れないケースは少なくありません。そんなときこそ、原点に立ち返る必要があります。

それは、「受診は目的ではなく、あくまで手段である」ということです。

私たち支援者の目的は、病院に行ってもらうことではなく、児の困り感を解消することです。そのためには、「この子を支える大人が複数人増える」という安心感を保護者に届けることが重要です。

その安心感が積み重なり、「専門家の知恵も借りてみようかな」と、保護者が自ら思えるようになったとき、その一歩は周囲に促されて受診するよりも、はるかに大きな意味を持ちます。

もし保護者がまだ「病院」というハードルを越えられないのであれば、無理に扉を押し開ける必要はありません。その場合は、受診を促す代わりに、まずは自身と保護者の関係を考え直してみましょう。園や学校で起こった出来事について、事実と意味が適切に伝わっているかを振り返ることが重要です。


「本人に困っている」ではなく、「本人が困っている」と正しく伝える

たとえば、多動・衝動性が高く、環境設定なしでは20分以上机に座っていることができない子がいたとします。それを教員が保護者に、「授業中、勝手に立ち歩くから困っている」と伝えたとしましょう。

果たして、困っているのは、誰でしょうか。

この場合、主語は、教員やクラスメイトになっており、保護者には「お子さんがみんなの邪魔をしている」という否定的なメッセージとして伝わります。すると保護者は申し訳なさから「家で厳しく言っておきます」と防衛的に応じるしかなく、対話は深まりません。

これは、教員と保護者が「問題のある子をどうにかする」という構図に陥り、お互いに責任の所在を探り合う関係になっている状態です。

だからこそ、「授業中、座っていられないので、本人が困っているようです」と正しく伝えることが重要です。

主語を「本人」に返すことで、大人たちは「どっちが指導するか」という敵対関係から、「本人のしんどさをどう取り除くか」を共に考えるチームへと変わることができます。支援の第一歩は、主語を正しく置き換えるという、たった一つの配慮から始まるのです。


大人の「困った」は、子どもの「助けて」のサイン

あと一歩で専門的な支援につながりそうな場面では、伝え方がより重要になります。大人の「困った」という言葉には、ときに攻撃性や責任転嫁のニュアンスが含まれることがあります。

しかし、経験の浅い子どもたちにとって「困った事態」は、単なる悩みではなく、生活そのものに関わる問題です。

子どもにとって、学校や園は世界のすべてです。その中で直面する困難に、たった一人で立ち向かわせる必要はありません。そのために、私たち大人が存在しているからです。

つまり、子どもの「困った」は、本人が発している「助けて(SOS)」とサインでもあります。そう翻訳できた瞬間に、周囲のまなざしには「慈しみ」や「工夫の余地」が生まれます。「子どものために」という言葉は、孤立していた保護者を支援のチームへと招き入れる、大切な合言葉となります。


保護者の「受診してどうなるの?」にどう答えるか

実はこの言葉には、「この子に何か治す必要のある部分があるのだろうか」、「ラベル(診断名)を貼られるだけではないか」という不安や、変化への恐れが隠れていることが多いです。その不安に対し、最後に安心を提供したいところです。

この問いに対しては、医療的なメリットだけでなく、「本人の未来」にどう繋がるかを、誠実に伝えることが重要です。

保護者からこの問いが出たときは、受診を「治療」のためだけではなく、「本人のトリセツ(取扱説明書)を、専門家と一緒に作る作業」だと伝えてみてください。

このトリセツは、その子の「特性の活かし方」をまとめたものです。例えば、以下のように作成することができます。

【好きなこと・得意なこと】

例:「視覚情報の処理が非常に速い」

言葉で何度も伝えるより、写真やイラストで手順を示すと、本人は驚くほどスムーズに行動できます

【嫌いなこと・苦手なこと】

例:「一度に複数の指示を聞き取ることが難しい」

本人の努力不足ではありません。指示は「一つずつ、短く」伝えることで、パニックや聞き漏らしを防ぐことができます。

【環境の整え方】

例:「特定の音や光に敏感で疲れやすい(感覚過敏)」

教室の入り口付近など人の出入りが激しい場所を避け、視界に余計な情報が入らない静かな席を用意することで、集中力を維持しやすくなります。

本人の特性と適切な関わり方を知ることで、これまで空回りしていた大人のエネルギーが、着実に本人の成長へと繋がるようになります。それが専門家たちによって得られるトリセツの価値なのです。

