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顔の歪みを生じる脳梗塞とベル麻痺 ―症状の違いとリハビリテーション―

こんな人に読んでほしい!
  • 突然、顔の片側が歪んだり、口元に違和感が現れたりした方
  • ご家族や身近な方の笑顔や顔つきの変化が気になっている方
  • 脳梗塞による顔の麻痺とベル麻痺の違いを知りたい方
  • 顔の歪みが現れたときに、何を確認し、どう対応すればよいか知りたい方
この記事の要約

顔の歪みは脳梗塞など命に関わる病気のサインであることがあり、早期受診が重要です。
原因は脳にある中枢性麻痺と、顔面神経にある末梢性麻痺に大別されます。中枢性では額の動きが保たれやすく口元の麻痺が目立ち、末梢性では額から口元まで顔の片側全体が動きにくくなります。
ただし、見た目だけで原因を判断することはできません。手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、視覚異常などを伴う場合は脳卒中を疑い、速やかに救急受診が必要です。
脳梗塞もベル麻痺も早期治療と適切なリハビリテーションが回復や後遺症の軽減につながるため、自己判断せず早めに医療機関を受診することが大切です。

なぜ「顔の歪み」は起きるのか?―中枢性と末梢性の違い

顔の表情をつくる筋肉は、脳から送られる運動の指令によって動いています。この指令は、脳(中枢神経)から顔面神経(末梢神経)を通り、顔の筋肉へ伝えられます。
そのため、顔の歪みは、脳に原因がある場合(中枢性)と、顔面神経に原因がある場合(末梢性)に分けられ、症状の現れ方にも違いがあります1)。

中枢性麻痺(脳梗塞などの脳血管疾患)

脳梗塞や脳出血などによって脳に障害が生じ、顔の筋肉に運動の指令が伝わりにくくなった状態を「中枢性麻痺」といいます。

顔の筋肉には、脳からの指令の届き方に特徴があります。額の筋肉には左右両方の大脳から運動の指令が届いているため、脳の片側に障害があっても、額の動きは保たれることが少なくありません。

一方、口元を中心とした顔の下半分は、主に反対側の大脳から指令を受けています。そのため、脳が障害されると、反対側の口角が下がる、笑顔が左右非対称になるなどの症状が現れます。

末梢性麻痺(ベル麻痺など)

脳から出た後の顔面神経そのものが、炎症などによって障害された状態を「末梢性麻痺」といいます。ウイルス感染などが関係する場合もあると考えられています。

この場合、脳から送られた運動の指令が顔面神経の途中で伝わりにくくなるため、額から口元まで、顔の片側全体に麻痺がみられます。

そのため、額にしわを寄せることが難しい、目が十分に閉じられない、口角が下がるなど、顔の片側全体の動きが低下することが特徴です。ベル麻痺は、代表的な末梢性顔面神経麻痺として知られています。

このように、中枢性麻痺と末梢性麻痺では症状の現れ方に違いがありますが、実際には見た目だけで判断することはできません。突然顔の歪みが現れた場合は、自己判断せず、早めに医療機関を受診することが大切です。

中枢性麻痺と末梢性麻痺による顔の歪みの症状の違いを、額・目・口元の状態で比較したイラスト図
中枢性麻痺と末梢性麻痺の症状の違い

顔の歪みを見つけたときの確認ポイント

顔の歪みに気付いた際には、原因を推測する参考として次の点を確認します。ただし、これらはあくまで目安であり、この確認だけで原因を判断できるものではありません2,3)。

① 額のしわ寄せテスト

「眉毛をぐっと上げて、おでこにしわを作ってください」と伝えます。
額にしわが寄る場合は中枢性麻痺(脳梗塞など)の可能性があります。額の筋肉は左右両方の大脳から運動指令を受けており、脳の片側に障害が生じても、もう一方の大脳からの指令によって額の動きが保たれることが多いためです。
額にしわが寄らない場合は末梢性麻痺(ベル麻痺など)の可能性があります。顔面神経そのものが障害されるため、額を含めた顔の片側全体の筋肉が動きにくくなります。
※ただし、額の動きだけで中枢性か末梢性かを判断することはできません。

② 眼の閉じ方テスト

「目を強く閉じてください」と伝えます。
中枢性麻痺の場合、目を閉じる筋肉への影響が比較的少ないため、目を閉じる動きは保たれていることが多くみられます。
末梢性麻痺の場合、麻痺した側の目を十分に閉じることができず、白目が見えることがあります。このとき、目を閉じようとすると眼球が上方へ向く現象を「ベル現象」と呼びます。

③ 随伴症状の確認

顔の歪みだけでなく、次のような症状がないか確認することも重要です。これらは脳梗塞などの脳血管障害を疑う重要なサインです。

脳卒中を疑う随伴症状
  • 腕や足の麻痺・しびれ:片側の手足に力が入らない、感覚が鈍い
  • 言葉の異常:ろれつが回らない、言葉が出にくい、相手の話を理解しにくい
  • 見え方の異常:片方の視野が欠ける、物が二重に見える
  • 激しい頭痛やめまい:突然経験したことのない頭痛や、立っていられないほどの強いめまい

顔の歪みに加えて、これらの症状がみられる場合は、脳梗塞などの脳血管障害が疑われるため、速やかな対応が必要です。

顔の歪みを見つけたときの3つの確認ポイント(額のしわ寄せテスト・眼の閉じ方テスト・随伴症状の確認)を示すイラスト図

顔の歪みを見つけたときの確認ポイント

早期受診の重要性

顔の歪みが突然現れた場合、「少し様子を見よう」と考えてしまうかもしれません。しかし、脳梗塞では、発症から治療を開始するまでの時間が、その後の回復に大きく影響します。

