日常生活の些細な動作で起こる背中や腰の痛みは、単なる腰痛ではなく脊椎圧迫骨折の可能性があります。 骨粗鬆症を背景としたこの骨折は、一度発症するとドミノ倒しのように次々と連鎖するリスクがあるため注意が必要です。 よって、治療では完治を目指すのではなく進行を抑えて新たな骨折を防ぐことが重要となります。 また、再発予防には定期的な骨密度検査に加え、乳製品や小魚などの食事、ウォーキングやスクワットといった適度な運動を継続して転倒しにくい身体をつくる必要があります。
はじめに
「最近、なんだか背中や腰の痛みがひかない」、「椅子に座ったときから腰が痛くなった」、「布団を持ち上げてから腰に違和感がある」など、日常生活の何気ない動作をきっかけに腰痛を経験したことはありませんか。
腰痛にはさまざまな原因がありますが、その中には気づかないうちに「脊椎圧迫骨折」を起こしている場合があります。
特に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)がある方では、骨がもろくなっているため、わずかな衝撃や日常生活の動作でも脊椎圧迫骨折を起こすことがあります。また、自覚症状がないまま骨粗鬆症が進行し、脊椎圧迫骨折ではじめて骨粗鬆症が見つかる方も少なくありません。
さらに、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折を一度起こすと、「ドミノ骨折(骨折の連鎖)」と呼ばれるように、 その後も次々と脊椎圧迫骨折や他の部位の骨折を起こす可能性があります。
今回は、骨粗鬆症と脊椎圧迫骨折の関係や、ドミノ骨折を防ぐためのポイントについて解説します。
脊椎圧迫骨折とは
脊椎圧迫骨折は、背骨(脊椎)に上下方向の力が加わることで、椎骨(ついこつ)が押しつぶされるように変形して起こる骨折です。 正常な骨であれば、高所からの転落など大きな外力が加わらない限り生じることはありません。
しかし、加齢とともに骨がもろくなる骨粗鬆症がある場合は、尻もちをつく、重い物を持ち上げる、くしゃみをするといった日常生活の些細な動作でも脊椎圧迫骨折を起こすことがあります。
脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症を背景として発症することが多く、加齢とともに発症頻度は増加します。 特に女性では、男性の約2倍の発症率が報告されています。
また、脊椎圧迫骨折には、骨粗鬆症以外にも、がんの骨転移などによって骨が弱くなることで生じる「病的骨折」があります。
脊椎圧迫骨折はなぜ見逃されやすいのか
脊椎圧迫骨折が「いつの間にか骨折」と呼ばれるのは、動けなくなるほどの激しい痛みではなく、比較的軽い痛み、あるいは無症状のまま経過することがあるためです。
また、痛みのきっかけも日常生活の些細な動作であることが多く、「これくらいで骨折になるはずがない」、「痛みがそれほど強くないから骨折ではないだろう」と見過ごされてしまうことがあります。
- ▶尻もちをついた
- ▶お米や灯油など重いものを持ち上げたとき
- ▶布団を持ち上げたり、洗濯物を干したりしたとき
- ▶くしゃみをしたあとに痛くなった
- ▶寝返りのときに腰や背中に痛みを感じる
- ▶起き上がるときに腰が痛い
- ▶立ち上がる瞬間に腰へ痛みが響く
- ▶座っていると腰が痛く、立っている方が楽
このように、動き始めに痛みが出ることが多く、歩行や日常生活は続けられる場合もあるため、単なる腰痛と勘違いされることがあります。 このような症状がある場合は、脊椎圧迫骨折の可能性もあるため、早めに整形外科を受診しましょう。
脊椎圧迫骨折のリスク
脊椎圧迫骨折のリスクを高める主な要因には、以下のようなものがあります。
① 年齢
80歳以上の女性では、約40%が少なくとも一度は脊椎圧迫骨折を経験するとされています。 加齢に伴う骨密度や筋力の低下により、発症リスクが高くなります。
② 性別
女性は閉経(50歳前後)に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の減少により、骨粗鬆症を発症しやすくなります。 そのため、脊椎圧迫骨折の発症率は男性より高いことが報告されています。
③ 薬剤の影響
ステロイド薬の長期使用や、一部の薬剤は骨密度の低下につながることがあります。
④ 生活習慣
喫煙や過度の飲酒、運動不足は骨密度の低下につながることがあります。 また、活動量の低下は筋力やバランス能力の低下を招き、転倒のリスクを高めます。
⑤ バランス能力の低下
脊椎圧迫骨折を経験した方では、姿勢やバランス能力、歩行能力が低下しやすくなります。 その結果、転倒しやすくなり、新たな骨折を引き起こす悪循環につながることがあります。
⑥ がんによる骨転移
骨粗鬆症以外にも、がんが骨へ転移すると骨が弱くなり、脊椎圧迫骨折(病的骨折)を起こすことがあります。
骨粗鬆症はなぜ起こるのか
骨粗鬆症は、骨の強度が低下し、骨がもろくなってしまう病気です。
