要約
歩行時につまずく変化を単なる「加齢」のせいにするのではなく 、足首を持ち上げる力が弱まる「下垂足」の可能性を考慮すべきです 。その背景には、足を組む習慣やギプス、脳梗塞や糖尿病、腰椎疾患といった多様な病態が隠れています 。よって、自己判断で放置せず 、装具療法やリハビリ、薬物療法といった適切な処置を早期に受けることが重要となります 。また、歩行訓練等を通じて転倒を予防することは、膝や腰への二次的な負担軽減に繋がります 。
はじめに
「最近、何もない場所でつまずくことが増えた」、「歩くと足先が引っかかる」、「スリッパが脱げやすくなった」、そんな変化を年齢のせいと思っていませんか。もちろん加齢による筋力低下が影響することもありますが、中には「下垂足(かすいそく)」という状態が隠れている場合があります。
下垂足とは、足首を上に持ち上げる力が弱くなり、歩くときにつま先が下がってしまう状態です。放置すると転倒につながることもあり、原因によっては早めの受診が必要になることもあります。
今回は、下垂足の症状や原因、治療方法について、できるだけわかりやすく解説します。
下垂足とは
下垂足は「Drop Foot(ドロップフット)」とも呼ばれ、足首を上に持ち上げる筋肉や神経の働きが低下することで起こる症状です1)。足首が上がりにくくなるため、歩くときにつま先が床に引っかかりやすくなります。
そのため、引っかからないように膝や股関節を必要以上に高く上げて歩く特徴的な歩き方になることがあります。これは「鶏歩(けいほ)」と呼ばれています。この歩き方が続くと、転倒しやすくなるだけでなく、膝や股関節、腰などにも負担がかかりやすくなります。
下垂足の主な症状
- 足の甲やすねの外側のしびれ
- 感覚が鈍くなる
- 足首に力が入りにくい
下垂足の主な原因
下垂足にはさまざまな原因があります。特に多い原因を紹介します。
腓骨神経(ひこつしんけい)の圧迫
下垂足で最も多い原因のひとつが、「腓骨神経」という神経の圧迫です。腓骨神経は、膝の外側からすねにかけて通っている神経で、足首を持ち上げる動きに関わっています。この神経は皮膚の近くを通っているため、圧迫の影響を受けやすい特徴があります。
【腓骨神経麻痺が起こりやすくい例】
- 足を組むクセがある
→ 膝の外側が圧迫され、神経に負担がかかります。 - 長期間ベッドで過ごしている
→ 仰向けで寝ていると膝の外側が圧迫されやすくなります。 - ギプス固定をしている
→ ギプスが神経を圧迫してしまうことがあります。
腰椎の病気
下垂足は腰の病気によって起こることもあります。足首を上げる筋肉には、腰から伸びる神経が関わっています。その神経が圧迫されると、足が上がりにくくなることがあります。
代表的な病気として、「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」などがあります。この場合は、腰痛、お尻から足にかけての痛み、痺れなどを伴うことも少なくありません。
脳梗塞・脳出血
脳梗塞や脳出血によっても、下垂足が起こることがあります。私たちの体は、脳からの命令によって動いています。脳に障害が起こると、足に麻痺が出て、足首が上がりにくくなることがあります。
この場合は、
- 顔のゆがみ
- ろれつが回らない
- 片側の手足に力が入りにくい
など、他の症状を伴うことが多いです。突然症状が出た場合は、緊急性が高い可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。
糖尿病による神経障害
糖尿病では、高血糖の状態が長く続くことで神経が障害されることがあります2)。初期には、足のしびれ、冷え、感覚の低下などがみられ、進行すると足を動かす神経にも影響が及び、下垂足につながることがあります。
また、糖尿病による神経障害では、立ちくらみ、排尿トラブル、顔面神経麻痺など、さまざまな症状が現れることがあります。
外傷や手術跡の神経障害
膝周囲の骨折や脱臼、腰や膝の手術後に下垂足が起こる場合があります。手術やケガの際に神経が圧迫されたり引っ張られたりすることで、神経麻痺が生じることがあります。
