脊髄損傷では、障害された脊髄の高さ、つまり損傷レベルによって現れる症状や生活への影響が大きく異なります。 頚髄損傷では両手両足に麻痺が出やすく、呼吸や排尿・排便機能にも影響することがあります。胸髄損傷では上肢機能は比較的保たれやすい一方で、体幹や下肢の機能低下が中心となり、座位バランスや移乗動作に影響します。 腰髄損傷では主に下肢の運動や感覚に影響し、仙髄損傷では排尿・排便機能や会陰部感覚などが重要になります。 しかし、生活機能は損傷レベルだけで決まるものではなく、完全損傷か不完全損傷か、合併症、痛み、痙縮、住環境、リハビリテーションの経過などによっても変わります。脊髄損傷のレベルと症状の関係を理解することは、自分の状態を知り、今後の生活やリハビリテーションを考える第一歩になります。
脊髄損傷のレベルとは何か
脊髄損傷と聞くと「どこを損傷したのかで症状は変わるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。 実は、脊髄損傷では損傷した高さによって、手足の動きや感覚、排尿・排便機能に現れる症状が大きく変わります。
ASIA/ISNCSCIという脊髄損傷用の検査では、左右それぞれの感覚レベル、運動レベル、そして神経学的損傷レベル(どの程度神経がダメージを受けているか)を評価します¹⁾。
ここで注意したいのは、画像で見える骨や神経の損傷部位と、神経学的損傷レベルは必ずしも同じではないという点です。MRIやCTで異常がある場所と、実際に感覚や運動がどこまで保たれているかは一致しないことがあります¹⁾。
そのため、損傷部位による症状の違いを理解するときには、画像上どこを損傷したのかだけではなく、どの程度機能が残っているかを確認することが重要です¹⁾。
頚髄損傷レベルの症状
頚髄損傷とは、頚の高さの脊髄が損傷したことを意味します。頚髄は首の部分にある脊髄で、手や足を動かす神経が通っています。
頚髄損傷では上肢と下肢の両方に影響が及びやすく、四肢麻痺(両手両足)の障害がみられやすいのが特徴です²⁾。
頚髄損傷では運動や感覚だけでなく、呼吸、自律神経、排尿・排便機能などにも影響が出ることがあります。 特に高位の頚髄損傷では、呼吸に関わる筋肉の働きが障害されることがあり、呼吸管理が重要になる場合があります²⁾³⁾。
頚髄損傷患者の肺活量は神経学的損傷高位と関連しており、C1〜3の損傷では肺活量が全時期で低値であったことが報告されています³⁾。
しかし、同じ頚髄損傷でも損傷レベルが低くなるほど、肩、肘、手関節、手指などの機能の残り方が変わります。頚髄損傷と一言でいっても、症状や生活への影響は一人ひとり異なります¹⁾²⁾。 頚髄損傷では手がどの程度使えるか、呼吸に影響があるか、どの程度の介助が必要かが重要な視点になります。
胸髄損傷レベルの症状
胸髄損傷では、胸の高さの脊髄が障害されます。上肢機能は比較的保たれやすい一方で、体幹と下肢に大きな影響が出やすく、対麻痺(左右同時に起きる麻痺)の形をとりやすいのが特徴です²⁾。
体幹機能の低下により、座位バランス、寝返り、起き上がり、車いすやベッドへの移乗などに影響が出ます。上肢機能が保たれやすいため、車いす操作、食事、更衣、整容などのセルフケアを獲得しやすい面もあります²⁾。
しかし、胸髄損傷でも損傷レベルが高い場合と低い場合では、体幹の使いやすさが異なります。 胸髄上位では体幹の安定性が低下しやすく、胸髄下位では比較的体幹機能が保たれやすいことがあります。また、胸髄の高いレベルの損傷では、自律神経症状にも注意が必要です。
このように、脊髄損傷はレベルによって症状が違うため、胸髄損傷では上肢が使えるかだけでなく、体幹がどの程度使えるか、血圧や排泄管理に問題がないかも確認していくことが大切です²⁾⁵⁾。
腰髄損傷レベルの症状
腰髄損傷では、主に下肢の運動や感覚に影響が出ます。頚髄損傷のように四肢麻痺になりにくく、上肢機能は基本的に保たれます。
腰髄レベルでは下肢の動きや感覚に影響が出ることがあります。立ち上がり、歩行、階段昇降、装具の使用、車いすとの併用などがリハビリテーションで重要なテーマになります¹⁾²⁾。
同じ腰髄損傷でも完全損傷か不完全損傷かによって、残っている機能は大きく異なります。 歩行の可能性も損傷レベルだけで決まるものではなく、筋力、感覚、痙縮(筋肉が過度に緊張して動かしにくくなる状態)、痛み、合併症、生活環境などを総合して考える必要があります。
脊髄損傷のレベルと症状の関係を理解するときには、腰髄だから歩ける、腰髄だから軽いと考えるのではなく、実際にどの機能が残っているかを評価することが大切です。
