日本のリハビリは専門職との1対1の個別訓練が中心であるのに対し、スイスでは「入院自体がリハビリ」という考えのもと、患者が主体的に動く短期間集中型のプログラムが徹底されています。 スイスの医療現場では、最先端の歩行リハビリロボットやリアリティのあるVR技術を用いた「ゲーム感覚」のトレーニング、さらに1,000以上の自主トレ動画の提供など、退院後を見据えて成果を「見える化」する環境が整っています。 自らの回復に主体的に取り組むことの重要性と、日本と海外の仕組みの違いを専門家が解説します。
はじめに
日本のリハビリといえば、「セラピストと1対1で行う訓練」をイメージする方が多いのではないでしょうか。 実際、日本では回復期リハビリテーション病棟を中心に、1日最大3時間程度、専門職が個別で関わるリハビリが行われています。
しかし、スイスのリハビリ施設を訪れた時、そのイメージは大きく変わりました。
最も驚いたのは、リハビリの時間以外でも、多くの患者さんが自主的に身体を動かしていたことです。 病院全体に「回復は自分自身でつかみ取るもの」という空気感が流れていました。そこは、リハビリは特別な時間ではなく、「1日を通して積み重ねていくもの」として考えられていました。 つまり、「入院自体がリハビリ」といった考え方です。
本稿では、スイスの実際に見たリハビリの特徴について、一般の方にも分かりやすく紹介します。
リハビリは短期間集中型
前編でお伝えしたように、リハビリテーションの役割について、日本とスイスでは少し異なる印象を受けました。 日本では回復期リハビリテーション病棟で数カ月単位の入院も珍しくありませんが、私が見学したスイスの施設では、1カ月程度で退院するケースが多いとの説明を受けました。
その理由は、リハビリの進め方にあります。スイスでは、「短期間で集中的に身体や生活機能を引き上げ、 早期に社会復帰を目指す」という考え方が徹底されています。
実際に現地スタッフへ話を聞くと、リハビリのゴールは「病院で良くなること」ではなく、「仕事や家庭生活に戻り、病前レベルに最大限近づけること」だと説明していました。 これは日本でも共通する考え方ですが、比較的身体機能が高い患者さんが多く入院しているスイスのリハビリ病院では、その考え方がより強く根付いているように感じました。
※棒の長さは入院期間のイメージを示すもので、実際の数値ではありません。
※筆者の見学・聴取をもとに作成
リハビリは「1対1だけではない」
日本のリハビリは、セラピストと1対1で行う時間が中心です。一方、スイスではそれだけに頼らない構成になっていました。 印象的だったのは、「患者自身が積極的に取り組む時間の多さ」です。
施設内にはさまざまなトレーニング機器が整備されており、患者はリハビリ時間以外にも自主的にトレーニングを行います。 入院しているほとんどの方が自主トレーニングを行っていました。 病棟の廊下を歩いていると、セラピストが付き添っていない時間にも、エルゴメーター(自転車型のトレーニング機器)で運動している人や、 歩行練習を続けている方を多く見かけました。入院中の患者さんが「自分で回復に取り組むこと」を自然に受け入れている姿は非常に印象的でした。
※構成比はイメージです。実際の割合は施設・患者状態により異なります。
※筆者の見学・聴取をもとに作成
ロボットが支えるリハビリ
スイスの施設で特に目を引いたのが、ロボットを活用したリハビリです。
例えば歩行訓練では、専用のロボット装置が脳卒中や脊髄損傷患者の脚の動きをサポートしながら、効率的に歩行練習を繰り返すことができます1)。 これにより、セラピストが手で支え続ける必要がなくなり、患者はより安全に、そして多くの回数をこなすことができます。 これは、セラピストに対しても負担軽減になっています。
また見学中、患者さんが画面を見ながら楽しそうに歩行練習をしている姿が印象的でした。 そばから見るとゲームをしているようですが、実際には転倒予防やバランス能力向上につながる重要なトレーニングでした。
こちらも日本の多くの病院で導入が進んでいますが、ロボットの規模やVR映像の豊富さなど、どれをとっても参考にしたいものばかりでした。 映像や結果が目に見えることで、モチベーションの維持にもつながります。
今後、セラピストの高齢化が進むことを考えると、こうした機器は患者だけでなく、 セラピスト自身の身体的負担軽減にもつながる可能性があります。
「ゲーム感覚」で行うリハビリ
さらに興味深かったのは、VR(仮想現実)や映像技術を活用したトレーニングです。
例えば、VR上で行う歩行訓練では画面上に障害物が表示され、それを避けながら歩く練習を行います。 日本でもVRを導入したリハビリテーションを積極的に行う病院も多くなってきておりますが、 よりリアリティのある映像で行っていたのが印象的でした。
これらの特徴は、単に楽しいだけでなく、患者自身が「できた」という実感を得やすいことです。 映像や結果が目に見えることで、モチベーションの維持にもつながります2)。
「見える化」されるリハビリ
スイスでは、リハビリの成果を数値やデータで把握する仕組みも整っていました。
例えば、1日の活動の中でどの時間帯に疲れやすいのか、どの動作で効率が落ちるのかを細かく分析し、 それをもとに生活リズムやトレーニング内容を調整していきます。 これと類似した内容として、日本では循環器の「心臓リハビリテーション」が挙げられます。
