第6胸髄以上の脊髄損傷で生じる自律神経過反射は、膀胱や直腸の刺激で急激な高血圧を引き起こす命に関わる危険な合併症です。 発症時は即座に上体を起こして衣服を緩め、原因を除去することが重要になります。 毎日の排泄管理による自律神経過反射の予防、起き上がり時の体位変換による起立性低血圧の抑制、日々の除圧と皮膚チェックによる褥瘡(床ずれ)の防止が、安全で快適な在宅生活を維持する鍵となります。
脊髄損傷で自律神経にどのような影響が起こる?
脊髄損傷というと、「手足が動きにくくなる(運動麻痺)」や「感覚が鈍くなる(感覚障害)」といった症状を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際の生活では血圧や体温、発汗、排尿・排便などを調節する「自律神経」の働きにも影響が及ぶことがあります。
自律神経は、自分の意思とは関係なく体のさまざまな機能を調節している神経です。 この働きが乱れると、急激な血圧の変化や排尿・排便のトラブル、体温調節の障害などが起こり、日常生活に支障をきたすだけでなく、場合によっては命に関わることもあります。
特に、第6胸髄より高い位置で脊髄を損傷した方では、「自律神経過反射」と呼ばれる重い合併症が起こることがあるため注意が必要です。
この記事では、自律神経の働きにどのような影響が生じるのか、また在宅生活で気を付けたいポイントや日常生活でできる予防法について分かりやすく解説します。
自律神経障害はなぜ起こるのか
自律神経には、体を活動しやすい状態にする「交感神経」と、体を休ませる「副交感神経」があります。 脊髄損傷では、脳から自律神経へ送られる指令が途中でうまく伝わらなくなるため、血圧や心拍数、発汗などを正常に調節することが難しくなります。
その結果、自律神経のバランスが崩れ、血圧の変動や発汗の異常、排尿・排便のトラブルなど、さまざまな症状が現れます。
特に、第6胸髄より高い位置の脊髄を損傷した場合は、自律神経の調節がより大きく乱れるため、自律神経過反射や起立性低血圧などが起こりやすいことが知られています。
また、損傷した部位が高いほど症状が現れやすく、重くなる傾向があります。 そのため、自分の脊髄損傷の部位(損傷高位)を知っておくことは、合併症を予防し、安全に生活するうえでも大切です。
命に関わることもある「自律神経過反射」
自律神経過反射は、第6胸髄より高い位置の脊髄損傷がある方にみられる代表的な自律神経障害です。 急激な血圧上昇を引き起こし、放置すると脳卒中やけいれんなど命に関わることもあるため、速やかな対応が必要です。
膀胱や直腸など、損傷した部位より下で強い刺激が加わると、交感神経が過剰に興奮して急激に血圧が上昇します。
本来であれば脳が血圧を下げるよう指令を出しますが、その指令は損傷部位で遮断されるため、血圧が異常に高い状態が続いてしまいます。
主な症状
- ▶突然の激しい頭痛
- ▶顔が赤くなる(顔面の紅潮)
- ▶損傷部位より上の大量の発汗
- ▶鳥肌
- ▶鼻づまり
- ▶脈が遅くなる(徐脈)
- ▶強い不安感
このような症状が現れた場合は、自律神経過反射を疑うことが大切です。
原因の多くは膀胱や直腸への刺激で、特に膀胱に尿がたまり過ぎることが最も多い原因とされています。 導尿カテーテルの折れ曲がりや詰まり、便秘や便の詰まりのほか、外傷や褥瘡、陥入爪、骨折、衣服やベルトの締め付けなども原因になることがあります。
疑われたときの対応
自律神経過反射が疑われた場合は、まず上体を起こして座る姿勢をとりましょう。 座位になることで、重力の作用により血圧が下がりやすくなります。 その後、衣服やベルト、腹帯などの締め付けを緩め、尿や便の状態、傷の有無などを確認し、原因をできるだけ早く取り除きます。 それでも症状が改善しない場合や高血圧が続く場合は、速やかに医療機関へ連絡してください。