骨密度は20歳頃にピークを迎え、その後は一定の状態を維持しますが、50歳前後から徐々に低下していきます。 骨粗鬆症の患者さんの約8割は女性とされており、閉経に伴うホルモンバランスの変化が大きく関係しています。 女性ホルモンであるエストロゲンが減少すると骨密度が低下しやすくなるため、閉経後は骨粗鬆症を発症するリスクが高くなります。
また、骨粗鬆症は加齢だけでなく、病気や薬の影響によって起こることもあります。 原因となる病気には、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患や、関節リウマチ、糖尿病、慢性腎臓病などがあります。 薬では、ステロイド薬の長期服用が骨粗鬆症の原因となることが知られています。
ドミノ骨折とは
脊椎圧迫骨折を一度起こすと、そのほかの背骨にも次々と骨折が生じたり、股関節や手首など別の部位の骨折を起こしやすくなったりします。 ドミノ倒しのように骨折が連鎖して起こることから、「ドミノ骨折(骨折の連鎖)」と呼ばれています。
過去に脊椎圧迫骨折を起こしたことがある方は、新たな脊椎圧迫骨折を起こすリスクが約5倍、新たな股関節骨折を起こすリスクが約2.5倍になることが報告されています。
また、「骨折の家族歴」も重要なリスク因子です。 両親のいずれかに股関節骨折の既往がある場合は、股関節骨折のリスクが約2.3倍高くなると報告されています。 これは骨密度に遺伝的な影響があることも一因と考えられています。
さらに、骨折は介護が必要となる主な原因の一つとされています。 骨折を繰り返すことで身体機能が低下し、要介護状態につながる可能性が高くなるため、最初の骨折を防ぐことはもちろん、再発予防にも取り組むことが重要です。
再発を予防するためには
脊椎圧迫骨折を一度起こしたことがある方は、再発するリスクが高くなるため、再発予防に取り組むことが重要です。
① 骨粗鬆症の検査・治療
骨密度検査を受け、骨粗鬆症の有無を確認しましょう。 骨粗鬆症の治療は、完治を目指すというよりも、進行を抑えて新たな骨折を防ぐことが目的です。 医師の指示に従って治療を継続することで、骨密度の維持・改善や新たな骨折の予防が期待できます。 定期的に骨密度検査を受け、医師と相談しながら治療を継続することが大切です。
② バランスの良い食事を心がける
骨の健康を維持するためには、栄養をバランスよく摂ることも重要です。 特に、骨の主成分であるカルシウムに加え、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨の健康維持に関わるビタミンKを積極的に摂取しましょう。
- ▶カルシウム:牛乳やチーズなどの乳製品、しらすなどの小魚
- ▶ビタミンD:鮭、サンマ、きのこ類、卵
- ▶ビタミンK:納豆、緑黄色野菜
③ 適度な運動を行い、転倒しにくい身体づくりを行う
脊椎圧迫骨折の予防や再発予防には、運動習慣も大切です。 適度に骨へ負荷がかかる運動は、骨の健康維持に役立つとされています。 運動の中ではウォーキングが取り組みやすく、運動習慣がない方でも始めやすい方法です。
また、転倒を予防することも重要です。 スクワットなどの下肢筋力トレーニングや、片足立ちなどのバランス練習、円背を予防するための万歳運動などをウォーキングと組み合わせて継続することで、脊椎圧迫骨折の予防や再発予防につながります。
- ✓脊椎圧迫骨折は、骨粗鬆症を背景として加齢とともに発症リスクが高くなる骨折です。
- ✓一度脊椎圧迫骨折を起こすと、その後も脊椎や股関節などに新たな骨折を起こすリスクが高くなることが知られています。
- ✓骨粗鬆症の早期発見・早期治療に加え、定期的な骨密度検査、適度な運動による筋力維持や転倒予防、バランスの良い食事を継続することが大切です。
- ✓日頃の生活習慣を見直し、骨折を予防することが、健康な生活を長く続けることにつながります。
- 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対する治療―保存的治療からBKPまで― jstage.jst.go.jp
- 日本骨粗鬆症学会|骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版 josteo.com
- 公益社団法人日本整形外科学会|整形外科シリーズ34 joa.or.jp
- 令和4年(2022)「国民生活基礎調査の概要」(厚生労働省) mhlw.go.jp
- 健康づくりのための身体活動基準2013 厚生労働省 mhlw.go.jp
ご家族やご自身の長引く腰痛や、圧迫骨折後のリハビリでお悩みの方へ
骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折は、一度発症するとドミノ倒しのように連鎖するリスクがあります。再発を防ぎ、安心して日常生活を送るためには、日頃からの適切な運動習慣や転倒しにくい身体づくりが欠かせません。しかし、「どのような運動が安全なのか分からない」と不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
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