加齢や活動量低下により筋肉量や筋力が減少する「サルコペニア」は、つまずきやペットボトルの蓋が開けにくいといった症状を引き起こし、要介護リスクを高めます。ふくらはぎの「指輪っかテスト」や片足立ちで簡単にセルフチェックが可能です。予防と改善には、筋肉の材料となるタンパク質を中心とした栄養摂取と、スクワットなどの抗重力筋を鍛える筋力トレーニングの継続が不可欠であり、健康寿命を延ばす鍵となります。
はじめに
「何もないところでつまずくようになった」「歩くのが遅くなった」「ペットボトルの蓋が開けにくくなった」、このような変化はありませんか?
「年齢のせいだから」と見過ごされがちですが、こうした変化には、筋肉量や筋力が低下する「サルコペニア」が関係している可能性があります。サルコペニアが進むと転びやすくなり、骨折や、将来的に介護が必要になるリスクが高まります。
サルコペニアを早い段階から予防することは、いつまでも元気に自分らしく生活するために大切です。今回は、サルコペニアの原因や症状、自宅でできるチェック方法、予防・改善のための運動と食事について分かりやすく解説します。
サルコペニアとは
サルコペニアとは、加齢などに伴って筋肉の量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態です。筋肉量は20代でピークを迎え、一般的に70歳までに、20代と比べて筋肉の量は約25~30%、筋力は約30~40%低下するといわれています。また、50歳以降は、筋肉量が毎年1~2%程度減少するとされています1)。
高齢になると、筋力が落ちたことを自覚する機会が増え、「手足が細くなった」「重い物を持ちにくくなった」「椅子から立ち上がりにくくなった」などの変化を感じるようになります。
実際に、65歳以上の高齢者の約15%がサルコペニアに該当するといわれています。2019年時点の高齢者人口をもとにすると、国内で約500万人に上ると推計されます2)。サルコペニアは、決して珍しいものではありません。
サルコペニアの原因と症状
サルコペニアの原因は、「一次性」と「二次性」の2つに分けられます。
一次性サルコペニア
加齢によって筋肉量や筋力が低下するもので、加齢以外に明らかな原因がない状態です。
二次性サルコペニア
加齢だけでなく、次のような原因によって筋肉量や筋力が低下する状態です。
- ▶活動量の低下:病気やケガによる長期間の安静、寝たきりなど
- ▶栄養不足:食欲不振などによる、タンパク質やエネルギーの不足
- ▶病気の影響:心疾患、肺疾患、がん、肝臓病、糖尿病などの慢性疾患や炎症を伴う病気
特に二次性サルコペニアでは、筋肉を維持するための栄養が不足することや、身体を動かす機会が減ることが大きく関係します。そのため、高齢者だけでなく、過度なダイエットや偏った食生活、運動不足が続いている若い世代でも、筋肉量や筋力が低下する可能性があります。
サルコペニアによって筋力や身体機能が低下すると、日常生活の中に次のような変化が現れます。
- ▶転びやすくなった、何もないところでよくつまずく
- ▶歩く速度が遅くなった
- ▶横断歩道を青信号の間に渡りきれなくなった
- ▶ペットボトルのキャップが開けにくくなった
- ▶手すりにつかまらないと階段を上がりにくくなった
- ▶手足やふくらはぎが細くなった
- ▶食事のときに飲み込みにくさを感じるようになった
これらの変化は「年齢のせい」と見過ごされがちですが、サルコペニアが関係している可能性もあります。当てはまる項目がある方は、次に紹介する方法で確認してみましょう。
自宅でできる筋力と身体機能3つのチェック方法
自宅でできる簡単なチェックを3つ紹介します。ただし、これらの結果だけでサルコペニアと診断することはできません。転倒しそうな不安がある方や、足腰に痛みがある方は無理に行わず、家族や医療者に相談してください。
4-1. ふくらはぎの「指輪っかテスト」
ふくらはぎの太さは、筋肉量の目安になります。指輪っかテストは、両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの最も太い部分を囲む簡単な方法です。
手順
- 椅子に座り、利き足ではない方のふくらはぎを出す
- 両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの最も太い部分を囲む
- 指の輪とふくらはぎの間に隙間ができるか確認する
指の輪とふくらはぎの間に隙間ができる場合は、筋肉量が少なくなっている可能性があります。「ちょうど囲める」場合も、ほかの症状がないか確認してみましょう。
4-2. 片足立ちテスト
片足立ちテストでは、バランス機能や足の筋力を確認できます。転倒を防ぐため、壁や安定した椅子の近くで行いましょう。
手順
- 素足で滑りにくい床に立ち、両手を腰に当てる
- 立ちやすい側の足で立ち、もう一方の足を床から5cmほど上げる
- 目を開けたまま、片足で立っていられる時間を測る
8秒未満の場合は、バランス機能や足の筋力が低下している可能性があります。ふらついた場合は、すぐに足を床につけ、無理に続けないでください。
4-3. 椅子からの立ち上がりテスト
椅子からの立ち上がりテストでは、主に足の筋力や身体機能を確認します。
手順
- ひじ掛けのない安定した椅子に座り、両腕を胸の前で交差し、足を肩幅程度に開く
- 椅子から立ち上がり、再び座る
- この動作を5回繰り返し、かかった時間を測る
5回の立ち座りに12秒以上かかる場合は、足の筋力や身体機能が低下している可能性があります。手を使わないと立ち上がれない場合も、筋力低下のサインです。転倒しそうな場合は、無理に行わないでください。
