変形性膝関節症は、軟骨や骨、滑膜など関節全体が病変する疾患です。軟骨自体には神経がないため、痛みの本質は滑膜炎や骨髄病変など周囲組織の炎症にあります。加齢やO脚、歩行時に体重の3〜5倍の負荷がかかる肥満が発症を促しますが、レントゲン上の重症度と実際の痛みの強さは必ずしも一致しません。早期から適切な運動療法や体重管理、生活指導による正しい自己管理を始めることが、手術を回避し膝の寿命を延ばす鍵となります。
はじめに
「立ち上がると膝が痛い」 「階段の上り下りがつらい」 「病院で変形性膝関節症と言われたけれど、どんな病気なのかわからない」 このような悩みを抱えている方は少なくありません。
変形性膝関節症は、中高年以降に多くみられる代表的な関節疾患です。日本ではレントゲン上で変形性膝関節症が認められる方が約2,500万人、自覚症状を有する方が約800万人いると推定されています1)。
しかし、「軟骨がすり減る病気」と知ってはいるものの、なぜ痛くなるのか、なぜ進行するのか気になっている方は少なくないのではないでしょうか。 この記事では、「変形性膝関節症とは何か」を中心に、発症メカニズムや症状、進行度の見方について解説します。
変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症とは、加齢や膝への負担の蓄積などによって関節軟骨や骨、滑膜など関節全体に変化が生じる疾患です2-3)。
以前は「軟骨がすり減る病気」と考えられていました。しかし現在では、「関節全体の病気(Whole Joint Disease)」として理解されています²)。
膝関節は、
- ▶大腿骨(もも)
- ▶脛骨(すね)
- ▶膝蓋骨(ひざ)
によって構成されており、その表面を関節軟骨が覆っています。 正常な関節軟骨はクッションの役割を果たし、歩行や立ち上がりの衝撃を吸収しています。
しかし変形性膝関節症が進行すると、
- ▶関節軟骨の変性:軟骨のすり減り
- ▶骨棘の形成:軟骨が変形してできる骨のとげ
- ▶関節裂隙の狭小化:軟骨のすり減りによって、大腿骨-脛骨の間が狭くなる
- ▶骨の変形
といった所見が生じ、膝の痛みや歩行障害につながります2-3)。
変形性膝関節症の原因とは?
加齢
変形性膝関節症の最大の危険因子は加齢です4)。 年齢とともに軟骨の修復能力は低下し、水分量や弾力性も減少します。その結果、長年蓄積した負担によるダメージが修復されにくくなります。
そのため、変形性膝関節症は高齢者に多い疾患として知られています。
肥満
肥満も発症リスクを高める重要な因子です。
歩行時には膝関節に体重の約3〜5倍の負荷が加わることが報告されており5)、体重が増加するほど膝への負担も大きくなります。
そのため、膝の痛みの原因が高齢者にみられる場合でも、体重管理は非常に重要な治療の一つとされています。
O脚(内反膝)
こちらも変形性膝関節症の進行に大きく関与します。
O脚になると膝の内側へ荷重が集中し、
- ▶軟骨の摩耗
- ▶半月板へ負担増加
が起こりやすくなります。 日本人では膝の内側に変形が生じる変形性膝関節症が多く、O脚が多いことが原因ともいわれています。
そのため、靴底の内側だけが極端にすり減る方や、両膝の間が開いてきたと感じる方は注意が必要です。
女性に多い理由
変形性膝関節症は男性より女性に多くみられます。
特に閉経後は、
- ▶女性ホルモンの変化
- ▶筋力低下
- ▶骨密度低下
などが影響し、発症リスクが高まると考えられています。
初期には「立ち上がりだけ痛い」「歩き始めだけ痛い」といった症状から始まり、徐々に歩行時痛や階段昇降時痛へ進行します。 さらに進行すると、安静時や夜間にも痛みが出現することもあります。
ただし進行速度には個人差があり、レントゲン上の変形が進んでいても症状が軽い方もいます。
なぜ膝が痛くなるのか?
