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カテゴリー: 健康・予防の知識
タグ: 健康, 予防, その他(5件)

廃用症候群を予防するために今できること― 入院中・在宅で活動を続けるための工夫 ―

こんな人に読んでほしい!
  • 入院や手術後の体力低下や筋力低下を防ぎたい方
  • 病気やケガで自宅療養中の方と、そのご家族
  • 「安静」と「活動」のバランスについて知りたい方
  • 廃用症候群を予防し、早期の生活復帰を目指したい方
この記事の要約

廃用症候群を防ぐには、特別な運動ではなく、着替えや食事、会話といった日々の生活そのものを活動に変える意識が重要となります。 そのため、ベッド上でも足首や膝、肩、指先などの関節を痛みのない範囲で動かす必要があります。 また、家族が全てを代行するのではなく、できることを本人が続けるよう見守る姿勢が不可欠です。 よって、早期離床を意識して座る時間を確保し、生活リズムを整えながら、今できる活動を少しずつ積み重ねていく必要があります。

1.はじめに

「廃用症候群」とは、安静にすることや活動量が低下することで全身の機能が低下することです。 具体的な症状として、以下のようなものが挙げられます1-3)

廃用症候群の主な症状
  • 筋力の低下:1週間の安静で10~15%の筋力低下があるといわれています。
  • 関節の可動域制限:3週間で関節の動く範囲が明らかに狭くなります。
  • 骨密度の減少:20週程度で30~50%の骨密度が減少すると報告があります。
  • 心肺機能の低下:3週間で10~20%の低下が認められます。
  • 血液系のリスク:血栓が生じやすくなります。
  • 認知機能・意欲の低下:活動意欲の低下や、うつ傾向がみられることがあります。

人の身体は「動かすこと」、「使うこと」で機能を維持するようにできています。 そのため、長い期間安静にすることや活動量が低下することで、「動きにくさ」が増すことがあります。 また、筋力だけでなく、体力や意欲、日常生活を送る力も徐々に低下してしまうことがあります。

しかし、廃用症候群は適切な対応によって予防できる可能性があります。 本記事では、廃用症候群を予防するために、入院中や自宅療養中でも実践しやすい日常生活の工夫や活動維持のポイントをご紹介します。

2.ベッド上でできる対策

身体を動かさないで過ごすと、関節の動く範囲が狭くなります。 関節が動きにくくなると、痛みにつながったり、着替えや食事、トイレ動作など日常生活でも「やりにくさ」が生じてきます。

そのため、ベッド上で関節を動かす運動は、関節の動きを保ち、日常生活の動作を維持するために、リハビリでも予防として取り入れられています。

ご自身で動かせる場合は、ご自身で動かす「自動運動」、ご自身で動かすことが難しい場合は、ご家族や介護者が手伝いながら動かす「他動運動」で行います。 いずれの場合も、痛みのない範囲で無理なく行うことが大切です。

1 足首の運動

・仰向けで寝た状態で、つま先をゆっくり上げます。(つま先がスネに近づくように倒します。) ・次に、つま先をゆっくり下げます。(つま先立をした時のような状態です。) ・ゆっくり10~20回繰り返します。

仰向けでつま先の上げ下げを行う足首の運動の手順を示した説明図

足首を動かすことで、ふくらはぎの筋肉が働きます。 ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれ、筋肉が収縮することで血液を心臓へ送り返す働きを助けています。 そのため、血流を促し、むくみの改善や血栓の予防につながります。

また、足首の運動に加えて、足の指を「グー・パー」する運動も取り入れると、足全体を動かすきっかけになります。

2 膝・股関節の運動

・仰向けで寝た状態で、ゆっくりと膝の曲げ伸ばしを行います。 ・10回程度ゆっくりと行います。

仰向けで膝の曲げ伸ばしを行う運動の手順を示した説明図

ご家族や介助者が動かす場合には、膝のあたりと足首を支えて、やさしく動かしてください。 痛みや抵抗感がある場合には、無理に動かさず、痛みのない範囲で動かすことをお勧めします。 動かし始めは、特に痛みが生じやすいです。そのため動かし始める時には特に、ゆっくりと優しく行いましょう。

また、ご家族や介助する方が身体を痛めることがないように、十分気を付けましょう。 というのも、片脚の重さは体重の約17%です4)。例えば、60kgの方の片脚の重さは約10kgになります。

