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カテゴリー: 健康・予防の知識
タグ: 健康, 予防, その他(4件)

「生活の質」は誰が決めるのか —QOLという言葉に振り回されないために—

こんな人に読んでほしい!
  • リハビリや健康づくりで、「できることを増やす」ことに少し疲れている人
  • 家族や支援者から「もっと外に出たら」、「もっと活動したら」と言われて、少し苦しくなっている人
  • 健康診断や検査値は悪くないのに、なぜか満たされなさを感じている人
  • 医療・介護・福祉の現場で、利用者や患者の「QOL向上」を目標にしている支援者
この記事の要約

リハビリや健康づくりにおいて、QOL(生活の質)は単なるアンケートの数値や「できる動作の多さ」だけで測れるものではありません。本当に大切なのは、活動の量や人並みの基準ではなく「自分は何があれば満たされるのか」という主観的な心地よさや、できることの先にある「やりたいこと」を見つけることです。また、生活全体の満足度には睡眠の質や気分の変化、さらには個人の努力だけでは解決できない「生活環境」の相性も大きく関わっています。変化していく心身の中で自分らしく過ごすためのQOLの本質を作業療法士が解説します。

QOLという言葉への小さな違和感

健康診断の結果が良かったのに、なんだか毎日が満たされない、逆に体に悪いところがあっても「今の生活、悪くないな」と思える。そんな経験、ありませんか。

最近よく聞く「QOL(Quality of Life:生活の質)」という言葉は、まさにこの「数値だけでは測れない満足感」を表すために使われます。でも、この言葉が広まれば広まるほど、なんとなく感じる違和感もあります。今日はその違和感の正体について、考えてみたいと思います。

QOLを決めるものは一つではない。生活の質(QOL)は身体の状態、心理・感情の状態、人とのつながり、生活環境・地域の状況、経済的な状況、好きなこと・自分らしさなど、さまざまな要素が重なり合ってつくられることを示す図
図1:QOLを決めるものは一つではない
この記事のポイント
  • QOLは「点数」だけでは測れない
  • 「できること」よりも「どう生きたいか」が大事
  • QOLは本人の努力だけでなく、環境にも左右される

「人並みの生活」と「自分にとっての生活」は違う

QOLを測るためのアンケートには、「外出の頻度」、「人と会う回数」、「趣味の活動」といった項目がよく登場します。たしかに、多くの人にとってこれらは生活の充実度に関係するでしょう。

しかし、もしあなたが「家で静かに本を読んでいる時間が一番幸せ」というタイプだったら、どうでしょうか。「外出が少ない」、「人付き合いが少ない」という結果だけを見て、「あなたの生活の質は低めですね」と言われたら、なんだか釈然としない気持ちになるかもしれません。

世の中で「生活が充実している」とされる典型的なイメージと、自分にとっての心地よさは必ずしも一致しません。誰かと比べて「足りない」ところを探すのではなく、「自分は何があれば満たされるのか」を考えること、これがQOLを考えるときの、本当のスタート地点なのかもしれません。

「人並みのQOL」と「私のQOL」はちがう。世間が考えるQOL(外出が多い、人付き合いが多い、運動や習い事、旅行やレジャー)と、私にとってのQOL(家で本を読む時間、大切な存在とゆっくり過ごす、好きな飲み物でほっと一息、自然を感じながらのんびりする)は必ずしも一致しないことを示す図
図2:「人並みのQOL」と「私のQOL」はちがう

アンケートの「3点」に、自分の本音は入っているか

体調や気分について、「10段階で言うとどれくらいですか」と聞かれたことがある人もいるでしょう。たとえば「3」と答えたとします。でも、その「3」って何でしょう。我慢強い人の3と、ちょっとしたことでもすぐ辛くなる人の3は、同じ「3」でもまったく違う体験のはずです。その日の天気や気分、過去にどんな経験をしてきたかなど、そういうものは数字には表れません。

数字で答えること自体が悪いわけではありません。ただ、「数字で答えられること」と「自分が本当に感じていること」は、必ずしもイコールではない、ということは覚えておいてもいいかもしれません。アンケートの「3」よりも、「最近、なんだか疲れやすいな」、「前より笑う回数が減った気がする」という、自分の中のふとした気づきのほうが、案外大事なサインだったりします。

「できることが増える」だけでは満たされないこともある

リハビリや健康づくりというと、「歩けるようになる」、「筋力がつく」「検査の数値が良くなる」といった、目に見える改善が目標になりがちです。もちろん、これらは大切なことです。でも、ふと考えてみてください。歩けるようになったとして、その先で何をしたいですか?