ここが最も気になるポイントではないでしょうか。 実は、軟骨そのものには神経が存在しません。
神経がなければ、痛みを感じることもないので、「軟骨がすり減ったから痛い」というわけではないのです。
現在では、膝の痛みの原因として以下の組織が関与すると考えられています。
滑膜炎
滑膜とは、関節の内側を覆っている膜のことです。 変形性膝関節症が進行すると、この滑膜に炎症が起こることがあります。
炎症によって痛みを感じる神経が刺激され、
- ▶動き始めの痛み
- ▶膝の腫れ
- ▶膝に水がたまる
といった症状につながります。
骨髄病変
軟骨のすぐ下には「軟骨下骨」と呼ばれる骨があります。 変形性膝関節症では、この骨に繰り返し強い負担が加わることで、骨の内部にむくみや微細な損傷が生じることがあります。
これを骨髄病変と呼びます。 近年の研究では、この骨髄病変が膝の痛みと強く関連していることが分かっています6)。
骨膜刺激
骨の表面には「骨膜」という薄い膜があります。 骨膜には痛みを感じる神経が豊富に存在しています。
変形性膝関節症が進行すると、
- ▶骨棘(骨のとげ)
- ▶骨の変形
が生じ、この骨膜が刺激されることで痛みを感じることがあります。
関節包の伸張
関節包とは、関節全体を包み込む袋状の組織です。 膝に炎症が起きたり、水がたまったりすると関節包が引き伸ばされます。
すると内部にある神経が刺激され、
- ▶膝が張る感じ
- ▶曲げ伸ばし時の痛み
として感じられることがあります。
半月板損傷
半月板は、膝関節の中でクッションの役割を果たしている軟骨様組織です。
加齢や長年の負担によって傷つくことがあり、
- ▶歩行時の痛み
- ▶立ち上がり時の痛み
- ▶引っかかる感じ
の原因になることがあります。 特に変形性膝関節症では、軟骨だけでなく半月板の変性も同時に進行していることが少なくありません。
つまり、変形性膝関節症の痛みは「軟骨がすり減るから痛い」のではなく、関節の中や周囲で起こる炎症や組織の変化によって生じると考えられています2-3)。
以上から、変形性膝関節症とは単なる軟骨の病気ではなく、関節全体の炎症や組織変化によって痛みが生じる病気なのです。
変形性膝関節症の主な症状
それでは変形性股関節症はどの時期にどのような症状がみられるのかを説明します。
初期症状
初期には、
- ▶動き始めの痛み
- ▶長時間歩いた後の痛み
- ▶正座のしづらさ
などがみられます。 休憩すると症状が軽減することが特徴です。
中期症状
進行すると、
- ▶階段昇降時の痛み
- ▶歩行時痛
- ▶膝の腫れ
- ▶関節液貯留(膝に水がたまる)
などが出現します。 日常生活への影響も大きくなります。
進行期症状
さらに進行すると、
- ▶安静時痛
- ▶夜間痛
- ▶膝が伸びない
- ▶O脚の進行
- ▶歩行困難
などがみられるようになります。 この段階では手術療法が検討されることもあります。
進行度の見方:Kellgren-Lawrence分類
変形性膝関節症とは、レントゲンで進行度を評価することが一般的です。 その代表がKellgren-Lawrence(KL)分類です。
| Grade | 所見 |
|---|---|
| Grade0 | 異常なし |
| Grade1 | わずかな骨棘形成 |
| Grade2 | 明らかな骨棘形成と軽度の関節裂隙狭小化 |
| Grade3 | 中等度の関節裂隙狭小化と骨硬化 |
| Grade4 | 高度な関節裂隙消失と著明な骨変形 |
ただし重要なのは、レントゲンの重症度と痛みの強さは必ずしも一致しないという点です。
レントゲン上は重度でもほとんど痛みがない方もいれば、変形が軽度でも強い痛みを感じる方もいます。
理由は先ほど説明した痛みの原因である滑膜・関節包・骨髄・骨膜・半月板といった組織はレントゲンには映らないからです。
治療の際はレントゲンではっきりとした症状が出ていなくても、痛みの強さをはっきりと伝えることが大切です。
- ✓変形性膝関節症とは、加齢や肥満、O脚などを背景に関節軟骨や周囲組織が変性し、膝の痛みや機能障害を引き起こす疾患です。
- ✓膝の痛みの原因は単純に軟骨がすり減ることだけではなく、滑膜や骨、半月板など関節全体の変化が関与しています。
- ✓変形性膝関節症の症状・原因・進行を正しく理解することで、適切な治療やリハビリテーションにつなげることができます。
- ✓膝の痛みが続く場合は、「年齢のせい」と放置せず、早めに専門医やリハビリ専門職へ相談することをおすすめします。
- ✓変形性膝関節症と診断されたからといって、必ずしも手術が必要になるわけではありません。適切な運動療法や体重管理、生活指導によって症状の改善が期待できるケースも多くあります。
- Yoshimura N, et al. J Bone Miner Metab. 2009.
- Loeser RF, et al. Osteoarthritis: a disease of the joint as an organ. Arthritis Rheum. 2012.
- Hunter DJ, Bierma-Zeinstra S. Osteoarthritis. Lancet. 2019.
- Felson DT. Clin Geriatr Med. 2010.
- Kutzner I, et al. J Biomech. 2010.
- Felson DT. Curr Opin Rheumatol. 2005.
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