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カテゴリー: 当事者の方向け
タグ: 健康, 脳梗塞, その他(5件)

脳梗塞後の回復を支える家族の関わり方 ― リハビリへの意欲を支える声かけと心構え ―

こんな人に読んでほしい!
  • 脳梗塞後、「どうせ無理だ」と諦めてしまう本人を支えたいと考えている方
  • 良かれと思って「もっと頑張って!」「そこは違うよ」と声をかけ、険悪な空気になってしまう方
  • 脳梗塞後の「イライラ」や「感情の波」に、どのように接すればよいか戸惑っている方
  • 専門職(作業療法士や理学療法士など)がいない自宅の時間でも、本人の回復を後押ししたい方
この記事の要約

脳梗塞のリハビリテーションでは、病院で行う訓練だけでなく、自宅で過ごす時間の家族との関わり方も回復に大きく影響します。良かれと思ってかけた「もっと頑張って」という言葉が、本人には大きなプレッシャーとなり、リハビリへの意欲を低下させてしまうこともあります。 一方で、本人の気持ちを否定せずに受け止める「受容的な関わり」や、小さな変化を具体的に伝える「ポジティブ・フィードバック」は、安心感や自己効力感を高め、自発的なリハビリへの参加を促すことが期待されています。本記事では、脳梗塞後の心理状態や神経可塑性の考え方を踏まえながら、家族が今日から実践できる具体的な声かけや接し方のポイントをわかりやすく解説します。

家族との関わりがリハビリの成果に影響する理由

脳梗塞を発症すると、多くの方は運動麻痺や感覚障害、高次脳機能障害、失語症などの後遺症を抱えることになります。 昨日まで当たり前にできていた「歩く」、「話す」、「食べる」、「着替える」といった日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)が突然できなくなることは、ご本人にとって計り知れない喪失体験です。

その結果、「なぜ自分だけが」、「もう元には戻れない」、「家族に迷惑をかけてしまう」といった不安や抑うつ、焦り、怒りなどの心理的ストレスが生じやすくなります。 脳卒中後のうつは決して珍しいものではなく、発症後約3割の患者にみられると報告されており、リハビリへの参加意欲や回復にも大きな影響を及ぼします1)

近年の脳科学では、心理状態と脳機能の回復は密接に関連していることが明らかになっています。 脳には神経可塑性(neuroplasticity)という性質があり、障害を受けた神経回路を新たなネットワークで補いながら機能を回復させようとします。 しかし、この神経可塑性は単にリハビリを行えば働くわけではありません。

慢性的なストレスや不安が続くと、脳内ではストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌され、注意力や学習能力、記憶形成が低下するとともに、神経可塑性にも影響を及ぼす可能性が示されています2) 一方で、「安心できる」、「認めてもらえている」、「挑戦してみよう」と感じられる環境では、脳は新しい運動学習を受け入れやすい状態となり、神経ネットワークの再構築が促進されます。

つまり、リハビリの効果は、訓練内容だけで決まるわけではありません。 病院でのリハビリは1日40~180分程度ですが、それ以外の多くの時間は自宅や病棟で過ごします。 その長い時間を共にする家族との関わり方が、本人の心理状態を大きく左右します3)

家族から「焦らなくて大丈夫」、「一緒にやっていこう」、「少しずつ良くなっているよ」、という言葉をかけられるだけでも、不安が軽減され、自発的な活動への意欲が高まります。 反対に、「早く歩けるようになって」、「もっと頑張って」といった言葉は励ましのつもりでも、本人には「まだ頑張りが足りない」と受け止められ、ストレスを増大させる場合があります。

否定する声かけ(NG例)と受容的な声かけ(OK例)を比較し、受け止め方の違いが本人の意欲に与える影響を示す図
同じ場面でも、受け止め方によって本人の気持ちは大きく変わります

本人の「やる気」を支える第一歩 ― 否定せず受け止める「受容」

リハビリを続けていると、ご本人が「もう疲れた」、「どうせ治らない」、「今日は何もしたくない」と話すことがあります。 家族としては何とか励ましたい気持ちから、「そんなこと言わないで」、「頑張れば良くなるよ」、「弱音を吐いていたら治らないよ」と言ってしまうことがあります。

しかし、このような励ましは本人の気持ちを否定する形になり、「誰も自分の苦しさを理解してくれない」という孤独感を強めてしまうことがあります。 心理学では、このような場面で重要なのが受容(acceptance)やアクティブ・リスニング(積極的傾聴)です。

