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肩関節周囲炎の病態と回復プロセス-リハビリの開始時期を分ける「炎症期」と「拘縮期」の科学的判断

こんな人に読んでほしい!
  • 肩関節周囲炎(五十肩)の痛みや動かしづらさに悩んでいる方
  • 痛みが強い時期に、肩を動かしてよいのか迷っている方
  • 肩関節周囲炎のリハビリを始めるタイミングを知りたい方
  • 肩関節周囲炎の回復過程や、痛みが続く期間の目安を知りたい方
この記事の要約

肩関節周囲炎(五十肩)は、滑膜炎と神経・血管新生が生じる「炎症期」から、関節包の線維化による「拘縮期」へと移行する疾患です。炎症期にはメラトニン分泌等の影響で強い夜間痛が生じ、組織が刺激に過敏になっています。この時期に痛みを我慢する過度なストレッチは推奨されず、痛みの出ない範囲での愛護的な運動と就寝姿勢の工夫が重要です。時期ごとの刺激への感受性を正しく評価し、適切な負荷のリハビリを行うことが回復の鍵となります。

はじめに

五十肩といった名前で知られる肩の痛みや動かしづらさは、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれています。

最近は肩のストレッチやほぐし方の動画などをネットやSNSで見る機会も多いと思いますが、痛みの強い時期にこのような体操をしてよいのか、疑問に思う方も多いと思います。

肩関節周囲炎のリハビリは、適切なタイミングで必要な介入を行うことがとても重要です。

今回は、肩関節周囲炎では、実際にどのような変化が起きているのかを踏まえ、夜間痛の機序や、ストレッチなどの体操はどのようなものを行うべきなのか、最新の情報に基づきながら解説します。

肩関節周囲炎とは?

日本で使われる「肩関節周囲炎」という用語はかなり広い診断名です。中年以降、特に50歳代に多く認められ、五十肩と呼ばれるものが該当します。

病態には、肩関節の動きを滑らかにする肩峰下滑液包や、関節を包む関節包などの組織に生じる炎症や癒着が関係し、痛みや動きの制限につながると考えられています。1)

肩関節に痛みを生じる、肩関節周囲炎以外の主な疾患
  • 上腕二頭筋長頭腱炎
  • 石灰沈着性腱板炎
  • 肩腱板断裂

今回の記事では、炎症期(痛みの強い時期)→拘縮期(動きの制限が顕著な時期)→回復期といった過程をたどる肩関節周囲炎について解説します。国際的にはfrozen shoulder(凍結肩)と呼ばれているものの病態を中心に解説をしていきます。

リハマッチでは、肩関節周囲炎を含む整形外科疾患・運動器の痛みに対応できる症状一覧をご紹介しています。あわせてご覧ください。

対応可能な症状一覧を見る →

肩関節周囲炎の一般的な経過

これまでは、炎症期→拘縮期→回復期を経て、自然治癒するという説明が一般的でした。そのため「1〜2年で自然治癒します」といった説明を聞いたことがある方もいるかもしれません。

しかしながら、2017年の自然経過に関する知見をまとめた研究では、治療を行わずとも改善はするものの、1〜4年後でも肩の動きが完全に正常にならない症例がいることが示されています。2)

そのため、多くは時間経過とともに痛み・可動域が改善しますが、回復には数カ月から数年がかかる場合もあり、すべての人が完全な可動域まで自然に回復するとは限らない、と捉えるのが適切です。肩関節周囲炎のリハビリでは、この長い自然経過を踏まえながら、その時期の症状にあわせて介入することが重要です。

炎症期・拘縮期に肩の中で起きていること

さて、ここからが本題です。

炎症期→拘縮期といった経過をたどる肩関節周囲炎ですが、その最中に肩の中ではどのような組織学的な変化が起きているのでしょうか。

結論としては、炎症期には滑膜の炎症が起きており、拘縮期には組織の線維化が起きています。3)

時期 主な組織変化 症状の特徴
炎症が優位な時期 滑膜炎、炎症関連因子の増加、血管新生・神経新生 痛み・夜間痛が強い
拘縮が優位な時期 関節包の線維化・肥厚・短縮、靱帯の硬化 痛みよりも動かしにくさが目立つ

炎症が起きている時期には、関節の滑りを良くする滑膜に炎症がみられ、炎症に関連する因子が増加することが報告されています。また、同時に血管新生と神経新生も生じています。3)

単に炎症が起きているから痛い、という理解もできますが、滑膜や関節包に炎症性の物質が増加し、血管や神経線維が増加しているため、刺激に対する感受性が高くなっている、というのが肩関節周囲炎の炎症期の肩の中で起きている変化です。

