高齢者に多い大腿骨近位部骨折は、寝たきりや要介護状態を防ぐために、 早期手術と早期リハビリテーションが極めて重要です。 骨折の部位(大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折)や血流環境、骨折の型によって、 「人工骨頭置換術」か「骨接合術(ボルト固定)」の術式が選択されます。 手術翌日からの早期離床や段階的な歩行練習、そして退院後の再転倒・再骨折予防の継続が、 その後の生活機能を維持するための鍵となります。
はじめに
「転倒して骨折しただけ」と思われがちですが、高齢者の大腿骨近位部骨折は その後の歩行能力や生活機能に大きく影響することがあります。 実際に、大腿骨骨折を契機として活動量が低下し、 寝たきりや要介護状態へ移行するケースも少なくありません。
特に高齢者では、骨粗鬆症による骨強度低下や筋力・バランス能力低下を背景として、 比較的軽微な転倒でも大腿骨近位部骨折を受傷することがあります。 受傷後は痛みによって立位・歩行が困難となり、 臥床期間(寝ている期間)が長くなることで全身機能低下を招きやすくなります。
- ▶筋力低下
- ▶廃用症候群(身体の不活動状態により生ずる二次的障害)
- ▶誤嚥性肺炎(唾液や食物などが気管から肺に垂れ込み生じる肺炎)
- ▶深部静脈血栓症(下腿部の静脈に血栓が生ずる疾患)
- ▶認知機能低下
そのため、高齢者の大腿骨近位部骨折では「骨を治す」だけでなく、 「どれだけ早期に離床・歩行を再獲得し、生活機能を維持するか」が重要になります。
日本整形外科学会『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021』では、 早期手術および早期リハビリテーション介入の重要性が示されています1)。
- ▶高齢者に多い大腿骨近位部骨折とは何か
- ▶大腿骨頚部骨折と転子部骨折の違い
- ▶人工骨頭置換術と骨接合術の選択基準
- ▶早期手術と早期リハビリテーションの重要性
高齢者に多い大腿骨近位部骨折とは
大腿骨近位部骨折とは、股関節周囲に生じる骨折の総称であり、 主に「大腿骨頚部骨折」と「大腿骨転子部骨折」に分類されます。
高齢者では、加齢による筋力低下やバランス能力低下に加え、 骨粗鬆症による骨強度低下が存在するため、 比較的軽微な転倒でも受傷することがあります2)。 受傷後は疼痛によって荷重や歩行が困難となり、 活動量低下から全身機能低下を招きやすくなります。
- ▶歩行能力低下
- ▶筋力低下
- ▶廃用症候群
- ▶誤嚥性肺炎
- ▶認知機能低下
- ▶要介護状態への移行
高齢者の大腿骨近位部骨折では保存療法より手術療法が選択されることが多く、 早期離床や歩行能力再獲得を目指した治療介入が重要になります1)。
大腿骨頚部骨折と転子部骨折の違い
高齢者に生じる大腿骨近位部骨折は、大きく「大腿骨頚部骨折」と 「大腿骨転子部骨折」に分類されます。 両者は骨折部位だけでなく、解剖学的特徴や血流環境、治療戦略にも違いがあります。
大腿骨頚部骨折
大腿骨頚部骨折は、股関節包内に生じる骨折です。 大腿骨頭(大腿骨の丸い部分)へ向かう血流は主に内側大腿回旋動脈によって供給されていますが、 頚部骨折ではこの血流が障害されやすい特徴があります。
そのため、骨頭壊死(大腿骨の丸い部分の血液が不足し骨組織が死んでしまう状態)や 偽関節(骨がうまく癒合せずグラグラしている状態)を生じるリスクが高く、 特に転位型骨折では骨癒合が得られにくい場合があります。 そのため、高齢者では人工骨頭置換術が標準的に選択されます1)。
大腿骨転子部骨折
一方、大腿骨転子部骨折は股関節包外骨折に分類されます。 頚部骨折と比較して骨頭血流が保たれやすく、比較的骨癒合が得られやすい特徴があります。 そのため、一般的には骨接合術が第一選択となります1)。
近年では、特に不安定型転子部骨折に対して、 髄内釘(Short Femoral Nail:SFN)を用いた固定術が広く行われています。 一方、安定型骨折では Compression Hip Screw(CHS)が選択される場合もあります1)。
