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カテゴリー: 健康・予防の知識
タグ: 健康, 予防, その他(6件)

子どもの「行きたくない」の背景にある感覚のつらさ ―感覚プロファイルから考える4つのパターン―

こんな人に読んでほしい!
  • 子どもが音や光、におい、衣服の感触などを強く嫌がることがある方
  • 子どもの「行きたくない」、「やりたくない」の背景を知りたい保護者
  • 子どもの感覚特性に合わせた環境調整や配慮を考えたい教育
  • 保育関係者・子どもの感覚の特徴について、専門機関へ相談すべきか迷っている方
この記事の要約

子どもの「行きたくない」という行動の背景には、音・光・触感などの感覚処理(五感・固有覚・前庭覚)のつらさが隠れている場合があります。
ウィニー・ダンの感覚プロファイル(感覚過敏・回避・探求・低登録)に基づき、ノイズキャンセリングイヤーマフの活用や服のタグ除去、カームダウン・エリアの設置といった環境調整を行うことが有効です。
特性を治すのではなく、個性に合わせた適切な環境調整と専門機関の活用が安心できる暮らしを支えます。

はじめに

私たちは誰もが、五感や身体の内部から送られてくる膨大な情報(刺激)を受け取り、脳で処理しながら暮らしています。しかし、この刺激の受け取り方や処理の仕方に一人ひとり違いがあることは、まだ社会的に十分に理解されているとは言えません。

特定の音が刺さるように聞こえる、教室の蛍光灯がまぶしくて頭痛がする、あるいは逆に、強い刺激がないと物事に集中しにくい――。

これらは単なる「我慢が足りない」状態ではなく、脳における「感覚処理(Sensory Processing)」の特性が関係していることがあります。

本コラムでは、感覚プロファイルの理論をベースに、感覚の過敏さや鈍さが日常生活や社会生活に及ぼす影響をひも解きます。
そして、家庭や学校などで取り入れられる環境調整の方法を紹介します。

同じ教室でも感じる刺激の強さは人それぞれ。チャイムの音、蛍光灯の光、周りの話し声、視覚的な情報、トイレのにおい、給食のにおい、衣服の感触、人との距離や接触など、教室内のさまざまな感覚刺激に苦しむ子どものイラスト
同じ教室でも、感じる刺激の強さは人それぞれ

五感に関する子どもの行動の例

学校や幼稚園・保育園といった集団生活の場は、感覚処理に特徴のある子どもたちにとって、大人が想像する以上に過酷な「刺激の場」になる場合があります。
以下に、五感(聴覚・視覚・嗅覚・味覚・触覚)に関する具体的な例を紹介します。

①「聴覚」に関する行動の例

聴覚が過敏な傾向にあると、休憩時間のざわざわした声やチャイム、運動会の歓声などを苦手とし、疲労感やストレスを感じることがあります。
逆に、聴覚が鈍い傾向があると、名前を呼ばれても気づかない、自分の声の大きさを調整しづらい、ふいに大声になってしまう、といったことがあります。

②「視覚」に関する行動の例

視覚が過敏な傾向にあると、教室内の壁に貼られた掲示物や時間割などが、脳内でうまく整理できない視覚的なノイズとして常に目に入り、疲れてしまうことがあります。

また、蛍光灯などの特定の光をまぶしがることもあります。
一方で、視覚的な感覚が鈍いと、動くものを過剰に追いかけたり、点滅する光をじっと見つめ続けたりすることがあります。

③「嗅覚」に関する行動の例

嗅覚が過敏な傾向にあると、給食のときの食べ物や人のにおいが混ざり合った空間、トイレの芳香剤や濡れた床のにおいなどに強く反応し、その場にいられなくなることがあります。

一方で、この感覚が鈍いと、周囲の人が「臭い」と感じるような強いにおいにも、ほとんど気づかないことがあります。

④「味覚」に関する行動の例

味覚が過敏な傾向にあると、特定の味や食感、温度に強く反応し、偏食として現れることがあります。
逆に、味の刺激に鈍い傾向にあると、味の濃いものや刺激の強いものを好むことがあります。

⑤「触覚」に関する行動の例

触覚が過敏な傾向にあると、服のチクチクした素材や首元のタグに強く反応したり、粘土や糊(のり)で手が汚れることを嫌がったりします。

また、不意に人と接触することに、不快感を抱く場合もあります。
一方で、触覚や身体の変化に鈍いと、けがをしても痛みに気づきにくい、衣服の乱れや顔・手の汚れに気づかないといった行動として現れることもあります。

