学校や職場で人より疲れやすさを感じる背景には、本人の性格や努力不足ではなく、 音や光、人混みといった周囲の刺激に対する「感覚の特徴(感覚過敏)」が関係している場合があります。 感覚に敏感なことは異常ではなく多様な個性の一つであり、しんどさを個人の問題として抱え込まずに「環境との相性」として整理することが大切です。
自分が疲れやすい場面や落ち着ける条件をまとめた「自分の取扱説明書(トリセツ)」をつくり、周囲と共有することが生きづらさを軽減する第一歩となります。
「自分が弱いから」と思う前に、感覚の特徴に目を向けてみる
学校や職場、家庭での生活の中で、「なぜか人より疲れやすい」「人と話した後にぐったりする」 「音や光が気になって集中できない」と感じることがあります。
こうしたしんどさは、本人の性格や努力不足ではなく、感覚の受け取り方や刺激への反応のしやすさが 関係している場合があります。このような感覚の特徴は、子どもの支援では少しずつ知られるようになってきました。
しかし、思春期や青年期の学生、就労を目指す若者には、まだ十分に伝わっていないように感じます。 そのため、本人は「自分が弱い」「自分は社会に向いていない」と受け止め、自尊心を低下させてしまうことがあります。
感覚に敏感であることは、異常ではありません。 人類の進化という視点から見ても、周囲の変化に敏感に気づく人が一定数いることは不自然なことではなく、 人の多様な特徴の一つとして理解できます1)。
筆者は、就労が難しい若者の支援に約3年間関わり、現在は高校生に対する学習支援の相談役としても活動しています。
その経験から、若者の生きづらさを「本人の問題」として抱え込ませるのではなく、感覚の特徴と環境との相性として整理することの大切さを感じています。
本稿では、感覚調整の特徴が日常生活や学習、就労、対人関係にどのようにつながるのかを整理し、自分の特徴を周囲に伝えるための「自分の取扱説明書」をつくる視点を紹介します。
- ▶感覚の特徴は、思春期・青年期の生きづらさの背景にもなりうる
- ▶音、光、触覚、におい、人混みなどへの反応は、人によって異なる
- ▶感覚に敏感なことは、異常ではなく、人の多様な特徴の一つである
- ▶「自分の問題」と抱え込みすぎず、環境との相性として整理することが大切
- ▶自分の取扱説明書をつくり、周囲と共有することが生きづらさの軽減につながる
感覚の特徴と若者の生きづらさのつながり
「自分の問題」と受け止めすぎない
思春期や青年期は、自分と周囲を比べやすい時期です。友人が普通にできていることが自分には難しい、授業に集中できない、アルバイトや実習で疲れ切ってしまう、人と関わった後に強い疲労感が残る。 こうした経験が続くと、「自分はだめだ」「自分は社会に向いていない」と考えてしまうことがあります。
しかし、感覚の特徴によるしんどさは、外から見えにくいものです。 周囲には普通の環境に見えても、本人は音、光、人の動き、におい、触覚など、多くの刺激を処理するために大きなエネルギーを使っている場合があります。 困りごとを、本人の性格や努力不足だけで説明しないことが大切です。
感覚に敏感なことは、異常ではなく特徴である
感覚に敏感であることは、決して珍しいことではありません。 人には、周囲の刺激に気づきやすい人もいれば、あまり気にならない人もいます。 これは、どちらが良い、悪いという話ではなく、情報の受け取り方の違いです。
敏感であることは、単純な弱点ではありません。 周囲の変化に気づきやすい、人の表情や空気の変化を感じ取りやすい、細かな違和感に早く気づけるといった面では、強みになることもあります。
一方で、刺激が多すぎる環境では、疲れやすさや集中しにくさにつながることがあります。 つまり、感覚の特徴は、環境によって負担にも強みにもなります2)。
学習・仕事・対人関係のしんどさにも関係する
学校や職場では、さまざまな刺激が同時に入ってきます。 教室や職場のざわざわした音、周囲の人の動き、明るすぎる照明、画面の光、人との距離感などが重なることで、授業や仕事の内容に集中する前に疲れてしまうことがあります。