スイスでは循環器疾患に限らず、このような評価を細かく行っていました。 患者自身が体調や疲労度を定期的に記録し、その結果をスタッフと共有しながらリハビリ内容を調整していました。 退院後の自己管理に向け、自分自身の体調の「見える化」を徹底している印象でした。 これは、患者自身が自分の状態を理解しやすくするだけではなく、目標を明確にすることにもつながります。
※筆者の見学・聴取をもとに作成
自主トレーニングが当たり前の文化
もう一つ印象的だったのは、自主トレーニングの充実です。入院中だけでなく、退院後の自主トレーニングメニューも独自に作成されていました。
スイスでは、リハビリのない時間や休日も患者自身がトレーニングを行えるように、動画を活用したプログラムが提供されていました。 部位ごとに整理された動画を見ながら、自宅でも同じように運動を続けることができます。 なんと1,000を超えるメニューが用意されており、患者さんの状態に合わせて選択していきます。
つまり、「退院したら終わり」ではなく、退院後も継続できる仕組みがすでに組み込まれていたのです。 自主トレーニングを継続するための環境づくりまで含めてリハビリテーションとして捉えている点は、とても印象的でした。
目指すゴールの違いがリハビリの形を変える
こうした違いの背景には、「社会復帰をゴールとする考え方」があります。
スイスをはじめとするヨーロッパ諸国では、できるだけ早く元の生活に戻り、社会復帰を果たすことが重視されています。 そのために必要な能力を短期間で集中的に高める仕組みが整えられています3)。
一方、日本では多少時間を要しても、安全に生活できる状態まで回復することを重視し、 比較的長い期間をかけて支援していく傾向があります。
どちらが良い・悪いということではなく、目指すゴールや制度の違いが、リハビリの形にも表れていると感じました。
| 比較項目 | 日本 | スイス(欧州) |
|---|---|---|
| リハビリの最終目標 | 安全に生活できる状態まで回復すること | できるだけ早く社会・仕事・家庭に復帰すること |
| 入院期間のイメージ | 比較的長期(数カ月単位も) | 短期集中(1カ月程度が目安) |
| リハビリの主な形式 | セラピストとの1対1の個別訓練が中心 | 個別訓練+患者自身による自主トレーニング |
| 患者の主体性 | 専門職が主導しながら進める | 患者が自分で回復に取り組む文化が根付いている |
| 退院後のサポート | 外来リハビリや訪問リハビリに引き継ぐ | 1,000以上の自主トレ動画など、退院後の継続をリハビリの一環として設計 |
| 先端技術の活用 | 導入が進みつつある段階 | 歩行ロボット・VRなどが広く実装され、成果の見える化も徹底 |
※筆者の見学・聴取をもとに作成。施設・地域により異なる場合があります。
おわりに
スイスのリハビリ施設を訪れて感じたのは、リハビリは「特別な時間」ではなく、「生活そのものの中に組み込まれるもの」であるという考え方でした。 ロボットやVRといった先端技術の活用も印象的でしたが、それ以上に、患者自身が主体的に取り組む仕組みが整えられている点が特徴的でした。
健康づくりや運動習慣は、病院だけで完結するものではありません。 スイスで見た光景は、自らの回復や健康づくりに主体的に取り組むことの大切さを改めて考えさせてくれるものでした。
これからリハビリを受ける方や、医療に関わる方にとって、本稿がリハビリテーションのあり方について考える一つのきっかけになれば幸いです。
- ✓スイスのリハビリは「入院自体がリハビリ」という考えのもと、患者が主体的に動く短期間集中型プログラムが特徴
- ✓セラピストとの1対1だけでなく、患者自身が自主的にトレーニングに取り組む文化が根付いている
- ✓歩行リハビリロボット・VR技術など最先端機器を活用し、成果の「見える化」とモチベーション維持を両立
- ✓1,000以上の自主トレ動画を提供し、退院後も継続できる仕組みをリハビリの一部として組み込んでいる
- ✓ゴールや制度の違いがリハビリの形を変える―日本とスイスの比較から、自分の回復に主体的に取り組む大切さを再認識できる
スイスのリハビリ施設を訪れるまで、私自身も「リハビリ=セラピストとの時間」というイメージを持っていました。 しかし現地で目にしたのは、患者さんが自ら機器に向かい、意欲的に取り組む姿でした。 日本とスイス、それぞれに強みがありますが、「患者自身が主体となる回復の文化」は日本でも大いに参考になると感じています。 この記事が、リハビリテーションについて改めて考えるきっかけになれば幸いです。
― 平野博文(認定作業療法士・Ph.D.)
- 浅見豊子,他. リハビリテーション治療におけるリハビリテーションロボットの適用と限界. Jpn J Rehabil Med. 2020. 57
- 綿貫啓一. 歩行訓練・作業訓練における身体感覚の獲得および完成. 感性工学. 2023. 21. 1
- 奥野英子. 諸外国におけるリハビリテーションの概念・定義とプログラム. 心身障害学研究. 2003. 27. 31-42
