この記事では、「いびき」や「睡眠中の無呼吸」を単なる睡眠の問題として軽視せず、脳梗塞をはじめとする脳血管疾患との深い関係について解説しています。 特に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まることで脳や血管に大きな負担をかけ、血圧上昇や血管障害を引き起こします。実際に、脳梗塞患者の中には重度の睡眠時無呼吸症候群を合併している方も少なくありません。 「大きないびきをかく」、「昼間に強い眠気がある」、「夜間に何度も目が覚める」といった症状は、単なる疲労や加齢ではなく、脳血管障害の危険信号である可能性があります。早期発見と生活習慣改善が、脳梗塞予防につながる重要なポイントになります。
いびきは身体からの重要なサイン
多くの人は、「いびきくらい誰でもかくもの」、「疲れている証拠だから、よく寝れば治るだろう」と軽く考えてしまいがちです。確かに、日中の激しい労働や運動による肉体疲労、お酒を飲んだ夜、あるいは加齢に伴う喉の筋肉の緩みによってもいびきは発生します。
しかし、もしそのいびきが毎晩のように続き、時に地鳴りのような大音量になったり、突然ピタッと音が止まったりするようであれば、それは単なる「寝相の悪さ」や「疲れ」ではありません。脳や心臓の血管に慢性的な負担を与え、命に関わる重篤な疾患を引き起こす重大な病気「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:以下、SAS)」が隠れている可能性があります。
SAS(睡眠時無呼吸症候群)とは何か?
SAS(睡眠時無呼吸症候群)とは、その名の通り、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、極端に浅くなったりを繰り返す病態を指します。医学的な定義では、「睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸指数(AHI)が5回以上で、自覚症状を伴う場合」とされます¹⁾。
SAS(睡眠時無呼吸症候群)には大きく分けて2つのタイプが存在します。
①閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS) SAS患者の9割以上を占めるタイプです。呼吸をしようとする脳の命令は正常に出ているものの、空気の通り道である「喉の奥(上気道)」が物理的に塞がってしまうことで起こります²⁾。
②中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS) 喉が詰まっているのではなく、脳の呼吸中枢そのものの働きが低下し、身体が「呼吸をする」という指令自体を一時的に忘れてしまうタイプです。心臓の機能が低下している方などに多く見られます。
今回で特に深く掘り下げるのは、生活習慣や体型、加齢と密接に関わっている「①閉塞性睡眠時無呼吸症候群」です²⁾。
なぜ喉が塞がってしまうのか
私たちは起きているとき、喉の周りの筋肉が緊張を保っているため、空気の通り道がしっかりと確保されています。しかし、眠りに入ると全身の筋肉が弛緩します。これに伴い、喉の筋肉も緩み、重力によって舌の付け根や軟口蓋が喉の奥へと落ち込みます。
この空気の通り道が「狭くなった状態」で空気が無理に通ろうとするとき、周囲の粘膜が震えて出る音が「いびき」です。そして、通り道が「完全に塞がってしまった状態」が「無呼吸」です。
「いびき」の最中、体内では何が起きているか
喉が完全に塞がると、胸やお腹は呼吸をしようと動いているにもかかわらず、肺に十分な空気が入らなくなります。その結果、体内の酸素濃度(SpO₂)は低下します。
酸素不足を察知した脳は、呼吸を再開させるために一時的に睡眠を浅くします。すると喉の筋肉が緊張を取り戻し、「ガッ」と息を吸い込むように呼吸が再開されます。しかし、再び眠りが深くなると喉の筋肉が緩み、同じことが繰り返されます。重症の場合には、この無呼吸と呼吸再開のサイクルが一晩に何十回から100回以上と起こることがあります。
つまり、睡眠時無呼吸症候群の方は、十分な睡眠時間を確保していても、睡眠の質が大きく低下している状態です。これが、いびきや無呼吸の本当の姿です。単なる睡眠中の癖ではなく、身体からの重要なサインであり、放置するとさまざまな健康問題につながる可能性があります²⁾。