このように、五感の感じ方は子どもによって異なります。「過敏さ」や「気づきにくさ」といった感覚処理の特性は、子どもの好きな動作や行動、あるいは苦手な動作や行動として現れます。
こうした感覚への反応は、本人の努力だけではコントロールが難しいことがあります。

固有覚・前庭覚に関する子どもの行動の例

感覚は、前述した「五感」だけではありません。子どもの感覚処理を考える上では、固有覚(自分の体が今どこにあり、筋や関節がどのように動いているかを脳で感じ取る感覚)と、前庭覚(体の傾きやスピード、回転などを感じ取る感覚)も、とても大切です。

⑥「固有覚」に関する行動の例

固有覚が過敏だと、わずかな刺激にも体が過剰に反応して常に力が入りやすく、体がガチガチにこわばったり疲れやすかったりします。

逆にこの感覚が鈍いと、姿勢が不安定(座ってる姿勢が崩れる)になり、物を強く握りすぎる、またはすぐ落とすなど、力加減の調整が困難になります。

⑦「前庭覚」に関する行動の例

前庭覚が過敏な傾向にあると、体の傾きや揺れに強い恐怖を感じるため、ブランコや滑り台などの遊具、体育のマット運動などを嫌がることがあります。

逆に、前庭覚が鈍い、または刺激を求める傾向にあると、強い刺激を求めて高い所から飛び降りたり、常に体を揺らしたり、くるくると回り続けたりする行動として現れることがあります。

たとえば、固有覚から得られる情報を捉えにくい子どもは、友達の肩を優しくたたいたつもりでも、力の調整がうまくできず、突き飛ばすような強さになってしまい、「乱暴な子」と誤解される場合があります。
また、前庭覚の刺激を求める子どもが急に回転し始めることで、「わざと周囲を困らせている」と誤解されることもあります。

さて、これまで「過敏さ」と「鈍さ」という、感覚の受け取り方の違いに注目して紹介してきました。
しかし、人の感覚特性は、単に刺激に強いか弱いかだけで決まるものではありません。
そこに、入ってきた感覚に対して「受動的(受け身)」に対応するか、あるいは「能動的(積極的)」に調整しようとするかという行動の違いを掛け合わせることで、より深くその子の行動を理解できるようになります。

感覚処理の特性とは何か:4つのパターンから知る「見えない困難」

心理学者ウィニー・ダン(Winnie Dunn)が提唱した「感覚プロファイル」のモデルでは、人間の感覚処理の特性を、刺激を察知する感度(神経学的閾値)の「高さ・低さ」と、それに対する行動の「受動的・能動的」という2つの軸から、大きく4つのパターンで捉えます。

ただし、これは人を4つの型に分けるものではありません。
人の感覚は複雑に絡み合っており、1人の中でも「音(聴覚)には過敏だが、触覚には気づきにくい」といったように、複数の特徴が混在することがあります。

①感覚過敏(Sensory Sensitivity)

特性:
刺激に対して非常にアンテナが高く、些細な変化にも気づきますが、行動は受動的です。

日常への影響:
日常の音、部屋の明るさ、匂いなど様々な感覚情報を強い刺激として受け取り、過敏な反応を見せます。周囲からは「大げさ」だと誤解されることもあります。

②感覚回避(Sensation Avoiding)

特性:
刺激に対する感度が高く、不快な刺激を避けるために、自ら刺激を減らそうとする行動をとります。

日常への影響:
集団行動や人混みを避ける、特定の衣服のタグや素材を嫌って同じ服ばかり着る、決まったルートや手順に強くこだわる(予測できない刺激を避けるため)といった行動として現れます。周囲からは「協調性がない」、「こだわりが強すぎる」と誤解されることがあります。

③感覚探求(Sensation Seeking)

特性:
刺激に気づきにくい傾向があり、より強い刺激や特定の刺激を自ら積極的に求めます。

日常への影響:
じっとしていることが苦手で常に身体を動かす、テレビの音量を大きくする、強い味付けを好む、触ってはいけないものをベタベタと触るなど。「落ち着きがない子」と見られる場合があります。

④低登録(Low Registration)