受容とは、相手の発言の正しさを評価することではなく、「今、そのように感じているのですね」と感情そのものを認めることです。 例えば、以下のようなやり取りが挙げられます。

本人:「今日はもうリハビリしたくない。」 家族:「今日は本当に疲れたんだね。」

本人:「どうせ元通りにはならない。」 家族:「そう思うくらい悔しいし、不安なんだね。」

このように、まず感情を受け止めることで、ご本人は「理解してもらえた」、「味方がいる」と感じます。 この安心感は心理的安全性を高め、ストレスを軽減させます。

また、感情を受け止められた人は、自分自身で気持ちを整理しやすくなることも知られています。 「今日は休みたい」と話していた方が、「少しだけならやってみようかな」と自ら前向きな言葉を口にすることも少なくありません。

リハビリは「やらされる」ものではなく、「自分でやろう」と思えることが重要です。 自己決定感や自己効力感(Self-efficacy)は、長期間にわたるリハビリ継続の大きな原動力になります。

受容は決して甘やかすことではありません。本人の感情を否定せず受け止めることで心理的安全性が高まり、自己決定感や自己効力感の回復につながります。 その結果、自発的なリハビリへの参加や行動変容を促す重要なコミュニケーション技法と考えられています3)

過去と比較する・プロセスを褒める・家族の気持ちを伝えるという3つの声かけの具体例を示す図
小さな変化を見つけて伝えることが、本人の自信とリハビリへの意欲につながります

回復を後押しする声かけ ― 小さな変化を伝える「ポジティブ・フィードバック」

安心感という土台ができたら、次に重要になるのがポジティブ・フィードバック(前向きな声かけ)です。 脳梗塞後の回復は一直線ではありません。昨日できたことが今日はできないこともあれば、数週間変化が感じられないこともあります。 本人は発症前の自分と比較してしまうため、「全然良くなっていない」と感じやすく、努力していても成果を実感できません。

そこで家族が、本人では気づけない小さな変化を言葉にして伝えることが重要になります。 例えば、以下のような視点で声をかけることが大切です。

① 過去と比較する

発症前ではなく、「昨日」、「先週」、「先月」と比較します。

「先週より立ち上がる動きがスムーズになったね。」 「今日は杖を使って少し長く歩けたね。」

② プロセスを褒める

結果ではなく努力や工夫を認めます。

「今日は途中で休みながら最後まで歩けたね。」 「麻痺した手も一緒に使おうとしていたね。」 「諦めずに最後まで取り組めたね。」

③ 家族の気持ちを伝える

いわゆるI(アイ)メッセージを活用します。

「一緒に散歩できる時間が増えて本当に楽しいよ。」 「少しずつ元気になっている姿を見ると安心するよ。」

このような具体的なフィードバックは、本人の自己効力感を高めます。 自己効力感とは、「自分ならできる」という感覚であり、リハビリ継続には欠かせない心理的要因です4)

さらに脳科学では、達成感や成功体験を感じた際にはドーパミンが分泌されることが知られています。 ドーパミンは報酬系を活性化するだけでなく、運動学習や記憶形成にも深く関与しています。 リハビリで成功体験を積み重ねることは、神経可塑性を促進し、新しい運動パターンの獲得を後押しします。つまり、家族が小さな成長を具体的に伝えることは、「褒める」以上の意味があります。

家族からの具体的で前向きなフィードバックは、脳内の報酬系を活性化し、「もう一度やってみよう」という意欲を引き出すことで、運動学習や神経可塑性を促進する可能性が示されています5)

家族の安心できる声かけから心理的安全性、自己効力感、リハビリへの意欲、小さな成功体験、回復へとつながる好循環を示す図
安心できる関わりが好循環を生み、本人の意欲と回復を支えます

今日からできる!家族のコミュニケーションチェックリスト

毎日の生活の中で少し意識するだけでも、本人の心理状態は大きく変わります。

今日からできるコミュニケーションのポイント
  • 「~しちゃダメ」ではなく「~してみようか」と肯定的な表現を使う 例:「こぼしちゃダメ」→「ゆっくり運んでみようか。」
  • 本人が挑戦している時はすぐに手を出さず、少し様子を見守る 過度な介助は、自分でできたという成功体験を奪ってしまいます。
  • 失敗よりも挑戦したことを評価する 「転びそうだったね」ではなく、「立ち上がろうと頑張ったね。」
  • 毎日一つでもできたことを一緒に見つける 「今日は昨日より腕が上がったね。」「今日は食事が少し早く終わったね。」
  • 一日に一回は「ありがとう」、「助かったよ」、「嬉しかったよ」とIメッセージで伝える 本人は「役に立てている」という感覚を持つことができ、自尊心の維持にもつながります。