一方で、拘縮はどのように進むのかというと、関節包の線維化・関節包の肥厚や短縮・靱帯の硬化などが起こることにより、物理的に動かしにくい肩へと変化していきます。3)

このような過程を経て、「炎症で痛くて動かせない肩」から「線維化した組織によって物理的に動かしにくい肩」へと、症状の重みづけが変化していくのが、肩関節周囲炎の特徴です。

さらに重要な事実として、炎症期→拘縮期と聞くとそれぞれの時期が別々という印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、炎症期の段階からすでに組織の硬さは増加しており、拘縮期に主に起こる変化は始まっています。3)

そのため、肩関節周囲炎の症状は、炎症が優位の時期から徐々に拘縮優位の時期へ移行する、と理解するのが良いでしょう。

炎症期にみられる「夜間痛」が起こる理由

ここで、多くの方が悩む「夜間痛」について解説します。

夜間痛は、肩関節周囲炎の炎症期にみられることの多い症状で、夜寝ている最中に生じる痛みのことです。睡眠の妨げにつながり、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

現在考えられている原因は、大きく分けると以下の3つです。

夜間痛の主な要因
  • 炎症+神経新生
  • 夜間のメラトニンなどの内分泌の影響
  • 睡眠姿勢による機械的刺激

炎症と神経新生のメカニズムは、先ほど説明した通り、炎症期の主要な変化の一つです。3)

メラトニンとの関連は、意外に感じる方が多いかもしれません。炎症性の物質とメラトニンの関連を分析した研究では、夜間に分泌が増えるメラトニンが痛みを増強する一因となる可能性が示されています。4)

睡眠姿勢については、患側の肩を下にして寝ることによる圧迫などによって、痛みが誘発されることがあります。

このように、炎症に起因する肩の高い感受性に、メラトニンなどの内分泌環境や睡眠姿勢による刺激が組み合わさることで、夜間痛が引き起こされると考えられています。

「炎症期」「拘縮期」の見分け方

では、自分の肩の状態が炎症優位の時期か、拘縮優位の時期かを判断するには、どのような指標をもとに判断すればよいのでしょうか。

肩関節周囲炎のリハビリを行ううえでは、現在どの程度刺激に敏感な状態なのかを判断することが重要です。

臨床的な判断の参考としては、炎症期の説明でも触れた組織の刺激に対する感受性が有用です。痛くなり始めてから◯カ月というように一律には決められないため、痛み・夜間痛・可動域・痛みの出るタイミングから考えるのが良いとされています。5)

刺激への感受性 高い 中程度 低い
痛み 10段階中7以上 10段階中4〜6 10段階中3以下
安静時・夜間の痛み 持続的 間欠的 なし
運動時の痛み 動きの制限より手前から痛い 動きの制限付近で痛い 動かせる範囲の最後で、さらに動かすと痛い
可動域(自動/他動) 自動<他動 ほぼ同じ ほぼ同じ
主要な問題 痛み 痛み+硬さ 硬さ

※自動:自分の力で動かすこと/他動:他者に動かしてもらうこと

上記の表で、左側の項目に当てはまるほど炎症や痛みが優位である可能性が高く、右側の項目に当てはまるほど拘縮や硬さが優位であると考えられます。ただし、この表は炎症そのものを直接測定する検査ではなく、症状から組織の刺激への感受性を臨床的に判断するための目安です。5)

肩関節周囲炎のリハビリは、単に「早く始めればよい」というものではなく、その時期に応じて適切な負荷を選択することが重要です。

肩関節周囲炎のリハビリ

最後に、時期に応じたリハビリの内容について紹介します。

ネットやSNSでは、効果的なストレッチなどが多く紹介されていますが、「痛みを我慢してでも体操を行った方が良い」「痛みがあるから何もしないほうが良い」といった極端な考えにならないよう、参考にしてみてください。

炎症が優位な時期の肩関節周囲炎のリハビリでは、「痛みを生じさせない愛護的な運動療法」が推奨されています。6)

また、あまりにも痛みが強い場合には、関節内へのステロイド注射や、痛みを和らげる薬を用いた薬物療法が選択されることもあります。7-8)

痛みが強い時期はとにかく安静にして動かさないことが良いと思っている方もいたかもしれません。

しかし、この時期に本質的に重要なことは、痛みを悪化させない範囲で必要な運動を続けながら、炎症優位な時期から拘縮優位な時期へ移行した際に、可動域の改善を目的としたリハビリへスムーズに移行することです。