また、専門家が関わることのメリットについて、さきほどの立ち歩いてしまう児童を例に3つ挙げます。お伝えをする際には、それぞれ分かりやすく言い換えてみてください。

専門家の関わるメリット

①具体的支援の立案

診断は名前をつけることではなく、本人の「特性」を可視化するプロセスです。「なぜ座れないのか」という推測が、専門的な知見によって「どうすれば参加できるか」という具体的で合理的な工夫(合理的配慮)へと進化します。

②環境との適合に向けた調整

「座れない」原因が脳の特性にあると医学的に裏付けられることで、周囲は「本人を矯正する」という無理なプレッシャーから解放されます。注ぐべきエネルギーの矛先が、本人への叱責ではなく、集中しやすい環境作り(構造化)へと切り替わります。

③多職種連携による多層的支援

様々な専門職が加わることで、教育・福祉を繋ぐ「共通言語」が生まれます。客観的な指標を軸に全員が同じ状況を共有できるため、ご家庭を孤立させない多層的で強固な支援ネットワークを築くことが可能になります。


おわりに

受診の意義は、大人が困っているからではなく、本人の特性を変えるためでもありません。周囲の理解の解像度を上げ、子どもに合ったトリセツ、つまり「育て方のヒント」をもらう場所だと捉え直していただけたでしょうか。

診断名がついたからといって、その子が別人に変わるわけではありません。これまでも、これからも、目の前にいるのは同じ子どもです。ただ、その子の「見え方」が変わるだけで、日常の風景は驚くほど変わります。

主語を「本人」に、困り感を「助けて」に、そして不安を「安心」に。

そうした翻訳を繰り返しながら、私たちは子どもの「今」を、より良いものにするために関わり続けています。

※解説:「困り感」という言葉は、教育や福祉の現場で「本人が主観的に感じているしんどさ」を指す言葉として使われています。

 参考文献

  1. Stefanie N. Del Tufo,et al.:Early Intervention for Developmental Disabilities and Later Childhood Academic Outcomes:JAMA Network Open 6(5):e2311817,2023.
  2. Slavica Maksimović,et al.:Importance of Early Intervention in Reducing Autistic Symptoms and Speech–Language Deficits in Children with Autism Spectrum Disorder:Children(Basel) 10(1):122,2023.
  3. 本田秀夫:発達障害の子どもを早期発見・早期支援することの意義.精神科治療学 28(11):1457-1460,2013.
  4. 森川芳彦,他:放課後児童クラブにおける作業療法士のコンサルテーションの効果研究.小児保健研究 4:485-493,2021. 
  5. 高木一江,他:発達障害への早期介入 ―横浜市における早期発見・支援体制と,保護者のメンタルヘルス支援の在り方について.ストレス科学研究 30:27-34,2015.
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この記事の著者

角田 孝行

角田 孝行

作業療法士 / M.Sc. in Health Science

プロフィール詳細

1977年広島生まれ。20代前半を介護士として療養型病院に勤めていたが、一念発起し、30代で、作業療法士(OT)の免許を取得。その後、回復期リハビリテーション、認知症デイケアなどを経て、現在は子ども領域の作業療法を中心に取り組みながら、福岡の令和健康科学大学の専任教員を務め、後身の育成にあたっている。趣味は、作業療法と映画鑑賞。座右の銘は「志在千里」。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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