特性:
刺激に気づきにくい傾向があり、入ってきた刺激に対して受動的です。

日常への影響:
名前を呼ばれても気づかない、声をかけられても反応が遅い、暑さ・寒さや自身の体調の変化を自覚しにくいといった特徴があります。そのため、気づいたときには限界を迎え、体調を崩してしまうこともあります。

感覚プロファイルの4つのパターン(感覚過敏・感覚回避・感覚探求・低登録)を、刺激の感じやすさと行動の受動的・能動的の2軸で示した図

感覚プロファイルの4つのパターン

それまで「問題行動」や「わがまま」と捉えられがちだった行動について、ダンの理論は、感覚の捉え方には誰にでも違いがあり、それは連続的なグラデーションとして存在するという視点をもたらしました。

これらの感覚特性は、単に「感覚が敏感か、鈍いか」という問題にとどまりません。子どもは、「音がうるさくてつらい」「においが強すぎて部屋に入りたくない」といった、自分の中で起きている感覚の状態をうまく言葉にできないことがあるからです。

そのため、周囲から見えるのは、「行きたくない」「やりたくない」という行動だけになりがちです。子どもが「なぜ行きたくないのか」を十分に説明できない場合には、大人が行動の前後や周囲の環境を観察し、本人の気持ちを丁寧に確認していく必要があります。

「行きたくない」の理由を決めつけないために
  • 「行きたくない」の訴えには、感覚的な負担だけでなく、人間関係や不安、学習上の困難、体調など、さまざまな要因が関係します
  • 感覚特性だけで理由を決めつけるのではなく、子どもの様子を多面的に捉えることが大切です

感覚によるつらさが理解されない状態や、本人と環境のミスマッチが続くと、登園・登校への不安が強まったり、自信を失ったりすることがあります。

明日からできる環境調整:安心できる居場所のつくり方

感覚特性に対するアプローチの基本は、本人の気合や根性で行動を変えようとすることではなく、「環境を本人の特性に合わせる(環境調整)」ことです。ここでは、日常生活や学習環境で実践できる具体的なアイデアを紹介します。

視覚・聴覚への配慮

具体的な配慮の例
  • ノイズキャンセリング機能付きイヤホン・イヤーマフ・耳栓の活用:
    音を完全に遮断しなくても、突発的な高音や周囲の雑音を軽減することで、感覚的な負担や疲れを減らせることがあります。ただし、呼びかけや避難放送など、必要な音が聞こえるよう安全面に配慮する必要があります。学校などで使用する場合は、本人や保護者、教員で使用する場面や方法を相談することが大切です。
  • 調光レンズ・サングラス・帽子:
    蛍光灯のまぶしさや日光が苦手な場合には、薄い色のついた眼鏡やサングラスを着用したり、つばのある帽子をかぶったりして、目に入る光を減らす方法があります。学校で使用する場合は、本人が困りやすい場面を確認しながら、使用方法を相談します。
  • 視覚的ノイズの削減:
    子どもの勉強机の周囲には、余計な書類やポスターをできるだけ置かないようにします。パーテーション(間仕切り)を立てて、視界に他人の動きや多くの物が入らないようにすることも一つの方法です。

触覚への配慮

具体的な配慮の例
  • 衣類の工夫:
    衣服のタグや縫い目が気になる場合は、タグを根元から切り落としたり、縫い目が肌に当たりにくい下着やシームレスな衣類を選んだりします。衣服を裏返して着る方が過ごしやすい子どももいます。
  • 身体に適度な圧が加わる工夫:
    クッションや抱き枕を抱える、毛布に包まれるなど、身体に適度な圧が加わることで落ち着きやすい子どももいます。感覚探求や低登録の傾向がある人、あるいは不安が強い人は、圧迫刺激を受けると副交感神経が優位になりリラックスできます。少し重みのある布団やひざ掛けが効果的です。

教育現場における配慮(学習環境のカスタマイズ)

具体的な配慮の例
  • カームダウン・エリア(落ち着くためのスペース)の設置:
    落ち着かなくなった場合や、感覚的な疲れが強くなった場合に、保健室や空き教室などで休めるようにします。教室の一角に、テントやカーテンなどで区切った、刺激の少ないスペースを設ける方法もあります。パニックになりそうなときや疲れたときに、子どもが自分から移動して休める場所があることは、安心感につながります。

