脳梗塞の介護において、ご家族が自身の健康を後回しにし、共倒れに陥るケースが多くみられます。 これからは、「一人で背負って頑張る」のではなく、「周囲の力を借りて無理なく長く続けられる形をつくること」が重要となります。 よって、デイサービスやショートステイ、訪問介護といった介護保険サービスを活用し、休息を確保する必要があります。 また、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどの専門職を積極的に頼り、双方が安定して過ごせる毎日を目指していくことが大切です。
はじめに
「介護を休みたいと思うけれど、そんなことを考える自分は冷たい家族なのではないか」、「最近、イライラしてしまう自分が嫌になる」など、リハビリテーションの現場で、ご家族からこのような声を伺うことは少なくありません。
脳梗塞は、日本人の要介護となる原因の上位を占める病気です。近年は急性期での治療やリハビリテーションの進歩により、自宅へ退院できる方が増えています。
一方で、片麻痺によって歩くことが難しくなったり、記憶障害や失語症などの後遺症が残ったりすることもあり、退院後はご家族が介護の中心となるケースも少なくありません。
ご家族は「少しでも良くなってほしい」という思いから、食事や排泄、入浴などの介助だけでなく、転倒予防や服薬管理、通院の付き添いまで、多くの役割を担っています。
私は急性期や回復期の療法士として、多くの患者さんとご家族に関わってきました。 そのなかで強く感じるのは、患者さんの回復を願うあまり、ご家族が自分自身の健康を後回しにしてしまうケースが多いということです。
しかし、介護は短距離走ではなく長距離走です。ご家族が倒れてしまえば、ご本人の生活にも大きな影響を与えてしまいます。
本記事では、介護者の燃え尽き(バーンアウト)や共倒れを防ぎ、無理なく介護を続けるための考え方や工夫について、療法士の視点からお伝えします。
介護疲れは誰にでも起こる ― 家族が知っておきたい現実 ―
「介護疲れ」と聞くと、「自分はまだ大丈夫」と思われる方もいるかもしれません。 しかし、介護疲れは特別な人だけに起こるものではなく、誰にでも起こり得るものです。
特に脳梗塞の介護では、身体介助だけが負担になるわけではありません。 転倒しないかという不安、再発しないかという心配、感情の変化への対応、将来への不安など、目には見えない精神的な負担も積み重なっていきます。 リハビリ中に患者さんが笑顔でも、その横でご家族が疲れ切った表情をしていることがあります。
「夜も何度も起きて見守っています」、「一人で外出したのは何か月前だったか思い出せません」など、 そのようなお話を聞くたびに、ご家族の支援も同じように重要だと感じます。
責任感が強い方は、「家族だから自分がやらなければ」と考え、誰にも頼らず頑張り続けてしまうことがあります。
しかし、介護で最も大切なのは「頑張ること」ではありません。無理なく長く続けられる介護の形をつくることです。そのためには、介護者自身の生活や健康も大切にしなければなりません。
介護者の燃え尽き(バーンアウト)とは?
バーンアウトとは、介護による身体的・精神的な負担が積み重なり、心身のエネルギーを使い果たしてしまう状態です。 最初は「家族のためだから」と前向きに介護を始めても、十分な休息を取らずに頑張り続けることで、次第に疲労が蓄積していきます。
例えば、次のような変化がみられます。
- ▶何をしても疲れが取れない
- ▶趣味を楽しめなくなった
- ▶ご本人に優しく接する余裕がなくなった
- ▶「もう介護をしたくない」と感じる
このような状態は、決して珍しいことではありません。 責任感が強く、人に頼ることが苦手な方は、一人で負担を抱え込みやすい傾向があります。 「自分が休んだら迷惑がかかる」、「家族なのだから当然」という気持ちは自然な思いである一方、自分を追い詰めてしまうこともあります。
私たち療法士は、「頑張ってください」とだけお伝えすることはありません。むしろ、「頑張りすぎないでください」とお話しすることの方が多いくらいです。
共倒れを防ぐために知っておきたい危険サイン
介護者が体調を崩し、ご本人の介護も続けられなくなってしまう状態を「共倒れ」といいます。 共倒れを防ぐためには、早めにサインに気づくことが重要です。
心に現れるサイン
- ▶イライラすることが増えた
- ▶気分が落ち込む
- ▶以前好きだったことが楽しめない
- ▶「一人になりたい」と思うことが増えた
身体に現れるサイン
- ▶腰痛や肩こりの悪化
- ▶慢性的な疲労
- ▶睡眠不足
- ▶食欲低下
また、ご本人に対して強い口調になったり、「もう限界」と感じたりすることも危険なサインです。 これは介護者として失格なのではありません。心と身体が「休息が必要」と伝えているサインです。 無理を続ける前に、他の家族や専門職へ相談することが大切です。
脳梗塞患者によくみられる症状への対応で疲れを減らすコツ