脚の曲げ伸ばしを行う作業は、高齢のご家族にとっては大きな負担となることがあります。 介助する方も無理をせず、必要に応じてリハビリ専門職へ相談することも大切です。

3 肩の運動

・仰向けに寝た状態で、腕をゆっくり頭の方へ持ち上げます。 ・次に、ゆっくりと下ろしてきます。 ・ゆっくりと10~20回繰り返します。

仰向けで腕を頭の上まで持ち上げる肩の屈曲運動の手順を示した説明図

腕を持ち上げる際には、耳に近づけるように伸ばします。ただし、この運動も痛みのない範囲で行いましょう。 肩の動きは、更衣や洗髪、物を取る動作など、日常生活のさまざまな場面で必要となります。 日頃から無理のない範囲で動かしておくことが大切です。

4 肘・手首の運動

・肘の曲げ伸ばしをゆっくりと行いましょう。 ・手首はゆっくりと、上下に動かしましょう。 ・ゆっくりと10~20回繰り返します。

肘の曲げ伸ばしと手首の上下運動の手順を示した説明図

肘・手首の運動に加えて、指先の運動も行うことをお勧めします。 指先の運動では「グー・パー」にする運動や、親指と人差し指、親指と中指といったように、親指と他の指先をあわせる運動もお勧めします。 指先を動かすことは、食事で箸やスプーンを使うことや、ボタンを留めることなど、手先を使う日常生活動作の維持にもつながります。

3.早期離床が大切な理由

「離床」とは、文字の通り、床(ベッド)から離れることで、ベッドから起き上がり、座ることや立つことなどを指します。集中治療室の研究では、病状が安定した段階で早期から離床を促すことや運動介入を行うことの効果が報告されています5)

廃用症候群を予防するためにも、「できるだけ早く安全に身体を起こし、活動を再開すること」が重要です。

病院では、医師の指示のもと、病状や全身状態を確認しながら段階的に離床を進めます。 在宅で取り組む場合も、「無理をしないこと」と「少しずつ活動量を増やすこと」を意識し、安全に進めることが大切です。

ベッド上で身体を起こす(ギャッジアップ)

ベッドで寝ている状態のまま、頭の部分を上げて身体を起こします。 まずは30度程度から始め、慣れてきたら45度、60度というように徐々に角度を上げていきましょう。 膝の部分も調整できるベッドでは、先に膝を少し上げてから頭側を起こすことで、身体が下へずれにくくなります。

端座位(ベッドに座る)

ベッドの縁に足を下ろして座ります。高さを調整できるベッドでは、足の裏が床につく高さに合わせることで姿勢が安定します。 最初は3分程度から始め、慣れてきたら5分、10分と、少しずつ時間を延ばしていきましょう。

ベッドの頭側を起こすギャッジアップと、ベッドの縁に座る端座位の姿勢を示した説明図

ベッドに座ることは、立ち上がりや歩行へつながる第一歩です。 食事や歯磨きなども、可能であれば座った姿勢で行うことで活動量の維持につながります。

離床を進める際の注意点
  • 長期間ベッド上で過ごしていた方では、急に身体を起こすことで血圧が下がる「起立性低血圧」が起こることがあります。めまいやふらつき、気分不良などがないかを確認しながら、無理のない範囲で少しずつ進めることが大切です。

4.日中の活動量を維持

自宅療養などで安静を意識すると、どうしてもベッド上で過ごす時間が長くなりがちです。 しかし、必要以上に横になっている時間が続くと、筋力や体力の低下だけでなく、生活リズムの乱れや意欲の低下にもつながることがあります。

また、お昼間に長時間寝てしまうと、夜に眠れなくなることがあります。 生活リズムが崩れると、食事の時間帯に眠くなり、食事量が減少して栄養状態へ影響することもあります。

廃用症候群を予防するためには、「動く時間」と同じくらい、「起きて活動する時間」を確保することも重要です。 そのための具体的な方法として、次のような取り組みをお勧めします。

日中の活動量を維持するためのポイント
  • 起床時間・就寝時間を決める:起きる時間と寝る時間を決め、生活リズムを整えましょう。朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びることで、体内時計を整える効果が期待できます。
  • 着替える:日中と夜間の区別をつけるためにも、着替えを行うことをお勧めします。パジャマから普段着へ着替えるだけでも、「活動する時間」という意識につながります。
  • 座って過ごす時間を確保する:早期離床でもお伝えしたように、座る時間を設けることはとても大切です。テレビを見る、本を読む、新聞を読むなど、できるだけ座った姿勢で過ごす時間を作りましょう。ベッドから椅子へ移動できる方は、食事や趣味の時間なども椅子に座って過ごすことで、活動量を増やすことにつながります。
  • 人との交流を大切にする:家族や友人との会話など、人とのコミュニケーションは心身への良い刺激になります。廃用症候群の予防や進行を防ぐためには、身体を動かすだけでなく、人と関わり、考えたり話したりする機会を持つことも大切といわれています6)
日中の活動量を維持するための4つのポイントをイラストで示した図

