要約
足のしびれや痛みは単なる老化ではなく、高血糖で神経や血管が傷つく糖尿病性神経障害の重要なサインかもしれません 。ピリピリ感、火照り、つまずき、冷えなどは左右対称に現れやすく、放置すると感覚低下により傷や感染を見逃すリスクが高まります 。よって、日々の足の観察や靴選び、つま先上げ等の運動を習慣化し、足病変を未然に防ぐ必要があります 。歩行不安があれば医師や理学療法士等の専門職へ相談し、歩く力を守りましょう 。
はじめに:その足の違和感、見過ごしていませんか?
「足先がピリピリする」、「足の裏に薄い靴下を一枚はいているような感じがする」、「夜になると足がジンジンして眠りにくい」、このような症状はありませんか。
足の違和感には、腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの整形外科的な疾患、血流の問題、末梢神経の病気など、さまざまな原因があります。その中で見落とされやすい原因の一つが、糖尿病による神経の障害です。
糖尿病は、初期には自覚症状が少ない病気です。しかし、血糖値が高い状態が長く続くと、足先の神経や細い血管が少しずつ傷つき、しびれ・痛み・感覚の鈍さとして現れることがあります。糖尿病性神経障害は糖尿病の合併症の中でも頻度が高く、糖尿病の経過が長くなるほどみられやすくなります。
本記事では、糖尿病で足に症状が出る理由、初期症状のセルフチェック、そして足を守るために今日からできる工夫を、リハビリ専門職の視点からわかりやすくお伝えします。
糖尿病でなぜ足に症状が出るの?
私たちの体には、脳や脊髄から手足の先まで伸びている「末梢神経」があります。末梢神経は、痛みや温度を感じたり、足が地面についている感覚を伝えたり、筋肉を動かしたりする大切な役割をもっています。
糖尿病になると、エネルギーとして使われるはずの糖がうまく体に取り込まれにくくなり、血液の中に糖が多い状態、つまり高血糖が続きます。高血糖の状態が長く続くと、神経の中に不要な物質がたまり、神経そのものが傷つきやすくなります。
さらに、神経に酸素や栄養を届けている細い血管の流れも悪くなります。その結果、神経が十分に働けなくなり、「糖尿病性末梢神経障害」と呼ばれる状態が起こります。
末梢神経障害は、体の中でも足先や足裏から症状が出やすいとされています。足先の神経は長く、体の末端にあるため、高血糖の影響を受けやすいからです。ここでは、気づきやすい変化を「しびれ・痛み」、「歩きにくさ」、「足の皮膚や血流の変化」、「こむら返り」の4つに分けてみていきます。
糖尿病性神経障害でみられやすい症状
しびれ・痛み・感覚の鈍さ
まず多いのは、足先や足裏のしびれ、ピリピリ感、ジンジンする痛みです。足の裏に薄い紙や靴下が一枚あるように感じたり、夜になると足が焼けるように痛んだりすることもあります。糖尿病による神経障害では、症状が足先から始まり、左右両方に同じように出ることがあります。
進行すると、痛みよりも「感じにくさ」が問題になることがあります。
足の感覚が鈍くなると、靴ずれや小さな傷、熱さ、冷たさに気づきにくくなります。「痛くないから大丈夫」と思っていても、実は足に傷ができていることがあるため注意が必要です。
つまずきやすい・歩きにくい
糖尿病による神経障害は感覚だけでなく、足を動かす力にも影響することがあります。足の指や足首を動かす筋肉が弱くなると、つまずきやすい、足が上がりにくい、歩くと疲れやすい、ふらつきやすいといった変化が出ることがあります。
足裏の感覚が鈍くなると、足が地面についている感覚もわかりにくくなるため、暗い場所や段差でバランスを崩しやすくなります。
足の冷え・乾燥・傷の治りにくさ
さらに、神経や血流の働きが乱れることで、足の冷え、皮膚の乾燥、ひび割れ、傷の治りにくさがみられることがあります。足の色が悪い、足の毛が薄くなった、歩くとふくらはぎが痛むといった変化がある場合は、血流の問題が関係していることもあります。
こむら返りは糖尿病と関係する?
