平均寿命と健康寿命の間には約9〜12年の乖離があり、いつまでも元気に暮らし続けるためには、フレイルや要介護状態を防ぐ「社会参加(人とつながること)」が運動と同等以上に重要です。 地域の「介護予防教室」や「いきいき百歳体操」、「地域サロン」といった通いの場は、会場へ向かう一連の行動そのものが身体活動量を高める絶好の機会となります。 初めてで参加に迷う場合は、事前申し込み不要の見学から気楽に始め、茶話会や囲碁・将棋など自身の興味や体力に合った内容を選ぶことが継続のコツです。 また、地域の活動情報探しや足腰の不安は、元気なうちから専門職に相談できる『地域包括支援センター』を最初の窓口として活用することで、一人ひとりに合った最適な居場所や必要な支援へスムーズに繋がることができます。
はじめに
日本は世界有数の長寿国です。厚生労働省の統計によると、日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳を超えています。一方で、健康寿命は男性72歳前後、女性75歳前後とされており、平均寿命との間には男性で約9年、女性で約12年の差があります。
これは、多くの人が人生の最終段階において、何らかの介護や支援を必要とする期間を経験していることを意味します。
活動量の低下や外出機会の減少は、筋力低下やフレイルを招き、転倒や要介護状態につながることがあります。 高齢者の転倒は骨折や入院の原因となるだけでなく、その後の活動量低下を通じて生活機能の低下を招くことも少なくありません。
近年では、転倒予防や健康づくりを目的としたさまざまな介護予防の取り組みが地域で行われています。 介護予防教室や体操サロン、いきいき百歳体操、ロコモ予防体操などはその代表例であり、多くの高齢者が参加しています。
これらの活動は身体機能の維持・向上だけでなく、「通いの場」として地域の人との交流や外出の機会を増やすことにもつながります。
介護予防教室ってどんなところ?
介護予防教室とは、高齢者が住み慣れた地域で元気に生活を続けられるよう、市町村が実施している介護予防事業の一つで、主に65歳以上の高齢者を対象として実施されています。 加齢に伴う筋力や体力の低下を予防し、転倒や要介護状態になることを防ぐことを目的としており、多くの場合、地域の集会所や公民館、市民センターなどで開催されています。
教室の内容は地域によって異なりますが、筋力トレーニングやストレッチ、バランス練習、転倒予防体操、認知症予防活動などが行われています。 これらの運動は下肢筋力やバランス能力の維持・向上を目的としており、転倒予防にも効果が期待されています。
また、理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション専門職が関わり、運動方法の指導や身体機能の評価を行うこともあります。 広く実施されている「いきいき百歳体操」も代表的な介護予防活動の一つです。
いきいき百歳体操ってなに?
いきいき百歳体操とは、高知県の自治体から始まった椅子に座った状態でも実施できる筋力運動であり、参加者それぞれの体力に応じて重りの重さを調整できることが特徴です。 1年間体操を継続することで、下肢筋力やバランス能力の維持・向上が認められたという研究報告もあります。
魅力は、運動だけではありません。同じ地域に住む人との交流や情報交換の場にもなり、外出のきっかけづくりや社会参加にもつながります。 体操をするために家を出て地域へ出かけること自体が、介護予防の大切な第一歩といえるでしょう。 実際には、持病の影響で体操への参加が難しくても、顔なじみの友人と話すことを楽しみに通われている方もいます。
地域サロンってどんなところ?
地域のサロンは、地域に住む高齢者の皆さんが気軽に集まり、交流や活動を楽しむことができる「地域の居場所」です。 お茶を飲みながらの会話や、カラオケ、手芸、囲碁、将棋などの趣味活動を楽しんだり、レクリエーションなどを通じて、人とのつながりを深めることができます。
年齢を重ねると、外出の機会や人と話す機会が少なくなりがちですが、サロンに参加することで閉じこもりの予防や気分転換に繋がります。
サロンには、介護が必要になる前の元気な方から、少し体力に不安を感じている方まで幅広く参加されています。 「知り合いがいないから不安」、「初めてだから参加しづらい」と感じる方もおられますが、多くの方が温かく迎えてくれます。 元々の趣味のカラオケがしたい、将棋の相手がほしい、麻雀で息抜きがしたいなど趣味活動の延長で参加する方もいます。
住み慣れた地域で元気に暮らし続けるためにも、まずは気軽な気持ちで参加してみてください。 新しい仲間との出会いや楽しみが、毎日の生活をより豊かにしてくれるはずです。
地域包括支援センターってどんなところ?