介護負担を減らすためには、脳梗塞の後遺症を正しく理解することも重要です。 例えば、麻痺がある場合、ご家族がすべて介助してしまう場面をよく見かけます。
もちろん安全は大切ですが、ご本人ができることまで介助してしまうと、体を動かす機会が減り、結果として介護量が増えてしまうことがあります。 療法士としては、「できることは自分で行っていただく」ことを大切にしています。
また、高次脳機能障害では、「何度説明しても忘れてしまう」、「段取りよく行動できない」といった症状がみられます。
これは本人の努力不足ではなく、脳の障害による症状です。 失語症では、話したいのに言葉が出ないことがあります。そんなときは急かさず、短い言葉でゆっくり話しかけたり、ジェスチャーや指差しを使ったりすると、お互いのストレスを減らすことができます。
症状を正しく理解することは、ご本人への適切な対応につながるだけでなく、「なぜできないのだろう」という介護者の精神的な負担を軽減することにもつながります。
レスパイト(介護者の休息)は「介護の一部」
「自分だけ休むなんて申し訳ない」、介護をされているご家族から、この言葉を聞く機会は少なくありません。 しかし、介護者の方にぜひ知っていただきたいことがあります。
休むことも、大切な介護の一部です。
レスパイトとは、介護を一時的にほかの人やサービスに任せ、介護者が心身を休める時間を確保するための支援です。 「介護を誰かに任せるのは気が引ける」、「本人が嫌がるから利用しにくい」と感じる方もいますが、介護者が疲れ切ってしまえば、ご本人に十分なケアを続けることは難しくなります。
実際に、デイケアやデイサービスを利用し始めたご家族からは、「久しぶりに美容院へ行けました」、「ゆっくり買い物ができました」、「昼寝をしただけなのに気持ちが楽になりました」といった声をよく伺います。
数時間でも介護から離れる時間があるだけで、心に余裕が生まれます。その余裕は、ご本人への接し方にも自然と表れてきます。 介護は「休まない人」が長く続けられるのではありません。必要なときに上手に休むことが、介護を長く続けることにつながります。
介護保険サービスを上手に活用しよう
介護保険サービスは、ご本人だけのためではなく、介護者を支えるための制度でもあります。 ところが、「まだそこまで困っていないから」と利用をためらう方も少なくありません。疲れてからではなく、疲れる前に利用することが大切です。
介護保険サービスを利用するには、原則として要介護・要支援認定が必要です。まだ認定を受けていない場合は、市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談しましょう。
代表的なサービスには次のようなものがあります。
デイサービス
食事や入浴、レクリエーションなどを通じて、日常生活や社会参加を支援するサービスです。 閉じこもり予防や生活リズムの維持にも役立ちます。提供される内容は事業所によって異なります。
デイケア(通所リハビリテーション)
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などによるリハビリを受けながら日中を過ごします。 身体機能の維持・改善だけでなく、ご家族が安心して休息できる時間にもなります。
ショートステイ
施設に短期間宿泊するサービスです。介護者が体調を崩したときだけでなく、旅行や冠婚葬祭、リフレッシュのために利用することもできます。 希望する日程に利用できない場合もあるため、早めにケアマネジャーへ相談しておくと安心です。
訪問介護
ヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行います。介護者一人で抱え込まなくて済むようになります。 利用できる内容は、ご本人の状態やケアプランによって異なります。
福祉用具・住宅改修
手すりの設置や歩行器、車椅子、介護ベッドなどを活用することで、転倒予防や介助負担の軽減につながります。 私たち療法士も、「この動作なら福祉用具を使った方が安全ですね」、「住宅改修をすると介助が楽になりますよ」とご提案することがあります。 少しの工夫で、介護の負担は大きく変わります。
家族だけで抱え込まないための相談先
介護は一人で頑張るものではありません。困ったときは、遠慮なく専門職へ相談してください。
まず相談したいのがケアマネジャーです。介護サービスの調整だけでなく、ご家族の困りごとにも耳を傾けてくれます。
また、地域包括支援センターは、高齢者とその家族を支える総合相談窓口です。介護保険のことだけでなく、地域で利用できるサービスについても教えてもらえます。
病院や訪問リハビリテーションでは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が介助方法や自主練習、安全な生活動作について具体的なアドバイスを行っています。