こむら返りとは、ふくらはぎなどの筋肉が急に強く縮み、痛みを伴う状態です。運動不足、筋肉の疲れ、水分不足、冷えなどでも起こるため、足がつるからといって、すぐに糖尿病と決めつけることはできません。
ただし、糖尿病がある方では、神経の働きの乱れや足の血流低下が関係して、こむら返りが起こりやすくなることがあります。
特に、「歩くとふくらはぎが痛む・つる」、「少し休むと楽になる」、「片方の足だけ症状が強い」という場合は、足の血流の問題が隠れていることもあります。繰り返す場合は、医療機関で相談しましょう。
どんな症状に注意すればいい?セルフチェック
糖尿病による神経障害や血流障害でみられやすい症状をまとめたものです。「当てはまる=糖尿病」と確定するものではありませんが、複数チェックがつく場合や、糖尿病・高血圧・脂質異常症・喫煙歴がある方は、医療機関への相談をお勧めします。

※このチェック表は、診断を目的としたものではありません。症状が続く場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。
こんな症状があれば早めに受診を
足の感覚が鈍くなると、傷や感染があっても自分では気づきにくくなります。次のような症状がある場合は、自己判断で様子を見ず、早めに医療機関へ相談しましょう。片側だけ急にしびれる、力が入らないといった症状は、脳や脊髄の病気が隠れていることもあるため、特に注意が必要です。

足を守るために今日からできること
足のしびれや感覚の鈍さがある場合は、症状を確認するだけでなく、足を守る生活習慣をつくることも大切です。
まずは、入浴後などに足裏、指の間、かかとを見て、傷や赤み、水ぶくれがないか確認しましょう。足の感覚が鈍くなると、靴ずれや小さな傷に気づきにくくなるためです。
また、きつい靴や縫い目の硬い靴下は、足に負担をかけることがあります。つま先に少し余裕がある靴を選び、靴を履く前には中に小石や異物が入っていないか確認しましょう。
運動は、血糖管理だけでなく、足の筋力やバランスを保つためにも役立ちます。足首の曲げ伸ばし、つま先上げ、かかと上げ、椅子からの立ち座り、短時間のウォーキングなど、無理のない範囲から始めてみましょう。
ただし、足に傷がある、痛みが強い、感覚がかなり鈍い場合は、医師や理学療法士に相談してから行うことが大切です。
リハビリ専門職に相談できること
理学療法士や作業療法士は、足のしびれそのものを診断する職種ではありません。しかし、しびれや感覚低下によって起こる「歩きにくさ」、「つまずきやすさ」、「転びやすさ」、「生活動作の不安」などに対して、身体機能や生活環境の面から支援することができます。
たとえば、足の筋力、バランス、歩き方、靴の影響、家の中で転びやすい場所などを確認し、その人に合った運動や生活上の工夫を一緒に考えます。「まだ歩けるから大丈夫」と思っている時期こそ、歩く力を守るための大切なタイミングです。
おわりに
手足のしびれや足の痛みは、必ずしも糖尿病だけが原因ではありません。腰の病気、血流の問題、神経の病気など、さまざまな原因が考えられます。
しかし、糖尿病による神経障害は、自覚しにくいまま進むことがあります。「なんとなく足がおかしい」、「最近つまずきやすい」、「足の傷に気づきにくい」といった小さな変化は、大切なサインかもしれません。
早めに気づき、血糖管理、足の観察、靴の見直し、無理のない運動を続けることは、足を守り、歩く力を保つことにつながります。
不安な症状がある場合は、一人で判断せず、医師に相談しましょう。歩きにくさや転倒への不安がある場合は、理学療法士・作業療法士などのリハビリ専門職に相談することも選択肢の一つです。
参考文献
- 神谷英紀,中村二郎:糖尿病性神経障害の診断.愛知県医師会報,2018.
- 日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2024.第10章 糖尿病性神経障害.南江堂,2024.
- 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター):糖尿病足病変.
- 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター):フットケア.
- 日本循環器学会・日本血管外科学会合同ガイドライン:2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン
