圧迫骨折は、受傷直後の痛みだけに注意すればよいとは限りません。一部では骨折した椎体が十分に癒合せず、偽関節や遅発性の椎体圧潰を起こし、時間がたってから神経症状が現れることがあります1)2)。
骨片や椎体変形によって脊髄・神経根・馬尾が圧迫されると、下肢のしびれや筋力低下、歩行障害、サドル麻痺、排尿・排便障害などがみられることがあります1)3)。
急速に進む脚の力の入りにくさ、歩けなくなってきた、会陰部の感覚低下、新しく出現した排尿・排便障害は、早急な医学的評価が必要なサインです4)5)。
圧迫骨折後に症状が変化した場合は古い骨折だからと自己判断せず、神経症状が加わっていないか確認することが大切です。
はじめに
圧迫骨折は時間がたてば治ると思われがちですが、一部では骨折した椎体が十分に癒合(骨がくっつくこと)せず時間がたってから痛みが再び強くなったり、脚のしびれや筋力低下などの神経症状が現れたりすることがあります1)。
特に注意したいのが、骨粗鬆症性椎体骨折後の偽関節や遅発性神経障害(怪我をして数日後にみられる麻痺)です。
この記事ではなぜ古い圧迫骨折から神経症状が出ることがあるのか、偽関節とはどのような状態なのか、下肢の麻痺や排尿障害はなぜ起こるのか、どのような症状が出たら早めに医療機関を受診すべきなのかをできるだけわかりやすく解説します。
圧迫骨折は「骨がつぶれる」だけではない
圧迫骨折では、骨粗鬆症などによって弱くなった背骨の椎体がつぶれるように骨折します。多くは保存的な治療で改善しますが、すべての骨折が順調に治るわけではありません。
骨折した部分が十分に癒合せず、椎体の中に動きが残ったり、さらに椎体がつぶれたりすることがあります3)。こうした状態が続くと慢性的な腰背部痛だけでなく、神経症状につながることがあります。
偽関節とは何か
骨折した骨は通常、時間とともに癒合して安定していきます。しかし、骨折部がうまく癒合せず、不安定な状態が長く残ることがあります2)。
これを偽関節と呼びます。
骨粗鬆症性椎体骨折では骨そのものが弱いことに加え、骨折した椎体の後ろ側まで損傷している場合などでは、偽関節になるリスクが高くなることが報告されています3)。
偽関節になると、体を起こしたり動いたりするたびに骨折部に動きが生じ、痛みが続くことがあります。
椎体の圧潰が進むと骨の一部が脊柱管側へ突出し、神経を圧迫することがあります3)。
なぜ時間がたってから麻痺が起こるのか
圧迫骨折をした直後には脚の麻痺がなくても、数週間から数か月後に神経症状が現れることがあります1)3)。これを骨折後遅発性神経障害、あるいは遅発性麻痺と呼びます。
原因の一つが、骨折した椎体のさらなる圧潰です。椎体が徐々につぶれて後方に変形すると、骨片が神経の通り道である脊柱管へ突出することがあります。
また、偽関節によって骨折部に不安定性が残ること自体が、神経への負担につながる場合があります。その結果、脚のしびれ、脚の筋力低下、歩きにくさ、立てなくなる、排尿・排便障害などが出現することがあります1)3)。
国内の前向き多施設研究では、骨粗鬆症性椎体骨折による神経障害108例のうち障害された神経は脊髄22例、神経根54例、馬尾18例、混合型14例とさまざまでした1)。
圧迫骨折後に注意したい症状
圧迫骨折の症状というと腰や背中の痛みをイメージしやすいですが、神経が圧迫され始めると症状が変わってきます。特に注意したいのはそれまで歩けていたのに歩きにくくなった、脚に力が入りにくくなった、脚のしびれが新しく出てきた、または広がってきた、つまずくことが増えた、立ち上がることが難しくなった、痛みがいったん改善した後に再び強くなったといった変化です。
骨折から時間がたっているから関係ないと考えず、新しく神経症状が出た場合には再評価が必要です。
サドル麻痺とは
さらに重要な症状の一つがサドル麻痺です。サドルとは、自転車や馬の鞍にまたがったときに触れる部分を意味します。具体的にはお尻、会陰部、肛門のまわり、太ももの内側などの感覚が鈍くなったり、分かりにくくなったりする状態です4)。
この領域の感覚を担う神経は、排尿や排便に関わる神経とも近いため、サドル麻痺は馬尾神経の障害を疑う重要なサインの一つです。
排尿障害はなぜ重要なのか
脊柱管の中には、脚だけでなく膀胱や直腸の働きに関係する神経も走っています。そのため、圧迫骨折による椎体変形や骨片によって馬尾神経などが強く圧迫されると尿が出にくい、尿がたまっているのに分かりにくい、急に尿を漏らすようになった、便が出しにくい、肛門周囲の感覚が分かりにくいといった症状が現れる可能性があります4)5)。
また、腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインでも馬尾障害では膀胱直腸障害が生じることがあるとされています5)。
新しく出現した排尿・排便障害とサドル麻痺、脚の筋力低下が組み合わさっている場合は、早急な医学的評価が必要です。
緊急受診を考えるサイン
圧迫骨折の経過中に、次のような症状が新しく出現した場合には注意が必要です。
①脚の力が急に弱くなった
昨日まで歩けていたのに歩けない、膝が崩れる、足首が上がらないなど、筋力低下が進んでいる場合です。