しかし、転子部骨折では骨折型によって固定性が大きく異なります。 特に後内側支持機構(骨内側の安定性を保つ骨構造)が破綻した不安定型骨折では、 術後に骨折部が短縮するように沈み込み、固定性低下を生じる場合があります。 そのため、骨折型に応じた適切な固定方法の選択が重要になります1)。
- ▶骨頭壊死リスクが高い
- ▶偽関節を生じやすい
- ▶転位型では人工骨頭置換術が選択される場合がある
- ▶比較的骨癒合が得られやすい
- ▶骨接合術が第一選択となることが多い
- ▶不安定型では固定性低下リスクがある
高齢者の大腿骨骨折では、骨折部位によって治療戦略が大きく異なるため、 画像評価や骨折型分類が重要になります1)。
なぜ早期手術・早期リハビリが重要なのか
日本整形外科学会『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021』では、 高齢者の大腿骨近位部骨折に対して、可能な限り早期に手術を行うことが 推奨されています1)。
その理由として、高齢者では数日間の臥床でも身体機能低下が進行しやすいことが挙げられます。 手術までの期間が長くなると、活動量低下によって筋力低下や廃用症候群が進行し、 歩行能力再獲得が困難となる場合があります。
- ▶筋力低下
- ▶廃用症候群
- ▶誤嚥性肺炎
- ▶深部静脈血栓症
- ▶せん妄
また、早期手術によって疼痛軽減や離床促進が期待でき、 生命予後改善との関連が報告されています3)。 特に高齢者では、「どれだけ早く歩行を再開できるか」が、 その後のADL(食事・更衣・トイレ動作などの日常生活動作)や 自宅復帰に大きく関与します。
そのため、手術によって骨折部を早期に安定化させ、 可能な限り早期から立位・歩行練習を開始することが重要になります。
さらに、術後は早期リハビリテーション介入も重要です。 高齢者では「歩かない期間」が長くなるほど筋力低下が進行しやすく、 歩行能力再獲得率や生活機能にも影響を及ぼします。 術後早期からの多職種介入は、移動能力改善やADL維持に有効であることが 報告されています4)。
- ▶早期離床
- ▶早期荷重練習
- ▶歩行能力再獲得支援
- ▶再転倒予防
- ▶再骨折予防
- ▶多職種連携
人工骨頭置換術と骨接合術の選択基準
高齢者の大腿骨近位部骨折では、骨折型や患者背景に応じて術式を選択する必要があります。
大腿骨頚部骨折では、転位の少ない骨折に対して骨接合術が選択される場合があります。 一方、転位型骨折では大腿骨頭への血流障害によって、 骨がうまく癒合しなかったり、骨頭壊死を生じたりするリスクがあります。
そのため、日本整形外科学会のガイドラインでは、 高齢者の転位型大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術が推奨されています1)。 また、人工骨頭置換術は骨接合術と比較して再手術率が低いことも報告されています5)。
| 術式 | 主な適応 | 特徴・メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 人工骨頭置換術 | 高齢者の転位型頚部骨折 | 早期荷重しやすい・偽関節リスク回避・再手術率が比較的低い・早期離床につながりやすい | 脱臼・感染などの合併症リスクあり |
| 骨接合術 | 転子部骨折・転位の少ない頚部骨折 | 自身の骨を温存できる・侵襲を比較的抑えられる場合がある・転子部骨折で広く行われている | 不安定型では固定性低下・再転位のリスクあり |
大腿骨転子部骨折では骨接合術が基本となります。 近年では髄内釘による固定術が主流となっており、 骨折型に応じてインプラント(金属製の固定材料)が選択されます。
一方で、不安定型骨折では術後に固定性低下や再転位を生じる場合もあり、 適切な整復や固定が重要になります。
高齢者の大腿骨骨折では、単に骨折部位だけでなく、 術後の荷重可否や再獲得できる活動性、合併症のリスクなども考慮する必要があります。 例えば、認知機能低下が強い場合には安静保持や脱臼予防動作が困難となる場合があります。 そのため、年齢・認知機能・受傷前歩行能力・全身状態などを総合的に評価しながら 治療方針を決定する必要があります。
術後の機能予後とリハビリテーションの流れ