骨折や手術後に、「足首が上がりにくい」、「足の甲の感覚がおかしい」などの症状がある場合は、早めに主治医へ相談しましょう。
下垂足の症状チェックリスト
以下の項目に3つ以上当てはまる人は注意が必要です。
□歩くときに足のつま先が地面に引っかかる
□足首・足の甲を持ち上げにくい
□足を高く持ち上げないと歩きにくい
□すねの外側や足の甲がしびれる、もしくは感覚が鈍い
□膝の外側を押すと痛みやしびれが広がる
□足首をあげたときに明らかに左右差がある
□長期間のねたきりやギプス固定後から症状が出た
複数の症状が当てはまる場合には、整形外科や脳神経外科への相談をおすすめします。
特に、症状が急に現れた場合や短時間で悪化している場合、また片側の手足に力が入りにくいといった症状を伴う場合には、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害の可能性も考えられます。
そのため、自己判断で様子を見るのではなく、速やかに医療機関を受診することが大切です。
下垂足の治療法
圧迫の原因を取り除く
腓骨神経が圧迫されている場合は、その原因を取り除くことが大切です。
圧迫の原因を取り除く方法
- 足を組む習慣を減らす
- ギプスの当たり方を調整する
- 寝ている姿勢を工夫する3)
などを行います。軽い神経障害であれば、数週間〜数か月で回復することもあります。
薬物療法
神経の回復を助けるために、ビタミンB12製剤(メコバラミンなど)が処方されることがあります。しびれや神経障害の改善を目的として使用されます。
装具療法
足首を支える装具を使用し、歩くときにつま先が引っかからないようにします4)。
装具を使うメリット
- つまずきや転倒を予防できる
- 歩きやすくなる
- 足首が硬くなるのを防ぎやすい
- 膝や腰への負担を減らせる
主な装具の種類
- 短下肢装具(AFO) :足首を固定し、歩行を安定させます
- 底屈制限サポーター :足先が下がりすぎないように支えます
症状が軽い場合はサポーター、重い場合は固定力の強い装具が使われます。
リハビリ
下垂足にはリハビリテーションも欠かせません。機能回復をすすめるために主な下記のメニューを行っていきます。
【運動療法】
足首が硬くならないようにストレッチを行いながら、足を持ち上げる筋肉を鍛えていきます。特に、ふくらはぎの筋肉が硬くなりやすいため、柔軟性を保つことが大切です。
【電気刺激療法】
筋肉に電気刺激を与え、足首を上げる筋肉を動かしやすくします。筋肉がやせてしまうことを防ぎながら、筋力改善を目指します。
【歩行訓練】
下垂足では、つまずかないように膝や股関節を大きく持ち上げる歩き方になりやすくなります。この歩き方が続くと、腰や膝への負担が増えることがあります。歩き方を調整することで、転倒予防や体への負担軽減につながります。
まとめ
下垂足は、単なる「年齢のせい」とは限りません。原因によっては、脳梗塞や糖尿病などの病気が関係していることもあります。一方で、早めに原因を調べ、適切な治療やリハビリを行うことで、症状の改善が期待できる場合も少なくありません。
「最近つまずきやすくなった」、「足先が上がりにくい気がする」そんな違和感がある場合は病院を受診し、原因を調べ適切な治療を行っていきましょう。
参考文献
- 日本整形学会症状・病気をしらべる「腓骨神経麻痺」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/peroneal_nerve_palsy.html - 糖尿病性神経障害:日本糖尿病学会
https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/10.pdf - 腓骨神経麻痺予防の看護に関する研究:看護実践学会
https://www.kango-ji.com/journal/download/files/16-3.pdf - 補装具ガイドブック:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000070150.pdf