②両脚のしびれが広がってきた
片脚だけだった症状が両脚へ広がるような変化には注意します。
③サドル麻痺が出てきた
お尻や会陰部、肛門周囲の感覚が鈍くなった場合です。
④排尿・排便の状態が急に変わった
尿が出なくなった、尿意が分かりにくい、突然失禁するようになったなどの変化です。
⑤急速に歩けなくなってきた
痛みだけではなく脚の力が入らず歩行能力そのものが低下している場合には、神経障害の有無を確認する必要があります。
これらの症状があれば必ず手術になるわけではありません。しかし、神経が圧迫されている可能性があるため、様子を見続けるのではなく早急に脊椎・脊髄を診療する医療機関で評価を受けることが重要です4)5)。
自宅でも確認できる神経症状の変化
圧迫骨折後の神経症状を早く発見するためには、昨日までできていたことができなくなっていないかを見ることが大切です。いつもと同じように立ち上がれるか、歩く距離が急に短くなっていないか、片脚立ちや階段が急に難しくなっていないか、足首や足の指を動かしにくくなっていないか、左右で触った感覚に違いがないか、排尿や排便に変化がないかなどです。
しかし、自宅での確認は診断のための検査ではありません。異常を感じた場合には、自己判断で経過を見るのではなく医療機関に相談してください。
痛みが再び強くなったときも注意
神経症状だけでなく、一度改善していた腰背部痛が再び強くなることも重要な変化です。圧迫骨折後に痛みが長く続く場合や、いったん改善した痛みが再び強くなった場合には、偽関節や椎体圧潰の進行などが隠れている可能性があります2)3)。
特に、痛みに加えて脚のしびれや筋力低下が加わった場合には、改めて画像検査や神経学的評価を受けることが重要です。
「古い圧迫骨折だから大丈夫」とは限らない
圧迫骨折は、受傷直後だけ注意すればよい疾患ではありません。骨折後しばらくしてから椎体の圧潰や偽関節が明らかになり、遅れて神経障害が出現することがあります。
そのため、数か月前の圧迫骨折だから関係ないと考えるのではなく、新しい症状が出たときには過去の圧迫骨折も含めて医療者に伝えることが大切です。
手術が必要になるのはどのような場合か
圧迫骨折があるからといって、すべての患者さんに手術が必要になるわけではありません。しかし、椎体の圧潰や骨片の突出、不安定性によって神経が圧迫され、進行する麻痺などが生じた場合には、除圧や脊柱再建を含む手術が検討されることがあります3)。
骨粗鬆症性椎体圧迫骨折後の遅発性脊髄麻痺について、圧壊椎体後壁の脊柱管内突出と局所不安定性を主な病態として報告があります3)。
実際に手術が必要かどうかは麻痺の程度と進行速度、脊髄や馬尾の圧迫の程度、骨折した椎体の不安定性、痛みの程度、全身状態、年齢、骨粗鬆症の程度などを総合して判断します。
大切なのは手術になるかどうかを自分で判断することではなく、神経症状の予兆を見逃さず、必要なタイミングで専門医の評価につなげることです。
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- ✓圧迫骨折の多くは保存的治療によって改善しますが、一部では骨折した椎体が十分に癒合せず、偽関節や遅発性の椎体圧潰を生じることがあります。
- ✓骨片や椎体変形によって脊髄、神経根、馬尾などが圧迫され、骨折から時間がたってから脚のしびれ、筋力低下、歩行障害などの症状が出現する場合があります。急速に進む脚の筋力低下、歩けなくなってきた、サドル麻痺、新しく出現した排尿・排便障害は見逃したくない症状です。
- ✓これらは必ずしも緊急手術が必要という意味ではありませんが、神経障害を見逃さないために早急な医学的評価が必要です。圧迫骨折の症状は、腰や背中が痛いだけではありません。骨折後に症状が変わってきたときには年齢のせい、昔の骨折だからと自己判断せずに神経症状が加わっていないかを確認することが大切です。
- 菅野晴夫, 兵藤弘訓, 田中靖久,他. 骨粗鬆症性椎体骨折による神経障害の疫学的特徴―前向き多施設研究―. Journal of Spine Research. 2025;16(5):781-787.
- 若尾典充, 酒井義人, 松井寛樹, 他.骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節の危険因子,発生率,ADLへの影響. Journal of Spine Research. 2021;12(5):744-750.
- 富永俊克, 片岡秀雄, 船場真裕, 他. 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折後遅発性脊髄麻痺に対する再建術;当科の術中の工夫について. 整形外科と災害外科. 2014;63(3):443-446.
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- 日本整形外科学会, 日本脊椎脊髄病学会 監修. 腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版. 東京: 南江堂; 2021.