睡眠時無呼吸症候群と脳梗塞の深い関係
脳梗塞は、脳の血管が何らかの原因で詰まり、その先の脳細胞に酸素や栄養が行き届かなくなって、脳の組織が壊死してしまう病気です。一度壊死した脳細胞は基本的に再生しないため、一命を取り留めたとしても、片麻痺や言語障害、寝たきりといった重い後遺症が残ることが少なくありません。
脳梗塞を予防するための「4大危険因子」として、一般的には高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙が挙げられます。しかし、近年の大規模な疫学調査や臨床研究により、SASはこれらの危険因子を悪化させるだけでなく、独立した脳卒中危険因子としても注目されています²⁾。
では、なぜ寝ている間の無呼吸が、脳の血管を詰まらせる直接の原因になるのでしょうか。その緻密な体内メカニズムを3つのステップで解説します。
ステップ①:睡眠中に血圧が繰り返し上がる
本来、私たちの身体は眠っている間にリラックスした状態となり、心拍数や血圧が下がります。これは、日中に働き続けた心臓や血管を休ませ、身体を回復させるための大切な仕組みです。
しかし、睡眠時無呼吸症候群では、呼吸が止まるたびに身体は「酸素が足りない危険な状態」と判断し、呼吸を再開させようとします。その際、一時的に身体が緊張状態となり、心拍数や血圧が上昇します。
このような変化は一晩のうちに何度も繰り返されるため、本来休息しているはずの心臓や血管に大きな負担がかかります。その状態が長期間続くことで、高血圧や動脈硬化が進み、脳卒中や心臓病のリスクを高めることが知られています。
ステップ②:血管が傷つき、動脈硬化が進む
無呼吸による酸素不足や、睡眠中の血圧上昇が繰り返されると、血管の内側は少しずつ傷ついていきます。本来、血管の内側はなめらかで柔軟性があり、血液がスムーズに流れるよう働いています。しかし、この状態が長く続くと血管は硬くなり、しなやかさを失っていきます。これが動脈硬化です。
さらに、酸素不足が繰り返されることで体内では炎症が起こりやすくなり、血液も固まりやすい状態になることがあります。その結果、脳梗塞や心筋梗塞などの病気を引き起こす危険性が高まります。
ステップ③:血の塊(血栓)ができて脳の血管が詰まる
睡眠時無呼吸症候群によって血管が傷つき、動脈硬化が進むと、血液の流れが悪くなり、血の塊(血栓)ができやすくなります。
また、睡眠時無呼吸症候群は心臓にも負担をかけ、不整脈を起こしやすくなることが知られています。不整脈が生じると、心臓の中で血液がよどみ、血栓が作られやすくなります。こうしてできた血栓が脳の血管に流れ込み、血管を詰まらせることで脳梗塞が起こります。
このように、睡眠時無呼吸症候群は、血管への負担や動脈硬化の進行、血栓形成を通じて脳梗塞の危険性を高めることが報告されています³⁾。
セルフチェック!SASの特徴的な症状
SAS(睡眠時無呼吸症候群)の特徴の一つは、本人が気づきにくいことです。症状の多くは睡眠中に現れるため、「しっかり眠れている」と思っていても、実際には睡眠の質が低下している場合があります。そのため、家族から「いびきが大きい」、「寝ている間に息が止まっている」と指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。
以下のような症状がないか確認してみましょう。
① 夜間・睡眠中のサイン
- ▶大きないびきや無呼吸を指摘されたことがある 大きないびきの後に呼吸が止まり、その後あえぐように呼吸を再開することがあります。
- ▶夜中に何度も目が覚める 十分に寝ているつもりでも、途中で何度も目が覚める場合は注意が必要です。
- ▶寝汗をかく、寝相が悪い 睡眠中に身体へ負担がかかることで、寝汗や頻繁な寝返りがみられることがあります。
- ▶息苦しさや動悸で目が覚める 夜間に息苦しさを感じたり、突然目が覚めたりすることがあります。
② 日中・起床時に現れるサイン
- ▶朝起きたときに頭が重い、頭痛がある 睡眠中の低酸素状態の影響により、起床時に頭痛や頭の重さを感じることがあります。
- ▶十分に寝たはずなのに疲れが取れない 睡眠時間は確保できていても、深い睡眠が妨げられるため、朝から疲労感やだるさを感じることがあります。
- ▶日中に強い眠気がある 会議中や読書中、テレビを見ているときなどに強い眠気を感じることがあります。日常生活や仕事に支障をきたす場合は注意が必要です。