対人関係でも同じです。会話では、言葉の内容だけでなく、声の大きさ、話す速さ、表情、視線、周囲の音など、多くの情報を処理しています。
そのため、集団での会話や雑音の多い場所では、内容を理解するだけで精一杯になることがあります。 これは「人が嫌い」「コミュニケーションが苦手」というだけではなく、刺激の量が多すぎることで起こる負担かもしれません。
自分の取扱説明書をつくる
感覚の特徴を理解するうえで役立つのが、自分の取扱説明書をつくることです。 難しいものにする必要はありません。 自分がどのような場面で疲れやすいのか、どのような環境なら落ち着きやすいのかを、少しずつ言葉にしていくことから始めます。
- ▶「音が多い場所では話を聞き取りにくい」
- ▶「明るすぎる場所では集中しにくい」
- ▶「人が多い場所では短い休憩が必要」
- ▶「静かな場所なら落ち着いて作業しやすい」
大切なのは、取扱説明書を「自分だけで頑張るためのもの」にしないことです。 それは、自分を責めるためではなく、周囲の人にわかってもらうためのものです。 家族、先生、職場の人、支援者などと共有することで、自分に合った学び方、働き方、関わり方を考える出発点になります。
感覚の特徴を知ることが、なぜ生きづらさの軽減につながるのか
感覚の特徴を知ることは3, 4)、自分に名前をつけたり、自分を分類したりするためではありません。 自分を責め続ける状態から少し離れ、生活を工夫するための手がかりを得ることにつながります。
- ▶「自分のせいだけではない」と理解できる――自尊心の低下を防ぐきっかけになる
- ▶対策が具体的になる――「頑張る・我慢する」から環境調整や休憩の取り方に変わる
- ▶周囲に説明しやすくなる――具体的に伝えることで、周囲も関わり方を考えやすくなる
まず1つ目は、「自分のせいだけではない」と理解できることです。 これまで「自分が弱いから疲れる」「自分の努力が足りない」と思っていたことも、感覚の特徴と環境の相性として整理できる場合があります。 この視点を持つことで、自尊心の低下を防ぐきっかけになります。
2つ目は、「対策が具体的になること」です。 困りごとを漠然とした性格の問題として捉えると、解決策は「もっと頑張る」「我慢する」になりがちです。 しかし、音が多い場所が苦手、光が強いと疲れる、人の多い場所では情報量が多すぎる、と整理できれば、 環境調整や休憩の取り方を考えることができます。
3つ目は、「周囲に説明しやすくなること」です。 感覚の特徴は見えにくいため、本人が困っていても周囲には伝わりにくいことがあります。 しかし、「私は音が多い場所では話を聞き取りにくいです」「明るすぎる場所では集中しにくいです」 「短い休憩を入れると落ち着いて取り組めます」と具体的に伝えることで、周囲も関わり方を考えやすくなります。
このように、自分の特徴を知ることは、我慢を増やすことではありません。 自分に合った環境や関わり方を見つけ、生活の負担を少しずつ減らしていくための出発点になります。
- ✓思春期・青年期の生きづらさの背景に、感覚の受け取り方や刺激への反応のしやすさが関係している場合がある
- ✓音・光・触覚・におい・人混みなどへの反応は人によって異なり、本人には大きな疲労やストレスにつながることがある
- ✓感覚に敏感なことは異常ではなく、人の多様な特徴の一つ。環境によっては強みとして働くこともある
- ✓自分の取扱説明書をつくり、家族・先生・職場の人・支援者と共有することが生きづらさの軽減につながる
- ✓スタートは「自分を変えること」ではなく、「どんな環境で疲れやすく、どんな条件なら力を出しやすいか」を知ること
- Aron, E. N., Aron, A., & Jagiellowicz, J. (2012). Sensory processing sensitivity: A review in the light of the evolution of biological responsivity. Personality and Social Psychology Review, 16(3), 262–282.
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