最後に紹介した、カームダウン・エリアは、強い光や音、人混みなどによって感覚的な負担が高まった際に、一時的に刺激の少ない環境へ移動し、心身を落ち着かせるための静かな休憩スペースです。
近年では、ユニバーサルデザインの一環として、空港や駅、スポーツ施設などの公共施設にも、「カームダウン・クールダウンスペース」が設けられる例が見られるようになりました。
誰もが買い物や移動、余暇活動を楽しめるように、静かに休める場所を用意する取り組みが少しずつ広がっています。

行動を変えさせる前に環境を整える、という考え方の変化と、音・光・視覚・カームダウンエリアへの具体的な配慮例を示した図

行動を変えさせる前に、環境を整える

特性を「治す」のではなく、本人と環境を「調整」する

感覚処理の特性自体を「課題」と考える必要はありません。感覚処理の特性とは、その人が持つ「世界の捉え方のユニークさ」そのものです。
過敏さは、危険や周囲の変化にいち早く気づく力につながることがあります。また、刺激を積極的に求める傾向は、旺盛な好奇心や行動力の表れと捉えることもできます。

大切なのは、その特性を否定して無理に変えようとすることではありません。本人が自分の特性を知り、自分に合った対処方法を身につけること、そして、特性があっても傷つかず安心して過ごせるように、周囲の環境を整えることです。
環境調整は、感覚によるつらさから本人を守る「盾」を用意し、過ごしやすい場をつくることともいえます。

もし、あなたのお子さんや周囲の子どもが、日々の生活に困難さを感じているなら、専門の医療機関や相談窓口の扉を叩いてみてください。
自身の感覚処理特性を正しく知ることは、生きづらさを解消し、子ども本来の輝きを取り戻すための、第一歩となるはずです。

本記事のまとめ
  • 子どもの「行きたくない」の背景には、五感・固有覚・前庭覚といった感覚処理のつらさが隠れていることがある
  • ウィニー・ダンの感覚プロファイルは、感覚過敏・感覚回避・感覚探求・低登録の4つのパターンで感覚特性を捉える
  • ノイズキャンセリングイヤーマフ、衣類の工夫、カームダウン・エリアの設置など、環境調整が有効
  • 特性を「治す」のではなく、本人に合わせて環境を調整し、必要に応じて専門機関を活用することが大切

参考文献
  1. Dunn W. The impact of sensory processing abilities on daily life roles. Am J Occup Ther. 1997 Jan;51(1):23-35. doi: 10.5014/ajot.51.1.23.
  2. Dunn W. The sensations of everyday life: empirical, theoretical, and pragmatic considerations. Am J Occup Ther. 2001 Nov-Dec;55(6):608-620. doi: 10.5014/ajot.55.6.608.
  3. 辻井正次(監修), 萩原拓, 岩永竜一郎, 伊藤大幸, 谷伊織:日本版 青年・成人感覚プロファイル, 日本文化科学社, 2015.
  4. 梅田亜沙子, 岩永竜一郎, 宮島祐, 萩原拓, 辻井正次:日本版青年・成人感覚プロファイルの標準化-信頼性および標準値の検討, 脳と発達, 46(4), 251-256, 2014.
  5. 富森亮介, 笹田哲, 小西紀一:自閉性障害児のための感覚調整の特徴を生かした作業療法, 神奈川県立保健福祉大学誌, 2(1), 103-112, 2005.
  6. 田中彩那, 永山智之:感覚処理感受性の高い児童にとって困難な学習場面とは, 発達心理臨床研究, 31, 141-151, 2025.
  7. 萩原拓:発達障害における感覚処理特性の把握と支援, 小児の精神と神経, 60(1), 20-28, 2020.
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この記事の著者

角田 孝行

角田 孝行

作業療法士 / M.Sc. in Health Science

プロフィール詳細

1977年広島生まれ。20代前半を介護士として療養型病院に勤めていたが、一念発起し、30代で、作業療法士(OT)の免許を取得。その後、回復期リハビリテーション、認知症デイケアなどを経て、現在は子ども領域の作業療法を中心に取り組みながら、福岡の令和健康科学大学の専任教員を務め、後身の育成にあたっている。趣味は、作業療法と映画鑑賞。座右の銘は「志在千里」。

【研究者情報(Researchmap)】
https://researchmap.jp/kakuda07

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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