- ▶集中力や記憶力が低下したと感じる 睡眠の質の低下により、集中力が続かない、物忘れが増えたと感じることがあります。
- ▶気分が落ち込みやすい、イライラしやすい 睡眠不足や自律神経の乱れにより、気分の落ち込みやイライラなどの精神的な不調がみられることもあります。
良質な睡眠は活動的な生活の土台
夜間に十分な睡眠がとれないと、日中に「体がだるい」、「やる気が出ない」といった疲労感を感じやすくなります。その結果、散歩や地域活動への参加がおっくうになり、自宅で座って過ごしたり横になったりする時間が増えてしまいます。
特に高齢者では、活動量の低下が身体機能の低下につながりやすく、これを「廃用症候群」と呼びます。筋肉は使わない状態が続くと徐々に衰え、特に太ももやふくらはぎなど歩行に必要な筋力が低下すると、つまずきや転倒のリスクが高まります。
また、睡眠不足は脳の働きにも影響を及ぼします。注意力や判断力が低下することで、周囲の危険に気づきにくくなったり、とっさの対応が遅れたりすることがあります。筋力低下と注意力低下が重なることで、転倒や骨折の危険性はさらに高まります。
高齢者の骨折、特に太ももの付け根の骨折は、活動量の低下や要介護状態につながることも少なくありません。そのため、転倒予防は健康寿命を延ばすうえで非常に重要です。このように、睡眠の問題は単に「眠れない」、「いびきがある」というだけではありません。睡眠不足は活動量の低下や転倒リスクの増加を招き、生活機能や自立した生活そのものに大きな影響を及ぼす可能性があります。
リハビリテーションの現場でも、良質な睡眠は身体機能や認知機能、そして社会参加を支える重要な基盤であると考えられています。健康で活動的な毎日を送るためにも、睡眠環境を整えることが大切です。
具体的な解決策:生活習慣の改善から専門的医療まで
SAS(睡眠時無呼吸症候群)は、放置すると脳梗塞や心疾患、高血圧などのリスクを高めることが知られています²⁾。しかし、適切な診断と治療を受けることで、これらのリスクを軽減し、日中の眠気や疲労感の改善も期待できます。また、睡眠の質が向上することで、活動量の増加や生活機能の維持・向上につながる可能性があります。
ここからは、SAS(睡眠時無呼吸症候群)の改善に向けて、自分で取り組める生活習慣の見直しと、医療機関で受けられる治療について紹介します。
今日からできる!セルフケアと生活習慣の見直し
- ▶横向き寝を意識する 仰向けで寝ると、舌や軟口蓋が喉の奥に落ち込みやすくなり、気道が狭くなることがあります。横向きで寝ることで気道が確保されやすくなり、いびきや無呼吸の軽減につながる場合があります。
- ▶適正体重を維持する 肥満はSASの大きな危険因子の一つです。体重が増えると喉の周囲にも脂肪がつき、空気の通り道が狭くなります。適正体重を維持することで、症状の改善が期待できます。
- ▶就寝前の飲酒を控える アルコールには筋肉を弛緩させる作用があり、喉の筋肉も緩みやすくなります。その結果、気道が狭くなり、いびきや無呼吸が悪化することがあります。飲酒をする場合は、就寝直前を避けることが望ましいでしょう。
- ▶禁煙を心がける 喫煙は喉や気道の粘膜に炎症を引き起こし、むくみの原因となります。気道が狭くなることで睡眠時無呼吸症候群の症状が悪化することがあるため、禁煙は症状改善につながる可能性があります。
- ▶就寝前のスマートフォンやタブレットの使用を控える スマートフォンやタブレットの画面から発せられる光は、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌に影響を与えることがあります。質の良い睡眠のためには、就寝前1時間程度は使用を控えることが勧められます。
医療機関で行われる専門的な治療法
生活習慣の改善はとても重要ですが、それだけでは十分な効果が得られない場合もあります。特に中等度から重症のSAS(睡眠時無呼吸症候群)は、医療機関での検査や治療が必要になることがあります。
現在、SAS(睡眠時無呼吸症候群)に対しては、CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)やマウスピース療法など、有効性が確立された治療法が広く行われています。