これらのチェックで気になる結果があった場合や、日常生活で筋力の低下を感じている場合は、かかりつけ医などに相談しましょう。医療機関では、握力や専用の機器による筋肉量の測定などを行い、サルコペニアに当てはまるかを調べます。
これらのチェックリストに複数引っかかった場合は、握力や骨格筋量を調べることで、自分がサルコペニアになっているかを調べることができます。サルコペニアの診断基準は、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS2025)3)が用いられます。詳しい検査は骨格筋量を調べることができる機械での評価が必要であるため、整形外科やかかりつけ医に相談してみましょう。
セルフチェックで気になる結果があった方や、日常生活に不安を感じている方は、専門家に相談することが安心につながります。リハマッチでは、歩行不安定・転倒予防や筋力低下といったお悩みに合わせて、理学療法士など国家資格をもつ専門家をご紹介しています。
サルコペニアと健康寿命の関係性
健康寿命とは、介護を必要とせず、自立して生活できる期間のことです。サルコペニアは、この健康寿命にも大きく関係します。
日本人の高齢者を追跡した研究では、サルコペニアのある人は、ない人と比べて、死亡するリスクが男性で2.0倍、女性で2.3倍高いことが示されています。また、要介護になるリスクも、男性で1.6倍、女性で1.7倍高いことが報告されています4)。
そのほかの研究でも、サルコペニアは、転倒や骨折の増加、身体機能の低下、入院期間の長期化などと関係することが分かっています。ただし、サルコペニアがある人すべてが、骨折したり介護が必要になったりするわけではありません。
筋力が低下すると、転びやすくなり、骨折する可能性が高まります。骨折の状態によっては、手術や入院、リハビリが必要になります。順調に回復して元の生活に戻れる方がいる一方で、高齢者では低栄養や体力低下などの影響により、回復に時間がかかることもあります。その結果、以前と同じ生活に戻ることが難しくなり、介護が必要になる場合もあります。
健康寿命を延ばし、できるだけ長く自分らしい生活を続けるためにも、サルコペニアを早い段階から予防し、筋力や体力を維持することが大切です。
サルコペニアの予防・改善方法
サルコペニアの予防・改善で大切なのは、「運動」と「栄養」です。筋肉を動かすことと、筋肉の材料になる栄養を十分に取ることを組み合わせて取り組みましょう。
6-1. サルコペニアを予防・改善する筋力トレーニング
サルコペニアの予防・改善には、筋力トレーニングが役立ちます。特に大切なのが、立つ、歩く、姿勢を保つときに働く「抗重力筋」です。抗重力筋には、体幹の筋肉や、太もも・お尻などの大きな筋肉が含まれます。
高齢者でも、筋力トレーニングを続けることで、筋力や筋肉量の改善が期待できます5)。特別なマシンを使わなくても、自分の体重を利用した運動から始めることができます。スクワットやかかと上げは、足腰の筋肉を鍛えやすく、自宅でも取り入れやすい運動です。
まずは週2~3回を目安に、無理のない回数から始めましょう。転倒が心配な方は、安定した椅子や手すりにつかまって行ってください。足腰に痛みがある方や、治療中の病気がある方は、始める前に医師や理学療法士などへ相談しましょう。
筋力トレーニングで最も大切なのは、継続することです。運動をやめると、得られた効果は少しずつ失われてしまいます。日頃から座っている時間を減らし、ウォーキングや買い物、趣味などで身体を動かすことも心がけましょう。
自己流のトレーニングに不安がある方や、より効果的に筋力を維持・改善したい方は、専門家によるサポートを受けるのも一つの方法です。リハマッチの自費リハビリでは、一人ひとりの体力や生活状況に合わせた運動指導を行う理学療法士などをご紹介しています。
6-2. サルコペニアを予防・改善する栄養について
サルコペニアの予防・改善には、食事も大切です。高齢になると食事量が減り、必要なエネルギーや栄養が不足しやすくなります。できるだけ3食に分けて、バランスよく食べましょう。
特に意識したいのが、筋肉の材料になるタンパク質です。肉、魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品などを、毎食の中に取り入れましょう。肉や魚は、1食につき手のひら一枚分程度が、おおよその目安になります。朝食でタンパク質が不足しやすい方は、卵、納豆、ヨーグルト、牛乳などを加える方法もあります。
タンパク質だけでなく、ビタミンD、ビタミンB群、鉄、亜鉛、マグネシウムなども、筋肉や骨、身体の働きを保つために必要です。特定の栄養素だけを取るのではなく、主食、主菜、副菜を組み合わせた食事を心がけましょう。
一度に十分な量を食べられない場合は、間食を利用して栄養を補う方法もあります。ただし、腎臓病などで食事やタンパク質の制限を受けている方は、自己判断で摂取量を増やさず、医師や管理栄養士に相談してください。
- ✓サルコペニアは加齢や病気による活動量低下・低栄養によって、誰にでも起こる可能性がある
- ✓サルコペニアになると健康寿命が短くなり、元気な体を維持することが難しくなる可能性がある
- ✓予防・改善の基本は「運動」と「栄養」であり、良く食べ、良く動くことが大切
- ✓年齢とともに活動量・食事量は減っていくため、日頃の生活習慣を見直し、早めの予防を心がける
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