脳梗塞は、脳の血管が詰まることで血流が低下し、脳細胞が障害される病気です。障害を受けた部分の周囲には、血流が低下しているものの、早期に血流を再開させることで回復する可能性が残された領域があります。この領域をできるだけ多く救うためには、早期に治療を開始することが重要です。

早期治療で受けられる可能性がある治療
  • 脳梗塞:血栓を薬で溶かす静注血栓溶解療法(rt-PA療法)、カテーテルで血栓を取り除く機械的血栓回収療法4)
  • ベル麻痺:発症後早期に開始するステロイド治療5)

発症後できるだけ早く医療機関を受診し、治療の対象になると判断された場合には、これらの治療によって、後遺症を軽減し、日常生活の回復につながることが期待されます。

一方、ベル麻痺などの末梢性顔面神経麻痺でも、発症後早期にステロイド治療を開始することが推奨されています。そのため、顔の歪みを「疲れによるもの」「しばらく様子を見ても大丈夫」と自己判断せず、突然症状が現れた場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

回復に向けた専門的なリハビリテーション

中枢性麻痺のリハビリテーション

脳梗塞などによる中枢性麻痺では、「神経可塑性」と呼ばれる脳の働きを生かすことが重要です。神経可塑性とは、障害を受けた脳の機能を、残された神経回路が補ったり、新たなつながりをつくったりする働きのことです。

作業療法士や理学療法士などは、患者さんの状態に合わせて、運動や日常生活動作の練習を段階的に行います。顔の運動だけでなく、姿勢や歩行、食事、会話など、日常生活全体を視野に入れたリハビリテーションを行い、機能の回復と生活の再獲得を目指します。

末梢性麻痺のリハビリテーション

ベル麻痺などの末梢性麻痺では、顔面神経の回復過程に合わせて、適切なリハビリテーションを行うことが重要です。発症初期は、まず炎症を抑える治療が優先されます。

自己流のケアには注意
  • 早く治そうとして自己流で強くマッサージしたり、表情筋を過度に動かしたりすると、顔に力が入りすぎたり、不自然な動きを助長したりする可能性があります

そのため、専門職による評価のもと、回復の段階に応じて、表情筋の運動や必要な徒手的な介入を進めていきます。また、目が閉じにくい場合は、角膜の乾燥や傷を防ぐための対応も重要です。症状に応じて、点眼薬や眼軟膏、まぶたを保護する方法などが用いられます。

脳梗塞とベル麻痺それぞれの治療・リハビリテーションの流れを示すフローチャート

脳梗塞とベル麻痺の治療・リハビリテーションの流れ

おわりに

顔の歪みは、脳梗塞など命に関わる病気から、ベル麻痺のような末梢神経の障害まで、さまざまな原因で起こります。そのため、見た目だけで原因を判断せず、突然症状が現れた場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

特に、顔の歪みに加えて、手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出にくい、見え方がおかしいといった症状がみられる場合は、脳卒中の可能性があります。その場合は、一刻も早く救急要請してください。

近年は、急性期治療やリハビリテーション医療の進歩により、早期に適切な治療を受けることで、機能の回復や後遺症の軽減が期待できるようになっています。顔の歪みという変化を見逃さず、早期の対応につなげることが、その後の生活を守ることにつながります。

本記事のまとめ
  • 顔の歪みには、脳が原因の「中枢性麻痺」と顔面神経が原因の「末梢性麻痺」があり、症状の現れ方が異なる
  • 額のしわ寄せテストや眼の閉じ方テストは参考になるが、見た目だけで原因を判断することはできない
  • 手足の麻痺・しびれ、ろれつが回らない、視覚異常などを伴う場合は脳卒中を疑い、速やかに救急受診する
  • 脳梗塞は発症から治療開始までの時間が回復に大きく影響し、ベル麻痺も早期のステロイド治療が推奨される
  • 自己流のマッサージなどは避け、専門職による評価のもと段階的にリハビリテーションを進めることが大切

参考文献
  1. 日本神経治療学会ガイドライン作成委員会. 標準的神経治療 ベル麻痺2019. https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/bellmahi2019.pdf
  2. 古川孝俊. 末梢性顔面神経麻痺の診断と治療. 理学療法ジャーナル. 2022;56(12):1456-1462.
  3. 医療情報科学研究所. 病気がみえる vol.7 脳・神経. 東京, メディックメディア, pp.282-283.
  4. Berkhemer OA, Fransen PSS, Beumer D, et al. A Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Ischemic Stroke. N Engl J Med. 2015;372:11-20.
  5. Sullivan FM, Swan IRC, Donnan PT, et al. Early Treatment with Prednisolone or Acyclovir in Bell's Palsy. N Engl J Med. 2007;357(16):1598-1607.
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この記事の著者

瀬川 大

作業療法士 / Ph.D.

プロフィール詳細

1986年兵庫県生まれ。養成校卒業後、作業療法士として医療機関に勤務。臨床での経験を経て、教育と研究の道へ進む。現在は京都光華女子大学 看護福祉リハビリテーション学科 福祉リハビリテーション学科 作業療法専攻に勤務し、地域在住高齢者のフレイル予防や「価値のある活動」を軸とした介護予防プログラムの開発、スマートフォン活用による高齢者のQOL向上支援などに取り組んでいる。

【研究者情報(Researchmap)】
https://researchmap.jp/342

この記事はリハマッチ監督チームにより監修されています

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