このような小さな成功体験の積み重ねは、本人の自己効力感を高め、自発的なリハビリへの参加や長期的なリハビリの継続につながることが期待されます4)

家族の温かな関わりが、回復への力になる

脳梗塞は、ご本人だけでなく、ご家族の生活にも大きな変化をもたらします。 介護への不安や将来への心配、生活リズムの変化など、ご家族自身も大きなストレスを抱えています。 だからこそ、「いつも優しく接しなければ」、「完璧に支えなければ」と考える必要はありません。

大切なのは、特別な介護技術ではなく、日々のコミュニケーションの質です。 本人のつらさや悔しさを否定せずに受け止め、小さな変化を見つけて具体的に伝え、一緒に喜ぶこと、その積み重ねが、本人の安心感や自己効力感を高め、自発的なリハビリへの参加につながります。

現在のリハビリテーション医療では、単に麻痺や身体機能の回復を目指すだけでなく、その人らしい生活や社会参加の実現を支援することが重視されています。 そのためには、医療者によるリハビリテーションだけでなく、日常生活をともに過ごす家族の存在が欠かせません。 家庭は、病院を退院した後も継続してリハビリテーションを実践する「もう一つのリハビリテーションの場」といえます。家族が安心して挑戦できる環境を整え、本人の気持ちを受け止めながら、小さな成長を具体的に伝えていくことは、自己効力感を育み、自発的なリハビリへの参加や生活機能の回復につながることが期待されます。

脳梗塞の回復は、一人で成し遂げるものではありません。焦らず、その人のペースを尊重しながら、ご本人・ご家族・医療者が同じ目標に向かって歩んでいくことが大切です。 そして、その道のりを支える何より大きな力は、ご家族の温かな言葉と寄り添う姿勢なのです。

本記事のまとめ
  • 家族との関わり方は、脳梗塞後のリハビリ効果や本人の心理状態に大きな影響を与える
  • 本人の気持ちを否定せず受け止める「受容」は、心理的安全性と自己効力感を高める
  • 「過去との比較」「プロセスを褒める」「Iメッセージ」による前向きな声かけが意欲を後押しする
  • 小さな成功体験の積み重ねが自己効力感を育み、神経可塑性やリハビリ継続を支える
  • 特別な介護技術よりも、日々の温かなコミュニケーションの質が回復を支える力になる

参考文献
  1. Hackett ML, Pickles K. Part I: Frequency of depression after stroke: An updated systematic review and meta-analysis. International Journal of Stroke.
  2. Cramer SC, et al. Harnessing neuroplasticity for clinical applications. Brain. 2011;134:1591-1609.
  3. Bakas T, et al. Systematic Review of the Evidence for Stroke Family Caregiver and Dyad Interventions. Stroke. 2022;53:e267-e285.
  4. Septianingrum Y, et al. Correlation between family support and self-efficacy in stroke survivors. Bali Medical Journal. 2023;12(3):2784-2787.
  5. Zhao J, et al. The effect of reward on motor learning: different stage, task and reward schedules. Frontiers in Human Neuroscience. 2024.

脳梗塞後のご家族への接し方や、在宅でのリハビリにお悩みの方へ

脳梗塞後のリハビリにおいて、ご家庭での適切な関わり方や心のサポートは、本人の回復意欲を引き出す大切な要素です。しかし、日々の具体的な声かけに迷ったり、ご家族だけで前向きな環境を維持することに不安や負担を感じたりすることもあるのではないでしょうか。

リハマッチでは、脳血管疾患のリハビリ経験が豊富な理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が、ご本人の心理面や身体状況を深く理解し、ご家族の負担も軽減できるよう、オーダーメイドのリハビリプランと関わり方をご提案します。

「自宅での効果的な声かけや介助方法を相談したい」「やる気を引き出す専門的なリハビリを継続したい」など、私たちの強みやサポート体制の詳細は、以下のページからご確認いただけます。


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この記事の著者

瀬川 大

瀬川 大

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1986年兵庫県生まれ。養成校卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。臨床での経験を経て、教育と研究の道へ進む。現在は京都光華女子大学 看護福祉リハビリテーション学科 福祉リハビリテーション学科 作業療法専攻に勤務し、地域在住高齢者のフレイル予防や「価値のある活動」を軸とした介護予防プログラムの開発、スマートフォン活用による高齢者のQOL向上支援などに取り組んでいる。

【研究者情報(Researchmap)】
https://researchmap.jp/342

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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