炎症が優位な時期に大切なこと
  • 痛みを我慢して無理に伸ばさない
  • 痛みが生じない範囲で肩を動かす
  • 夜間痛が強い場合は、就寝姿勢を工夫する
  • 痛みが非常に強い場合は、医師に相談し、疼痛・炎症への治療も検討する

特に、痛みが生じない範囲で肩を動かすことを続けることや、夜間痛に対して就寝姿勢を工夫することは、この時期の肩関節周囲炎のリハビリで重要なポイントです。

一方、炎症期に痛みを我慢して強く伸ばすようなストレッチは、ガイドラインでも推奨されていません。6) 実際に、痛みの範囲を超えて肩を動かす強度の高いリハビリと、痛みの範囲内で運動を行うリハビリを比較した研究では、痛みの範囲内で運動を行った群のほうが良好な結果を示しました。9)

これらのことから、炎症が優位で夜間痛のある時期に、痛みを我慢してまで行う過度なストレッチは推奨されません。

肩関節周囲炎のリハビリは、時期に応じて行うべき治療内容が異なります。自然治癒のみに経過を委ねるのではなく、それぞれの時期に適切なリハビリを行うことで、つらい時期を少しでも楽に乗り越えられるようにしていきましょう。

ご自身の時期に合ったリハビリ内容に迷う場合は、経験豊富な理学療法士とマッチングできるリハマッチにご相談ください。

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本記事のまとめ
  • 肩関節周囲炎は幅広い病態を含む診断名であり、本記事では炎症期から拘縮期をたどる凍結肩の病態を中心に解説しました。
  • 炎症が優位な時期には滑膜炎や炎症関連因子の増加、血管新生・神経新生がみられ、徐々に関節包の線維化や短縮など拘縮が優位になります。
  • 夜間痛には炎症や神経新生に加え、メラトニンなどの内分泌環境や睡眠姿勢による刺激が関係すると考えられています。
  • リハビリの負荷は発症からの期間だけで決めず、痛み・夜間痛・可動域・痛みの出るタイミングなど、刺激への感受性をみながら調整することが大切です。
  • 炎症が優位な時期は痛みを生じさせない範囲で運動を行い、痛みを我慢して行う過度なストレッチは避けましょう。

参考文献
  1. 公益社団法人日本整形外科学会.「五十肩(肩関節周囲炎)」. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/frozen_shoulder.html
  2. Wong CK, Levine WN, Deo K, et al. Natural history of frozen shoulder: fact or fiction? A systematic review. Physiotherapy. 2017;103(1):40-47.
  3. Tamai K, Hamada J, Nagase Y, et al. Frozen shoulder. An overview of pathology and biology with hopes to novel drug therapies. Mod Rheumatol. 2024;34(3):439-443.
  4. Ha E, Lho YM, Seo HJ, Cho CH. Melatonin plays a role as a mediator of nocturnal pain in patients with shoulder disorders. J Bone Joint Surg Am. 2014;96(13):e108.
  5. Kelley MJ, McClure PW, Leggin BG. Frozen shoulder: evidence and a proposed model guiding rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2009;39(2):135-148.
  6. 公益社団法人日本理学療法士協会 監修, 一般社団法人日本理学療法学会連合 理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会 編集. 理学療法ガイドライン 第2版. 医学書院, 東京, 2021.
  7. Lee BC, Kim BS, Lee BJ, et al. Clinical Practice Guidelines for Diagnosis and Non-Surgical Treatment of Primary Frozen Shoulder. Ann Rehabil Med. 2025;49(3):113-138.
  8. Rupani N, Gwilym SE, BESS Frozen Shoulder Working Group. British Elbow and Shoulder Society patient care pathway: Frozen shoulder. Shoulder Elbow. 2025;17(4):351-363.
  9. Diercks RL, Stevens M. Gentle thawing of the frozen shoulder: a prospective study of supervised neglect versus intensive physical therapy in seventy-seven patients with frozen shoulder syndrome followed up for two years. J Shoulder Elbow Surg. 2004;13(5):499-502.
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この記事の著者

虎岩 太郎

虎岩 太郎

理学療法士/大学院修士課程修了

プロフィール詳細

理学療法士として整形外科領域を中心に臨床経験を積み、現在は整形外科クリニックにて、運動器疾患を対象とした外来リハビリテーションに従事している。

大学院修士課程を修了し、大学院で培った運動器理学療法や研究に関する知識も活かしながら、科学的根拠に基づいたリハビリテーションの実践を大切にしている。

また、院内外での研修や教育活動にも携わっており、臨床・研究・教育のそれぞれの視点を大切に活動している。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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