排泄管理で自律神経過反射を予防しよう
脊髄損傷では、排尿や排便を自分の意思どおりにコントロールしにくくなることがあります。 そのため、毎日の排泄管理は、自律神経過反射を予防し、安全に生活するためにとても重要です。
特に排尿の管理は、尿路感染を防ぐだけではありません。 腎臓の働きを守り、自律神経過反射を予防し、安心して外出や社会参加を続けるためにも欠かせません。
多くの場合、医師や医療スタッフの指導のもとで間欠自己導尿を行い、膀胱に尿をため過ぎないよう管理します。 また、尿の量や回数、尿の濁りや臭い、尿漏れの有無などを日頃から確認することで、感染やトラブルの早期発見につながります。
また、便秘も自律神経過反射の大きな原因になります。 決まった時間に排便する習慣をつくり、水分や食物繊維を十分に摂ることが基本です。 必要に応じて坐薬や下剤などを使用しながら、無理のない排便習慣を続けることが大切です。
日々の排尿や排便の様子を記録しておくと、小さな変化にも気付きやすくなります。 これらの記録は、ご本人だけでなく、ご家族や訪問看護師、医師などと情報を共有する際にも役立ちます。
起き上がったときの立ちくらみに注意
脊髄損傷では、起き上がったり立ち上がったりしたときに血圧を保つ働きが弱くなることがあります。 これを「起立性低血圧」といいます。
起立性低血圧では、立ち上がった直後に血圧が下がり、めまいや耳鳴り、目の前が暗くなる、失神などの症状が現れることがあります。 脊髄損傷のある方では比較的よくみられる症状で、転倒や転落の原因になることもあるため注意が必要です。
- ▶急に起き上がったり立ち上がったりせず、まずベッド上で上体を起こし、座る姿勢で少し休んでからゆっくり立ち上がる
- ▶腹帯や弾性ストッキングを使用し、足やお腹に血液がたまるのを防ぐ
- ▶リハビリテーションで立つ練習を継続し、血圧を調節する力の改善を図る
褥瘡(床ずれ)を防ぐために大切なこと
褥瘡(床ずれ)は、同じ姿勢を長時間続けることで皮膚やその下の組織が傷ついてしまう状態です。 脊髄損傷では痛みや圧迫を感じにくくなるため、気付かないうちに褥瘡が悪化してしまうことがあります。
また、褥瘡は皮膚だけの問題ではなく、感染や入院の原因となり、日常生活やリハビリテーションに大きな影響を及ぼすこともあります。
予防で最も大切なのは、同じ場所に圧力がかかり続けないようにすることです。 ベッドでは定期的に寝返りや体位を変え、車椅子では前かがみになったり体を左右に傾けたりして、お尻にかかる圧力を逃がしましょう。
自分で体勢を変えることが難しい場合は、姿勢を調整できる車椅子や体圧を分散するクッションなどを活用することも大切です。
また、毎日皮膚の状態を確認する習慣も欠かせません。 お尻や腰、股関節の外側、かかとなど、骨が出っ張っている部分は特に褥瘡ができやすい場所です。 赤みがなかなか消えない場合は、褥瘡の初期症状である可能性があるため、早めに医療機関へ相談しましょう。
- ✓脊髄損傷では、麻痺だけでなく自律神経の働きが乱れることで、自律神経過反射や起立性低血圧、排泄障害、褥瘡などさまざまな合併症が起こることがある
- ✓合併症を防ぐためには、排泄や皮膚の状態、血圧、体調の変化を日々継続的に観察し、小さな異変に早く気付くことが大切
- ✓一人で管理することが難しい場合は、ご家族や訪問看護師、ケアマネジャー、リハビリテーション専門職などと情報を共有しながら取り組むことが安心につながる
- ✓毎日の小さな積み重ねが、安全で安心な在宅生活につながる
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