5.ご家族ができる支援

廃用症候群の予防において、ご家族の関わりはとても大きな力になります。 動くことに制限があるときに、人は「焦り」や「孤独感」が生じやすいです。その際に「話を聞く」、「そばにいる」は、精神的なサポートになります。

また、日常生活の中で、「できること」を促し、見守ることも大切な支援です。 例えば、朝起きたら着替えを促し、ご本人ができる範囲で取り組めるよう見守ることも活動量の維持につながります。 「できることを行う」というのは、「身体を動かすこと」、「身体を使うこと」につながり、機能を維持するためにとても大切です。 時間がかかるからといって、ご家族がすべて代わりに行ってしまうと、かえって活動量の低下につながることがあります。

ご家族の関わり方のポイント
  • もちろん、無理をさせる必要はありません。疲労や体調を確認しながら、「少し頑張ればできること」は本人に任せ、「難しいこと」はそっと手を貸すという関わり方が理想的です。「できないこと」を増やさないためには、「できること」を続けることが何より大切だということを忘れないでください。

6.おわりに

廃用症候群は過度に安静にしすぎること、つまりは「何もしない」・「何もさせない」ことで起こりやすくなる症状です。

そのため、「今できる活動」を少しでも続けることが、廃用症候群の予防や進行を防ぐことにつながります。 まずは、ベッド上で手足を動かすことや、身体を起こして座ること、人と会話をすることなど、無理のない範囲で日常生活の中に活動を取り入れることから始めてみてください。

また、「どのくらい動いてよいのか」、「何をすればよいのか」と不安を感じた際には、医師や作業療法士、理学療法士などの専門家へ相談することをお勧めします。 専門家は、その時々の身体の状態や生活環境に合わせて、安全で無理のない方法を一緒に考えてくれます。

廃用症候群は、特別な運動で予防するものではありません。 着替える、食事をする、座って過ごす、人と会話をするなど、日々の生活そのものが大切な予防につながります。 ご本人だけでなく、ご家族も一緒に「できること」を少しずつ積み重ねながら、健康な生活を続けていきましょう。

本記事のまとめ
  • 廃用症候群は安静・活動量低下によって全身の機能が低下する状態で、筋力・関節可動域・骨密度・心肺機能などに影響が及びます。
  • ベッド上でも足首・膝・肩・肘・手首・指先を痛みのない範囲で動かすことが予防につながります。
  • ギャッジアップや端座位など、早期からの離床が全身機能の維持に重要です。
  • 起床・就寝時間を決める、着替える、座って過ごすなど、生活リズムを整える工夫が日中の活動量維持に役立ちます。
  • ご家族は代行するのではなく、「できること」を見守り支える関わり方が大切です。

参考文献
  1. Walter M Bortz II. "The Disuse Syndrome" West J Med. 141, no.5(Nov 1984):691-694. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/instance/1011199/pdf/westjmed00183-0115.pdf
  2. 園田茂.「不動・廃用症候群」The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 52, no.4/5 (2015):265-271 https://doi.org/10.2490/jjrmc.52.265
  3. 社団法人日本老人医学会.老年医学テキスト第3版.株式会社メジカルビュー社.2003.
  4. 中村隆一,斎藤宏,長崎浩.基礎運動学第6版.医歯薬出版株式会社.2006.
  5. William D Schweickert, Mark C Pohlman, Anne S Pohlman, Celerina Nigos, Amy J Pawlik, Cheryl L Esbrook, Linda Spears, Megan Miller, Mietka Franczyk, Deanna Deprizio, Gregory A Schmidt, Amy Bowman, Rhonda Barr, Kathryn E McCallister, Jesse B Hall, John P Kress."Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial".Lancet.30 (May 2009):1874-1882 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9906655/pdf/main.pdf
  6. 松房利憲,新井健五.標準作業療法学 高齢期作業療法学第3版.医学書院.2016.
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この記事の著者

勝田茜

勝田茜

作業療法士・Ph.D.(保健学)

プロフィール詳細

大学卒業後、大学院に進学し「膝前十字靭帯損傷予防」とテーマに研究を行う。修了後は作業療法士として医療機関に勤務。2012年から2016年の4年間、ドイツにある人道援助団体、ドイツ国際平和村(FRIEDENSDORF INTERNATIONAL)で職員として勤務。様々な国の子どもたちのリハビリに従事。2016年に帰国した後は、大学教員としてのキャリアをスタート。その間に博士号(保健学)を取得。現在は京都にある佛教大学で勤務。世界中のすべての方に公正なリハビリの機会を目指している。

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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