仙髄損傷レベルの症状
仙髄レベルの障害では、下肢の一部の感覚や運動に加えて、排尿・排便機能、会陰部(陰部と肛門の周囲)の感覚、性機能などに影響が出ることがあります¹⁾⁴⁾。
脊髄損傷では、排尿障害が生活に大きく関わります。日本の診療ガイドラインでは、脊髄損傷に伴う下部尿路機能障害について、適切な病態把握と管理が必要であるとされています⁴⁾。
排尿や排便の問題は、歩行能力と同じくらい生活の質に影響します。 尿が出にくい、漏れてしまう、尿路感染を起こしやすい、便秘になりやすいなどの問題は、日常生活や社会参加に関わります。
そのため、脊髄損傷のレベル別症状を考えるときには、手足の麻痺だけでなく、排尿・排便や会陰部感覚なども含めて理解する必要があります。
四肢麻痺と対麻痺の違い
脊髄損傷のレベル別症状を理解するうえで、四肢麻痺と対麻痺の違いは大切です。 脊髄損傷の説明でよく使われる言葉なので、違いを知っておくと理解しやすくなります。
四肢麻痺は主に頚髄損傷でみられます。上肢、体幹、下肢に障害が及びやすく、食事、更衣、整容、移乗、車いす操作など、多くの日常生活動作に影響します。
対麻痺は、主に胸髄以下の損傷でみられます。上肢は比較的保たれ、体幹や下肢に障害が出ます。上肢を使えるため、車いす操作やセルフケアの自立につながりやすいです。
しかし、四肢麻痺か対麻痺かだけで、その人の生活機能がすべて決まるわけではありません。同じ頚髄損傷でも、完全損傷か不完全損傷かで機能は異なります。同じ胸髄損傷でも、損傷レベルの高低によって体幹機能は変わります。
脊髄損傷のレベルと症状は大まかな見通しを考えるうえで重要ですが、実際の生活機能は個別に評価する必要があります。
損傷レベルだけで生活は決まらない
実際の生活を考えるときには、損傷レベルだけで判断することはできません。 例えば同じC5レベル(頚髄)の脊髄損傷でも、不完全損傷で手指機能が一部残っている方と、完全損傷に近い状態の方では、日常生活動作は大きく異なります。
同じ胸髄損傷でも、痛み、痙縮、褥瘡、排尿障害、家族支援、住環境によって生活のしやすさは変わります¹⁾²⁾⁴⁾。
脊髄損傷でどのレベルにどんな症状が出るのかを理解することは大切ですが、それをそのまま将来の限界と考える必要はありません。大切なのは、残っている機能を正しく評価し、生活の目標に合わせてリハビリテーションや環境調整を進めることです。
- ✓脊髄損傷では、障害されたレベルによって症状が大きく変わる
- ✓頚髄損傷では四肢麻痺や呼吸障害、胸髄損傷では体幹・下肢機能の低下が中心になる
- ✓腰髄損傷では下肢機能への影響、仙髄損傷では排尿・排便機能や会陰部感覚への影響が中心になる
- ✓損傷レベルだけで生活のすべてが決まるわけではなく、完全損傷か不完全損傷か、合併症の有無、リハビリテーションの経過、生活環境などによって実際の生活機能は変わる
- ✓損傷レベルはあくまで目安とし、自分に残されている機能や可能性に目を向けることが大切
- American Spinal Injury Association, International Spinal Cord Society. International Standards for Neurological Classification of Spinal Cord Injury, Japanese worksheet. Richmond (VA): American Spinal Injury Association; 2024. Available from ASIA official website.
- 田島文博, 上條義一郎, 西村行秀. 脊髄損傷者に対するリハビリテーション. 脊髄外科. 2016;30(1):58-67. doi:10.2531/spinalsurg.30.58.
- 佐々木貴之, 古賀隆一郎, 出田良輔, 戸渡富民宏, 林哲生. 頚髄損傷患者における受傷から1年間の肺活量推移. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2020;29(1):92-96. doi:10.15032/jsrcr.29.1_92.
- 日本排尿機能学会, 日本脊髄障害医学会, 日本泌尿器科学会, 編. 脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン 2019年版. 東京: 中外医学社; 2019.
- 浅山滉. 高位脊髄損傷者にみられる自律神経過反射. 総合リハビリテーション. 1978;6(6).