孫に会いに行きたいのか、近所の人とおしゃべりしたいのか、好きな散歩道を歩きたいのか、それとも特に目的はなく、ただ自由に動けること自体が嬉しいのか。

「できること」が増えても、その先にある「やりたいこと」、「会いたい人」、「行きたい場所」が見えていないと、なんとなく物足りなさが残ることがあります。逆に、たとえできることが少し減ったとしても、「これがあれば自分は大丈夫」と思える何かがあれば、案外心は安定するものです。

リハビリのゴールは「できること」だけではない。従来のリハビリのゴール(能力の向上が中心)と、本人中心のリハビリのゴール(やりたいこと・自分らしい暮らしが中心)を比較し、生活の満足感(QOL)の向上につながる視点を示す図
図3:リハビリのゴールは「できること」だけではない

調子が落ちていくことは、「失敗」ではない

年齢を重ねたり、病気をしたりすると、できないことが増えていくのは自然なことです。最近の研究でも、同じように元気だった人でも、その後の経過には個人差があり、急に体調を崩しやすくなる人もいれば、長く同じ調子を保てる人もいることが分かっています。

ここで大事なのは、「調子が落ちること」と「その人の価値が下がること」はまったく別の話だ、ということです。

「前はもっと元気だったのに」、「昔はこんなことができたのに」―そう感じること自体は自然な感情です。でも、そこで「だから自分はもうダメだ」と結論づけてしまう必要はありません。できることが変わっても、楽しめること、味わえること、誰かとつながれることは、形を変えながら残っていきます。

「いかに今の状態を維持するか」だけでなく、「変化していく中で、どう自分らしく過ごすか」という視点を持っておくと、少し気持ちが楽になるかもしれません。

睡眠や気分の落ち込みは、案外見過ごされがち

意外かもしれませんが、最近の研究では生活の満足度に大きく関わる要素として、睡眠の質や、気分の落ち込みやすさが要因として報告されています。「最近よく眠れているか」、「日中、ぼんやりしてしまうことが多くないか」といったことは、生活の質を考えるうえで見過ごされがちですが、実はとても重要なサインです。

「楽しいことを増やそう」と意気込む前に、「最近ちゃんと眠れているかな」、「気分が落ち込みがちになっていないかな」と振り返ってみる。そんな小さなチェックのほうが、実は生活全体の満足度に効いてくる可能性があります。

一人で抱え込む話ではない

最後にもう一つ。生活の満足度は、本人の心がけや努力だけで決まるものではありません。外に出かけられる場所があるか、気軽に会える人がいるか、必要なときに頼れるサービスがあるか、経済的な余裕があるか――こうした「環境」の部分も、生活の質に大きく関わっています。

つまり、「もっと前向きに考えよう」、「もっと活動的になろう」と自分に言い聞かせるだけでは、解決しないこともあるということです。もし今、なんとなく満たされない気持ちが続いているなら、それは「自分の心がけが足りないから」ではなく、「環境や状況が今の自分に合っていないから」かもしれません。そう考えると、少し肩の力が抜けませんか。

まとめ:「生活の質」を、自分の言葉で考えてみる

QOLという言葉は、専門家が研究や支援を考えるうえではとても便利な道具です。でも、私たち一人ひとりが自分の生活を振り返るときには、もっとシンプルな問いのほうがしっくりくるかもしれません。

自分の生活を振り返るためのヒント
  • 「最近、ちょっと嬉しかったことは何だろう」
  • 「最近、誰かと話していて楽しかったのはいつだろう」
  • 「今、いちばん気になっていることは何だろう」

こうした問いに答えていくことのほうが、「QOLは10点満点中何点ですか」と聞かれるよりも、ずっと自分の本音に近づける気がします。

「生活の質」という言葉に振り回されるのではなく、自分自身の生活そのものに、ちょっと耳を澄ませてみる。そんな時間を持つことが、案外いちばんの近道なのかもしれません。

本記事のまとめ
  • QOLはアンケートの点数だけでは測れない。自分にとっての「心地よさ」を基準にすることが大切
  • 「できること」が増えても、その先にある「やりたいこと」が見えていないと物足りなさが残る
  • 調子が落ちることは「失敗」ではなく、変化の中で自分らしく過ごす視点が重要
  • 睡眠の質や気分の変化は、生活の満足度を左右する見過ごされがちなサイン
  • 生活の質は個人の努力だけでなく、環境や状況にも大きく左右される

参考文献
  1. Kaplan RM, Hays RD. Health-Related Quality of Life Measurement in Public Health. Annual Review of Public Health. 2022; 43: 355-373
  2. Oshima R, Ohashi Y, Iwane T, et al. Longitudinal trajectories of health-related quality of life and their predictors among community-dwelling older adults. Scientific Reports. 2026;16:872.
  3. Roy RJ, Abraham EC, Gopika G, Alfred J. Determinants of Health-Related Quality of Life: A Population Based Assessment. International Journal for Multidisciplinary Research. 2025;7(4).
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この記事の著者

中井 秀昭

中井 秀昭

作業療法士 / MUP

プロフィール詳細

1981年大阪府生まれ。作業療法士(OT)。京都橘大学健康科学部作業療法学科専任教員。大阪公立大学大学院・博士課程に在籍し、地域リハビリテーションと職能育成の双方から“暮らしの再構築”に取り組む。研究テーマは、①農業×福祉の協働(農福連携)と通所介護における農作業導入の多面的効果、②OT教育におけるパラスポーツを用いた障がい理解・職業アイデンティティの形成過程、③初期キャリアOTのワーク・エンゲイジメントとジョブ・クラフティング(JD-Rモデル)など。量的・質的を統合する混合研究やスコーピングレビュー、縦断調査を用い、臨床・教育・制度設計に接続可能な実装知を志向する。学会・行政・NPO・事業所等と協働しながら、通所現場のアウトカム評価、パラスポーツ教育のカリキュラム開発、障害福祉領域の人材育成にも携わる。プライベートではフットサルや遠泳、バトミントンなどを仲間と楽しむ。座右の銘は、「旗を上げよ、まず一歩」。

【研究者情報(Researchmap)】
https://researchmap.jp/hideaki_wonder

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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