高齢者の大腿骨近位部骨折では、術後早期からのリハビリテーション介入が重要です。 活動量低下が長期化すると筋力低下や歩行能力低下が進行し、 自宅復帰が困難となる場合があります。
特に、受傷前から活動量が低下していた症例や認知機能低下を伴う症例では、 歩行能力再獲得や自宅復帰に難渋する場合もあります。 そのため、術後翌日から早期離床を進めながら、 立位練習や歩行練習を段階的に実施していきます。
- ▶早期離床を進める
- ▶荷重練習を早期から行う
- ▶歩行能力再獲得を目指す
- ▶再転倒予防を行う
- ▶骨粗鬆症治療を継続する
- ▶多職種連携を行う
また、高齢者では再転倒による再骨折リスクも高いため、 退院後を見据えた環境調整や生活指導も重要になります。
まとめ
高齢者の大腿骨近位部骨折は、歩行能力や生命予後に大きく影響する重要な疾患です。 特に大腿骨頚部骨折と転子部骨折では、血流環境や骨癒合特性、固定性の考え方が異なるため、 骨折型に応じた適切な術式選択が必要になります1)。
- ✓可能な限り早期に手術を行い、早期離床・早期歩行を目指すことが推奨されている
- ✓高齢者では長期臥床による身体機能低下が進行しやすい
- ✓早期リハビリテーション介入が歩行能力再獲得・自宅復帰に直結する
- ✓骨折型・認知機能・全身状態を総合的に評価した術式選択が重要
- ✓退院後の再転倒・再骨折予防も含めた多職種連携が不可欠
高齢者の大腿骨近位部骨折は、単なる「骨折」ではありません。 歩行能力低下やADL低下を引き起こし、ときにはその後の人生や生命予後にも 大きく関わる外傷であることを知っていただきたいと思います。
実際のリハビリテーションでは、手術翌日から立位練習や歩行練習を開始することも少なくありません。 術後は痛みが強く、不安を感じる患者様も多くいらっしゃいます。 しかし、痛みが残っているからといって、必ずしも改善していないわけではありません。 痛みには個人差があり、まずは「起き上がる」「座る」「トイレへ行く」といった ADLを少しずつ再獲得していくことが重要になります。
私自身、回復期リハビリテーション病棟で多くの患者様を担当する中で、 「どれだけ早く離床し、再び歩き始められるか」が、 その後の生活機能や自宅復帰に大きく関わる場面を数多く経験してきました。
リハビリスタッフは、患者様が再びその人らしい生活を送れるよう伴走しています。 不安を抱え込みすぎず、一歩ずつ生活再建を目指していただければと思います。- 日本整形外科学会,日本骨折治療学会:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021.改訂第3版,南江堂,東京,2021.
- 日本骨粗鬆症学会,日本骨代謝学会,骨粗鬆症財団:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.ライフサイエンス出版,東京,2015.
- Simunovic N, Devereaux PJ, Sprague S, et al:Effect of early surgery after hip fracture on mortality and complications:systematic review and meta-analysis.CMAJ.2010;182(15):1609-1616.
- Handoll HHG, Sherrington C, Mak JCS:Interventions for improving mobility after hip fracture surgery in adults.Cochrane Database Syst Rev.2011;(3):CD001704.
- Gjertsen JE, Vinje T, Engesæter LB, et al:Internal screw fixation compared with bipolar hemiarthroplasty for treatment of displaced femoral neck fractures in elderly patients.J Bone Joint Surg Am.2010;92(3):619-628.