地域包括支援センターは、高齢者の皆さんが住み慣れた地域でいつまでも元気に暮らし続けられるよう支援する相談窓口です。 介護や健康、生活の困りごとなどについて、専門職が相談に応じています。
「最近足腰が弱ってきた気がする」、「物忘れが増えて心配」、「介護保険を利用したいけれど手続きがわからない」、「一人暮らしの生活に不安がある」など、高齢になるとさまざまな悩みが出てきます。 地域包括支援センターでは、こうした相談に対して保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が一緒に考え、必要な支援につなげてくれます。
- ▶ご本人だけでなく、ご家族や近所の方からの相談も受け付けています。
- ▶困ったときだけでなく、元気なうちから相談できるのが地域包括支援センターの特徴です。
地域の皆さんが自分らしく安心して暮らし続けられるよう、一人ひとりに寄り添いながら支援を行う身近な相談窓口として、ぜひ活用してください。
「通いの場」に行く意味
介護予防教室やいきいき百歳体操、地域サロンなど、高齢者が定期的に集まる活動の場は、総称して「通いの場」と呼ばれています。 こうした通いの場は、単に運動や趣味活動を行う場所ではなく、高齢者の健康維持や社会参加を支える重要な地域資源でもあります。
高齢になると、退職や家族構成の変化、身体機能の低下などにより、外出する機会が減少しやすくなります。 外出頻度の低下は身体活動量の低下につながり、さらに人との交流機会が減ることで閉じこもりや孤立を招く可能性があります。 こうした状態は、筋力低下や活動量低下を引き起こし、フレイル(年齢とともに心身の活力が低下した状態)へとつながる危険性があります。
日本老年学的評価研究(JAGES)の大規模調査では、スポーツ活動や趣味活動、ボランティア活動などに参加している高齢者は、社会参加をしていない高齢者に比べて要介護状態になるリスクが低いことが報告されています。 また、参加する活動の種類が多いほど、その予防効果が高まることも示されています。
このような研究結果からも、高齢者の健康維持には「身体を動かすこと」と同じくらい「人とつながること」が重要であることが分かります。
通いの場の効果は、活動そのものだけにあるわけではありません。実は「その場へ行くこと」自体にも大きな意味があります。 家を出て身支度を整え、歩いて会場へ向かう。途中で近所の方と挨拶を交わしたり、季節の変化を感じたりする。 この一連の行動そのものが外出機会となり、身体活動量の増加につながります。
高齢者の中には、「特に用事がないから外出しない」という方も少なくありません。 しかし、「今日は体操の日だから行ってみよう」、「みんなに会いに行こう」という目的ができることで、自然と外出のきっかけが生まれます。
通いの場は、運動をする場所であると同時に、地域へ一歩踏み出すための入口でもあるのです。
「通いの場」に参加するには
通いの場に参加を希望される場合は、まずお住まいの地域でどのような通いの場が開催されているかを確認しましょう。
地域包括支援センターや市町村の介護予防担当窓口、公民館などで情報を得ることができます。 また、地域で実施されている「いきいき百歳体操」やサロン活動などは、町内会の回覧板や広報誌で案内されることもあります。
- ▶多くの通いの場は事前申し込みが不要で、見学から参加できる場合もあります。
- ▶「体力に自信がない」「知り合いがいない」と不安に感じる方もいますが、参加者の多くが同じような気持ちで始めています。
無理のない範囲で参加し、自分のペースで活動を楽しむことが大切です。
通いの場には、体操を中心としたものだけでなく、茶話会や手芸、囲碁・将棋、認知症予防活動など、さまざまな内容があります。 ご自身の興味や体力に合った活動を選ぶことで、継続しやすくなります。
定期的な参加は、身体機能や認知機能の維持・向上だけでなく、閉じこもりの予防や地域とのつながりづくりにも役立つことが知られています。 まずは気軽に見学や体験から始めてみましょう。地域の仲間と交流しながら、いつまでも元気に暮らし続けるための第一歩として、通いの場を活用してみてください。
おわりに
日頃の健康づくりや転倒予防は、特別な運動や難しい取り組みで実現するものではありません。 地域へ出かけ、人と交流し、継続して身体を動かすことが大切です。 介護予防教室やサロン、いきいき百歳体操などの通いの場は、その第一歩を支えてくれる身近な地域資源です。
「少し気になるけれど参加したことがない」、「何から始めればよいかわからない」という方は、まずは見学からでも構いません。 また、地域包括支援センターでは、介護予防に関する相談や地域の活動情報を得ることができます。
一人でも多くの方が地域へ出かけ、人とつながり、自分らしい役割を持ちながら暮らし続けられるよう、私たち医療・介護専門職も地域と連携しながら支援を続けていきたいと思います。 健康寿命を延ばすための第一歩として、ぜひ身近な通いの場を活用してみてください。
- ✓平均寿命と健康寿命の差は男性約9年、女性約12年あり、運動と同じくらい「人とつながること」が重要
- ✓介護予防教室・いきいき百歳体操・地域サロンは「通いの場」として外出機会と社会参加を生み出す
- ✓会場へ向かう一連の行動そのものが身体活動量を高める機会になる
- ✓多くの通いの場は事前申し込み不要で見学から参加できる
- ✓地域包括支援センターは、元気なうちから相談できる身近な窓口
- 厚生労働省.令和5年簡易生命表の概況.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/
- Kanamori S, Kai Y, Aida J, Kondo K, Kawachi I, Hirai H, et al. Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese: The JAGES cohort study. PLoS One. 2014;9(6):e99638.
- Yamada M, Arai H. Self-Management Group Exercise Extends Healthy Life Expectancy in Frail Community-Dwelling Older Adults. Int J Environ Res Public Health. 2017;14(5):531. doi:10.3390/ijerph14050531.
- 庹進梅,樺山舞,黄雅,赤木優也,呉代華容,清重映里,畑中裕美,橋本澄代,菊池健,神出計.地域通いの場に参加する高齢者におけるフレイルの実態といきいき百歳体操効果の縦断的検討―大阪府能勢町いきいき百歳体操効果検証―.日本老年医学会雑誌.2021;58(3):459-469.