必要に応じてカンファレンスが開かれ、ご本人やご家族、医師、療法士、ケアマネジャーなどが、今後の生活や介護サービスの方針について話し合うこともあります。
介護者自身の健康を守るセルフケア
ご本人の体調を気にかけるあまり、自分自身の健康は後回しになっていませんか? 介護者の健康は、ご本人の生活を支える土台です。
まずは可能な範囲で、睡眠時間を確保することを心がけましょう。睡眠不足は集中力や判断力を低下させ、転倒事故や介助中のけがにもつながります。 また、栄養バランスの良い食事や、適度な運動も大切です。長時間の散歩が難しければ、短時間のストレッチなど、無理なくできることから始めてみましょう。
そして、「介護をしない時間」を意識的につくることも重要です。読書や映画鑑賞、園芸、友人との会話など、自分がリラックスできる時間を持つことで、気持ちを整えやすくなります。
また、以下のような症状がある場合は、無理をせず医療機関へ相談してください。
- ▶不眠が続く
- ▶強い疲労感がある
- ▶気分の落ち込みが続く
- ▶涙が止まらない
介護者自身の健康が守られることは、ご本人の生活の安定にもつながります。
長く続けられる介護を目指すために
これまで多くのご家族と関わる中で、私が感じていることがあります。それは、長く安定した在宅生活を続けているご家庭には、「一人で頑張らない工夫」がみられるということです。
具体的には、介護保険サービスを利用し、困ったことはケアマネジャーや医療職へ相談し、ときには思い切って休息を取るなど、周囲の力を上手に借りています。
反対に、「自分だけで何とかしよう」と無理を重ねた結果、ご家族が体調を崩し、在宅生活の継続が難しくなるケースも少なくありません。
毎日すべてを完璧にこなそうとする必要はありません。できることはご本人に任せる、難しいことは専門職や介護サービスに頼る、疲れたら休む。こうした積み重ねが、介護を長く続けるための大切なポイントです。
私たち療法士は、ご本人だけでなく、ご家族も支援の対象だと考えています。「こんなことを相談してもいいのかな」と思うようなことでも構いません。 介助方法や生活上の工夫、福祉用具の活用方法など、一緒に考えることができます。
介護者自身の健康が守られることは、ご本人の生活の安定にもつながります。「少し休んでみよう」、「誰かを頼ってみよう」と思うことは、決して逃げではありません。 それは、ご本人との生活をこれからも大切に続けていくための前向きな選択です。
介護は一人で背負うものではありません。周囲の力を借りながら、ご本人とご家族の双方が無理なく過ごせる毎日を目指していきましょう。
- ✓脳梗塞の介護では、身体的負担だけでなく再発への不安など精神的な負担も積み重なりやすい
- ✓介護者の燃え尽きや共倒れには、心と身体に現れるサインがあり、早めに気づくことが大切
- ✓後遺症を正しく理解し、できることはご本人に任せることで介護負担を減らせる
- ✓休むことも介護の一部。デイサービスやショートステイなどのレスパイトを積極的に活用する
- ✓ケアマネジャーや地域包括支援センターなど、頼れる専門職や相談先を持っておく
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会,脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕.協和企画.2023.
- 厚生労働省,介護保険制度の概要.2024.
- 厚生労働省,令和5年 国民生活基礎調査の概況.2024.
- 牧迫飛雄馬,阿部 勉,阿部恵一郎,他.在宅要介護者の主介護者における介護負担感に関与する要因についての研究.日本老年医学会雑誌.2008;45(1):59-67.
- Rigby H, Gubitz G, Phillips S. A systematic review of caregiver burden following stroke. International Journal of Stroke.2009;4(4):285-292.
脳梗塞の後遺症を介護されているご家族や、日々の介護負担でお悩みの方へ
脳梗塞の在宅介護は、身体的な介助だけでなく、再発への不安や精神的な負担も大きく積み重なるものです。「家族だから自分が頑張らなければ」と一人で抱え込み、疲れやストレスを感じていませんか?
リハマッチでは、脳血管疾患のリハビリ経験が豊富な理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が、ご本人の「できること」を増やす最適なリハビリプランをご提案します。ご本人の自立を促すことで介護負担を軽減し、ご家族が無理なく休息(レスパイト)を取れる持続可能な生活をサポートします。
「負担の少ない介助方法を学びたい」「自宅での安全な動き方をプロに相談したい」など、ご家族の健康を守りながら、長く安定した在宅生活を続けるためのサポート体制の詳細は、以下のページからご確認いただけます。