中等度から重症の睡眠時無呼吸症候群に対する代表的な治療法です。就寝時に鼻へ専用のマスクを装着し、機械から空気を送り込むことで、睡眠中の気道の閉塞を防ぎます。その結果、無呼吸や低呼吸が改善され、質の良い睡眠につながります。
CPAP治療を開始した方からは、朝の目覚めが良くなった、日中の眠気が軽減した、疲れにくくなったといった声が聞かれます。また、適切に治療を継続することで、高血圧や心血管リスクの改善が期待されています。主に軽症から中等度の睡眠時無呼吸症候群に対して用いられる治療法です。歯科医院で作製した専用のマウスピースを装着して眠ることで、下あごを少し前方に保持し、気道を広げます。その結果、いびきや無呼吸の改善が期待できます。CPAPと比べると装置が小さく、旅行や外出時にも持ち運びやすいことが特徴です。
おわりに
脳梗塞というと、「ある日突然起こる病気」というイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし実際には、高血圧や糖尿病、喫煙、SAS(睡眠時無呼吸症候群)などのさまざまな要因が長い年月をかけて積み重なり、その結果として発症することが少なくありません。
SAS(睡眠時無呼吸症候群)は、自分では気づきにくい病気です。しかし、いびきや日中の眠気、朝の頭痛などは身体からの大切なサインかもしれません。また、睡眠の問題は脳梗塞のリスクだけでなく、日中の活動量の低下や転倒、生活機能の低下にも影響します。良い睡眠は、健康な身体と活動的な生活を支える大切な土台です。
「いびきくらい大丈夫」と思わず、気になる症状がある場合は一度医療機関へ相談してみてください。現在では、自宅で行える簡易検査も普及しており、以前より気軽に検査を受けられるようになっています。
睡眠を見直すことは、自分自身の健康だけでなく、これからの生活を守ることにもつながります。この記事が、ご自身やご家族の睡眠について考えるきっかけになれば幸いです。
- ✓SAS(睡眠時無呼吸症候群)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気で、脳梗塞の独立した危険因子としても注目されている
- ✓血圧上昇・動脈硬化・血栓形成という3つのステップを経て、脳梗塞のリスクを高める
- ✓大きないびき、日中の強い眠気、夜間の中途覚醒などはSASのサインである可能性がある
- ✓横向き寝・適正体重の維持・禁煙などの生活習慣改善に加え、CPAP療法やマウスピース療法といった医療的治療も有効
- ✓良質な睡眠は脳梗塞予防だけでなく、活動量の維持や転倒予防など自立した生活の土台にもつながる
- 日本呼吸器学会.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.東京.南江堂,2020.
- 葛西隆敏(班長),合田あゆみ,佐田誠,他:循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(2023年改訂版),日本循環器学会
- Yaggi HK, Concato J, Kernan WN, et al. Obstructive Sleep Apnea as a Risk Factor for Stroke and Death. New England Journal of Medicine. 2005;353(19):2034-2041.
ご家族のいびき・睡眠の不安や、脳卒中予防・リハビリでお悩みの方へ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)による睡眠の質の低下は、脳梗塞のリスクを高めるだけでなく、日中の活動量を減らし、高齢者の「廃用症候群」や転倒リスクを悪化させる原因になります。良質な睡眠を整え、適切な身体活動を維持することは、健康寿命を延ばすための第一歩です。 リハマッチでは、脳卒中などの脳神経疾患や高齢期のリハビリ経験が豊富な理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が、ご自宅での最適な環境調整や活動性向上のためのアプローチを専門的にサポートします。 「将来の脳梗塞を予防するために生活を見直したい」「脳卒中後、自宅でのリハビリや接し方に悩んでいる」など、専門家へのご相談やリハマッチのサポート体制の詳細は、以下のページからご確認いただけます。
